68話
「一人で行っちゃ駄目よ、手を繋ぎましょうか」
こう言う雰囲気は初めてなのか、きょろきょろと、興味を持った方向へ歩いていってしまいそうにしているのは、フリルがたくさん飾られた白いワンピースを着た十代前半に見える少女だ。
その少女の手を引きながら、微笑ましげに笑むと、周りの人混みに目を向ける。
「さて、まずは桜子ちゃんたちを捜そうかしら……朱雀とディルムッドはちゃんとエスコートしてるといいけど」
犬の始末を終え、巻き込まれてしまった一般人の記憶消去を済ませた魔女、メディアの姿が其処に在った。
場所は大阪が誇る一大アミューズメントパークである
エリアごとにテーマに応じた映画セット等があり、映画に登場した架空の街並みを再現した夢の国だ。
手を繋いだセクストゥムも興味があるのか、着ぐるみを着たパークのキャラクターを目で追っており。
「あれは魔法世界人ですか?」
「いえ、旧世界人よ、ぬいぐるみを着てると思えば良いかしら」
様々なキャラクターが手を振りながら歩いているのを見て、魔法世界の知識も多少はあるのか、首を傾げるセクストゥム。
まだ出会ったばかりだが、色々と知識が不足しているように思えるため、メディアは魔法の秘匿についての説明を細々と行い。
「理解した」
「そう……理解力は高いのね」
たまに漏れ出るメディアも知らないような単語を何処で学んだかは不明だが、セクストゥムは頭の回転が速く。
無垢な様子と合わせて考えれば、稼動したてなのだろうと判断する……
「まぁ、良いわ、順番に……あら」
メディアのポケットで携帯電話が着信音を奏で上げる。それを確認すると通話ボタンを押して耳に当てる。
軽く指を振れば、周りの喧騒は遠ざかり。
「もしもし、このかちゃん? どうかしたの? …………回復用の魔法薬、あるけど、誰か怪我でもしたの? 大丈夫? 回復魔法が効かないとか? ……西の本山なら備えくらいあると思うのだけど……まぁ、そうなの、大変なのね。別に良いけど、今度お願い聞いてもらえる? ……ふふ、冗談よ、気にしなくて良いわよ、ホテルに何本かあるんだけど……ちょっと、刹那ちゃんに代わってもらえるかしら……」
にこにこと、柔和な笑みを浮かべながら電話で会話をするメディア。
けれど、直後、携帯電話の通話口に向けられる笑みを消し去ると、声のトーンを落とし。
「アルバムが欲しいわね……本山に居るなら父親とか居るんでしょう、話をつけなさい、中学以前の全部よ……そう、ホテルの1班の部屋に何本かあるわ……救急箱に入れておいてあるから……風邪薬よりよく効くのよ、イクシールって言うのを栄養ドリンクの瓶に詰め替えてあるわ、魔力があるから見ればわかるでしょう、桜子ちゃん達が使ってなければ5本はあったはず……分かってると思うけど、子供先生は入れないでね、罠が起動するわよ……それと、オコジョとハリセンと脳筋も……アルアル言ってた子よ……ああいう子苦手なの……そ、くれぐれもあなた以外が部屋に入ると危険だと言うことは覚えておきなさい」
通話を切ると、改めて笑みを浮かべるメディア。
これで、木乃香は感謝しただろうし、コレクションも充実する、本山の回復用魔法薬が奪われたと言うのは初耳だが、もともと内部不和の大きい組織のため、そういうことも有り得るだろう。
「アルバムと言うのは、それほど貴重なものですか?」
「うん、そうね、内容によって千差万別だけど、このかちゃんのは価値が高いわね」
「イクシール5本……高価ですね」
「そんなに高い物だったかしら」
元々、金銭には全く不自由しないため……稼いでいるのは朱雀と桜子の金運だが……最上級のものを取り揃える事は苦もなく、万一の怪我や病気に備えて薬等は万全を備えているため、一番良いものを周りに置くことは怠っていない。
更に言うならば、市販されている魔法薬よりもメディア自身が作成した魔法薬の方が効果が高いため、実際にはイクシール以上に効果の高い魔法薬も備えている。
回復魔法以外にも様々な魔法薬を所有している、謀略を得意とするため、毒薬や気分を変える薬、変わったところでは飽食しても身体に変化をもたらさない魔法薬などもある。
「確か、手元にあるので魔法世界で取引されてるのはアレくらいなのよね」
実際のところは、ホテルにある物の中で、渡して一番無難なものを選んだ結果だった、ただそれだけで。
「萌え産業が上り調子なのも頷けます」
「モエ産業……そんな企業だったかしら」
セクストゥムの言葉をスルーしつつも、カメラ片手に愛娘達を求めて歩き出す。
やがて。
「うぅ……失敗やった……ごめんなぁ」
「ま、アミューズメントパークの料理じゃあんなもんでしょ」
「ええ、十分かと」
目に留まったのは、消沈した様子の和泉達4班の面々だ、ディルムッドを連れ立っているため目立っている、龍宮も背が高いため頭一つ抜けて見えて。
「ディルムッド、ちゃんとエスコートしてるの?」
「あ、メディアさ……て、うわ可愛い」
「おおっ、本当だ、お人形さんみたい」
明石と佐々木が驚いた様子でセクストゥムに目を向ける、先までの学生服のような装いではなく、メディアの趣味でフリルの多い衣裳に可愛らしく飾り立てられている。
それは良いのだが、何故か和泉が消沈した様子で。
「どうかしたの?」
「いえ、ちょっと……」
気になったので龍宮の方に軽く近付けば、和泉が消沈した様子の訳は教えてもらえた。
お昼になったので何処かで食事をとろうと言う話になった、ハンバーガー程度で済ませる予定だったのだが、お好み焼きバーガーなる奇抜なチャレンジに挑んでいるカートを発見。
大阪のお好み焼きに外れは無いと和泉が断言したので、それを試してみ。
「……散々な代物だったわけね」
「あれは……ちょっと無いな、今直ぐ返金を要求したいくらいだ」
龍宮がそこまで言うのだから余程の代物だったのだろう、実際班員は皆、微妙な表情をしている、薦めてしまった和泉にすれば立場が無いのだろう。
「……そうねぇ……和泉さんはこっちの出身かしら」
「はい、昔住んでたことがあって……お好み焼き、美味しいんですよ」
「じゃぁ、これからみんなで食べに行きましょうか」
にこにこと、提案するメディア、周りが少し首を傾げるが、消沈した様子の和泉を見ているのはメディアとしては嫌なのだ。
こういう可愛らしい女の子は笑っている方が良い。
「ディルムッド、車で来ているわよね」
「はい、グループ系列ホテルに止めてあります」
「大阪は、食い倒れが名物と聞いたことがあるし、気分を変えるのも兼ねて外で食べるのもいいでしょう」
「や〜お気遣いは嬉しいっすけど、うちらお昼食べちゃって」
味が如何に微妙であっても、もったいない精神を持つ明石達はそれを平らげてしまい、既にお腹の中にはバーガーが一つ入ってる形になり。
「良いお薬があるの、どれだけ食べても満腹にならなくて、体重も増えないわ、それを飲めば好きなだけ食べられるの」
無論、メディアが作成した魔法薬である。
謀略で相手に気を許させるために献上等したものだが。
「……どれだけ食べても?」
「どれだけ食べてもよ」
「……メディアさんも使ったことが?」
「何回か使ったかしら」
すっと視線を重ね合わせる面々、お昼の味に満足できなかったこともあるし、どれだけ食べても太らないと言うのは非常に魅力的だ。
その上、スタイルの良いメディアが使ったことがあると言うのならば効果も実証されており。
「けど……お土産とかも」
後、残る問題は金銭上の問題であろう。
何分中学生、それほど余裕は無く。
「それと、勿論全部私の奢りだけど」
「マジッすか」
「大阪って、お好み焼きとかたこ焼きとか聞いたことがあるのよね……和泉さんは美味しいお店にも詳しいんでしょ?」
「は、はい、昔、住んでたことがあるんで」
「それを案内してくれれば良いわ、後は……この薬のことを内緒にしておいてもらえれば」
「その食い倒れツアー、定員はありますか?」
ふと、横合いからかかる声。
見れば、釘宮や柿崎を先頭にしてギラついた目をした1班の姿があり。
「メディアさんから美味しい予感がする」
「桜子ちゃんが良いお店が無いと言ってたんですが……このためですか」
1班もお昼を食べるところを捜していたのだが、こういうときに無類の勘ピューターを誇る桜子が何故か店を選べず。
何処もあまり良い感じがしないと言ってしまったのだ。
1班はそのまま、はずれを覚悟して店に入ることも考えたが。
急遽、美味しい予感がすると言い出した桜子によってここまで連れてこられ。
「その奢りと言うのは、何処まで」
「何か食べたいものがあるなら言ってもらえれば良いわよ、そこまで行くか用意させるわ」
「ふむ、仕事仲間に大阪のステーキ鍋と言うのを聞いたことがあるんだが」
「じゃ、たこ焼きとお好み焼きの次は其処ね」
「え、本当に、何でもあり?」
「む、餡蜜とかは」
「適当な老舗に依頼して持ってこさせれば良いかしら」
「プルーン、プルーンとかは」
「……最高級品でいいなら用意させるけど……」
龍宮の呟きに即決し、要望は全面的に受けいれるメディア。
考える時間すら存在しない……プルーンと言い出す柿崎にはちょっと困ったが……仮に、桜子辺りに頼まれれば満漢全席と言われても数日のうちに用意してしまうのだろうし。
「ち、ちなみにそのお薬、横流しとかは……」
「見当はついてるんでしょう、学園長に告げ口するわよ」
おそらくは魔法薬だろうと目星をつけた春日が聞いてみるが、綺麗な笑顔で撥ね退けられる。
「それで駄目かしら、和泉さんなら大阪の良い所色々案内してもらえるかと思ったんだけど……ディルムッド、車を回してもらえるかしら、小型バスがホテルにあったと思うから」
「はい」
GF系列のホテルなら、メディアと朱雀の二人の影響力は極めて強い、直ぐに十数人が乗っても問題の無いサイズの小型バスが用立てられ。
「助手席でナビをお願いね、和泉さん」
「あうあうあう、は、はい、頑張ります」
午前中、軽くUSJを見て回った面々は、午後からは大阪食い倒れツアーへと出立するのであった。
尚・USJにお好み焼きバーガー等と言う商品は存在しませんし
良いお店が無い等と言う直感は話の展開上のこじつけですのでご了承ください。
駄目だ……やはり行った事が無いところは書けない……
大阪とか広島とか徳島ならなんとでもなるんですが、大阪住んでるときに一回でいいから行っておけば良かったですね。
4日目はこのまま讃岐うどん 広島風お好み焼きへ流れるかw