72話
彼は、気配を完全に消し去って、その様子を観察していた。
目的は、目の前で繰り広げられている戦闘で、襲撃の側の助力を行うため。
本来の実力差を考えれば、彼が出張ることも無く容易く目的は達成されるだろう。
けれど、二つばかり、彼が出張るに足る理由があったため、彼は関西呪術協会の本山に足を運ぶこととなった。
一つは、協力者であることの立場を一層印象付け、今後の関係が円滑に進むことを望むため。
もう一つは、目的の達成の過程で、ある少女が一定以上の心理的圧迫や被害を受けぬよう気にかけての事だったが。
実際、予想では襲撃側の一方的な勝利で終わるだろうと考えられ、パフォーマンスに近い参加の予定だったが。
目の前では少しばかり予想外の光景が繰り広げられていた……即ち、協力対象である、『
詠春が石化していないことがまず予想外であり、フェイトが片腕を損傷しているのも予想には無かった。
……斬魔剣 弐の太刀による損傷であれば、フェイトであっても回復には多少の時を要するだろう。
そして、刹那の手には屈指の攻撃力を誇るだろうアーティファクトが握られている……これの存在を知ってはいたが、全力を眼にすればやはり強力なアーティファクトだ。
「……」
無論、未だフェイトが戦力的に優勢である事に変わりは無いが、万一と言うこともありえる。
彼は、本来の性格からぼろが出ないための備えの一つとして此処に在る為に自己暗示により本来の性向に別人の思考傾向を持たせている。
情を排し、物事を客観的に捉え、効率的な活動が行えるようにと。
目的のために、手段を選ばず、確実な目的達成を望むように。
故に、フェイトに味方であることが伝わるよう、見覚えがあるだろう宝石を掠め見させて行動を開始する。
気配遮断を行っている現状、攻撃態勢に入らない限りは魔力や気配を気取られることは無い。
目標である少女と、厄介な能力を持つアーティファクトの位置を確認する。
神鳴流2名とフェイトが交戦中、目標は大広間の中心辺りに居り、魔法使いとパートナーが一組。一般人二名が傍に居る。
……分断が可能と見て取って、漸く彼は動き出す。
「Fervor,mei sanguis(沸き立て、我が血潮)」
呪言の呟きと同時、其れは床面の畳を割いて姿を現した。
鏡のような金属光沢を持つ幅広い銀色の壁、それが突然に畳を引き裂いて姿を現したのだ。
現われた場所は、魔法使いのパートナーたる神楽坂明日菜の直前……ちょうど、神鳴流二名とフェイト達の戦闘の場と後衛を分かつようにして壁を作り上げ。
「お嬢様っ!」
刹那の声が響くが、壁の向こう側での交戦は続いているだろう、此方を視界に入れることも出来ぬため、狼狽しているだろうが。
壁の位置は予定通り、問題視していたアーティファクト……羞恥のあまり持ち主が取り落としてしまったハマノツルギ……を壁の向こう側に置くことが出来た。
「Time alter(固有時制御)——double accel(二倍速)」
後衛の魔法使いたちの視点が突如眼前に現われた壁に集まった一瞬。
アサシンと言うクラスにある、英霊にしてもトップクラスの敏捷をさらに上回る、規格外の速度で彼は目標へ接近し。
薬が浸された柔らかな布を目標の少女の口元に押し当てた。
それを止める術を持つ者は、その場には居ない。
目標であった少女、近衛木乃香は意識を失うと、彼の手によって抱きとめられた。
「…………」
よれたコートにぼさぼさの髪、一件何処にでもいそうな疲れた様子の中年の男が、ネギの至近で木乃香を抱きとめ。
「っ、このかさんに何をしたんですか」
杖を構えて戦意を見せた少年に、無言で右手に握っていた銃を向けた。
テレビや漫画で見るものよりも一回りは大きく、無骨なそれ……平時は眼にする事など無い、厳然たる凶器が魔法使いの少年に向けられる。
「っ、ネギ」
「くっ」
パートナーの少女は羞恥心を捨てて立ち上がると拳を握り、中国拳法を修める少女も構えを取るが、それよりも彼が引き鉄を引くほうが早かった。
最大威力のみを求められた、大口径の銃口から放たれた弾丸は、魔法使いの少年の中心辺りを目掛けて放たれ。
「うわっ」
狙い過たず、対象に着弾した。
それを確認し、殴りかかってくる二人の少女から距離を取る。拳銃を持つ相手に殴りかかると言う蛮行に近いそれを避けると、距離を取り。
「ラス・テル マ・スキル
銃撃による致傷を辛うじて逃れた魔法使いは呪文を唱えると、魔法を解き放った……筈だった。
「え……ええ?」
けれど、杖の先には何の変化も無く。魔法が発動することも無かった……魔法使いは魔法の使用に失敗した。
事、攻撃魔法に関しては無類の才を誇る魔法使い、ネギにすれば信じ難いことで。
「兄貴、さっきの弾、杖に当たったっすよね、まさか壊れたんじゃ」
「え、ええ、だって、折れてないし、魔力だって感じるのに」
先程の銃撃は、魔法使い本人ではなくその手にする杖を狙ったものだった。故にネギに傷は無い。
そして、それに込められた弾丸は特別製だった……起源弾と言う、魔力を込められて放たれた際に、ある男の起源を叩きつけ、対象にある男の起源である『切断』と『結合』を叩きつけられる。
通常は大したものではない、被弾した部位に壊死したような古傷を残すような結果となるが、対象が精密機械や魔術式であった場合は、その限りではない。
一旦切断され、繋ぎ直された部位は、着弾前とは全くの別物になってしまうと言っても良いのだから。
ネギが手にする魔法の発動体である杖は、嘗て英雄が手にしていたものであり、最高品質で極めて丈夫だ、魔力を帯びているのならば余程のダメージを受けても傷一つ付かないだろう。
だが、起源を叩きつけるという、擬似的な概念武装である起源弾には丈夫さ等意味が無い。
魔法の発動体であった機能が切断されて、改めて繋ぎ合わされたことで、それは本来あるべき姿を無くし。
「くっ、予備、予備の発動体は持ってないんですかい」
「あ、えっと、子供用の練習杖が……あー、エヴァンジェリンさんのときに壊しちゃったんだったー!」
無駄に魔力だけは高いネギでは、生半可な発動体では全力で魔法を放つことさえ難しい。
事実、エヴァンジェリンとの決闘の際に、予備に備えていた杖は魔力に耐え切れず砕け散り。
「このっガッ」
彼を追撃していた明日菜は、銃把で殴られる。
クーフェイにしても、銃を向けられれば一歩尻込みし。
銀の壁は、向こう側から何度も切りつけられている様子だが、切り口に流れ込むように周りの壁が移動して、直ぐに斬撃の跡を消し去ってしまう。
それは、液体と金属の両方の性質を兼ね揃える特性を持つ壁だ、それこそ決戦奥義でも放たなければ穴は空けられず、そんな余裕を許すフェイトではない。
壁の向こうからの助力は期待できず。
「クーフェイさん、その銃……その形状、弾丸は一発しか装填できないかと」
「ム……なら……って」
夕映のアドバイスで踏み込もうとするクーフェイ、事実、そのアドバイスは正解で、魔弾を放つことが出来るその銃は弾丸を一発しか装填できない。
間違いではないが、懐に銃を仕舞った男が、別の拳銃を取り出せば話は変わる。
2度の破裂音と共に、クーフェイと夕映の足元に、口径こそさほど大きくないものの、確かに実弾が着弾し。
「……警告だ、次は当てる」
冷酷に言い放つ男。
本来であれば当てていたが、性向こそ変わっていても本来は一般人に危害を加えることを好まぬ性格だ、故に威嚇に留めた。
睨み付けてくる明日菜を無視しながら、男は去ろうとして。
「……よしっ、このかっ」
その時、軽快な音とともに大広間を横断するようにして遮っていた銀色の壁が、まるで水のように崩れ落ち、床に広がっていく。
魔力が消え失せ、本来の水銀としての姿に戻ってしまったのだ……
「このちゃんっ」
詠春の手にある、ハマノツルギによって。
詠春は、野太刀と共に、ハマノツルギをその手にしており。
刹那は単身でフェイトと切り結んでいる、木乃香の魔力が残されているのか、宝石魔術による魔力供給に切り替えたのかは不明だが、大きさこそ2m程まで長さを減じているが、
最も、詠春も刹那も体のあちらこちらに傷が見受けられるが。
無言のまま、男は一発ずつの弾丸を刹那と詠春に放つ、それらは容易く切り捨てられた。
当然だろう、神鳴流に飛び道具が効かないことは知っている。
要は、手にする拳銃が本物であることさえ理解してもらえればよく。
男はその銃口を、抱えたままの木乃香の腹部に当てた。
「銃口は子宮を向いている……即死はせず、この子が失うものは大きい、僕に損は無い」
「貴様っ!!!」
木乃香を盾にするようにしながら、冷淡に言い放つ、刹那が激昂するが、銃口が軽く揺れれば足を止め。
一瞬、彼等の動きが止まれば後は容易かった、フェイトが水を用いて
そうして……近衛木乃香は彼等の目の前から連れ去られていったのだった……
警告 以下は番外編になります、多分にギャグが含まれます作中のシリアスの雰囲気を大事にされたい方は読まれないことをお勧めします。
尚、無論作品とは全く関わりがありません。
コツンと、固い感触が夕映の後頭部に添えられた。
そして同時、辺りを埋め尽くしたのは殺意、確かに殺意を持って、その銃口は夕映の後頭部に当てられ。
タタタタタンッと、同時に響くのは銃声、気配を断って、後衛の者達の背後まで接近したそれが、一般人である夕映の背後を取って銃口を向けたのだ。
その光景に思わず刹那や詠春も動きを止める、フェイトすら、そのあまりの光景に眼を見開き。
それは、両手に持ったマシンガンの銃口の一つを夕映に向けたまま、もう一つを木乃香のほうに向けると、それで招くようなポーズをして一言命じた。
「ふもっふ」
……ラブリーな帽子、つぶらな瞳、ファンシーな装い。
そこに、ボン太の姿があった。
「えと……うち?」
「ふもっふ」
コツンコツンと夕映の後頭部にマシンガンの銃口をぶつけながら鷹揚に頷くボン太。
思わず首を傾げる木乃香は、請われるままにボン太の傍により。
「ふもっふ」
「……まさか……僕に向かって何か言ってるのかい」
「ふもっふ」
夕映に銃口を向けたまま、木乃香を手元に置いたボン太は交戦を止めているフェイトに向けてくるくると銃口を廻し。
「……何してるんだい、君」
「ふもっふーーふもっふもっ、ふもも」
足元でも銃口を廻し、ジャンプしたりジェスチャーしたりと動き回る。
短い指で器用にOKサインを出したりと、なかなかに器用だが。
「えと、うまくいった……なのかな」
「ふもっふふも、ふもも」
「何か飲んでるっすね」
「ジュースですか? いろいろお奨めがあるのですか」
「ふももー」
「蛇口……あ、水?」
「ふもっ」
「あ、当たったみたいね」
「ふ、ふもも、ふも」
「開けて、入って、閉める……ドアなんか?」
「ふもっ」
「お、一回で当たりや」
「ジャンプしてるわね……水で、ドアで、ジャンプ?」
「ふもっふーふも」
「……何故……何故僕は彼を心強い協力者等と……」
「ふも?」
落ち込むフェイトを眼にしながら、ボン太は訳が分からないと首を傾げていた。
私の訳が分からないww
何故か書いてしまった……何故だwww
魔法使い、杖(発動体)が無ければ、ただの
と言うわけで、再度アンケートの結果を
①衛宮 26票
②志貴 8票
③はいてない 3票
④ランスロット6票
④クーフーリン1票
④ハサン 2票
④あかい悪魔 1票
④葛木 1票
④言峰 22票
④ボン太 7票
④某恐竜 1票
④アサシン部隊1票
④ダメット 3票
④宝石爺 1票
④ケイネス 2票
④薬味 1票
④黄里 1票
④アルク 2票
④工場長 1票
④エクストラアサシン 4票
④アヴェ 2票
④アリカ 1票
④黒セイバー 1票
④ライダー 3票
④メカ翡翠 1票
④アンバー 1票
④セイバー 1票
④ブルー 1票
④荒耶 2票
④ネコアルク 3票
④蔵馬 1票
④ヘイ 1票
④ゼロ 1票
④ネロ 2票
④青髭 12票
④青髪 1票
④皐月 1票
④臓硯 1票
④後藤君 1票
④服部半蔵 1票
④ミスター陳 1票
④ルビー 2票
④ぬらりひょん2票
④ギル 2票
④ルパン 1票
④木之本桜 1票
④朝霧アサギ 1票
④女キャラ 1票
皆さんがどれだけコトミー好きか分かる結果になりましたw
いえまぁ、薬味の切開が期待されてるというのは分かりましたがw
作中通り、結果として切嗣さんが採用されました
その中で、ケイネスさんを勧めてくれた方のアイディアも良かったので使わせていただきました。
あとボン太w
何故か心から離れないWWW
皆様、ご協力ありがとうございました