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77話
近衛木乃香を奪取し、合流地点へと辿り着いたフェイトと男に降り注いだのは神鳴流剣士の攻撃だった。
一瞬、詠春や刹那に先回りされたという可能性が脳裏を過るが。
その剣筋は、先に交戦したいた二者に比べればずっと稚拙なもので。
……男には、その中の一人の顔に見覚えがあった。
「関西呪術協会で県外に出されていた部下が戻ってきた……と言うわけでもないようだね、千草さんも居るし……おかしいね、千草さんに増援として紹介された人達だ」
神鳴流の剣士なのだろう、野太刀を振るって襲い掛かってくるそれらを石で作った剣を空中に浮遊させて受け止めるフェイト。
コノカを抱き上げる男はその影に隠れるようにし。
「ちぃっ、西洋魔術師がっ、ぐあっ」
陰陽術士が符を手に呪文を唱えようとしたため、男がその腕を銃で撃ち抜く。
そうして観察すれば、眼に見えて場が混乱している様子が見て取れてきた。
何せ、目の焦点がまともに合っていないのだ、此方の姿もおぼろげにしか認識できていないのではないだろうか。
「千草さんも……周りが見えてないようだね」
フェイトに近衛木乃香の奪取を命じた千草ですら、周りの味方達に向けて符を構えるような仕草をしている。
突然内部分裂を引き起こしたような状態で……
「関東の犬がぁっ」
「……」
フェイトに向かって剣を振るっている中に含まれる壮年の女剣士。
技量自体は全体の中でも劣っているだろう、特筆すべき点も無く、フェイトに言いようにあしらわれている。
けれど……男は視界からその女を逃さない。逃せない……
「ふぅ……とりあえず、千草さん以外石化するよ」
フェイトの提案に、男は援護射撃を始める、足元に銃弾を連続して撃ち込むことで剣士に二の足を踏ませ。符を取り出す陰陽術士はその符か、ないし腕を撃ちぬく。
次第に、全体の中でも同士討ちが始まったようで。
「
フェイトの呪文と共に、進み出ていた神鳴流剣士を中心として、石化の煙が巻き起こった。
その煙に神鳴流剣士が包まれれば、残されるのは野太刀を構えたまま石像と化した剣士たちの姿で……
「…………」
不運にも、その剣士たちが石像へと変わっていく瞬間、その背後で陰陽術士の符が暴発した。
火系統の符だったか、集団の中心辺りで爆発が発生し。
「……おや」
石像と化した剣士達の石像は爆風に押されるように転がり、身体を支えていた脚が砕け、手足が折れ、幾つもの破片が辺りに散らばっていく。
5体ほどの神鳴流剣士の石像は、重なり合うようにして倒れこみ、脆い部位であった四肢の多くを欠損したようだ。
……誤ってか、意図してかは分からないが、発動直前の符を術が施された弾丸で撃ちぬいて、最悪のタイミングで暴発させてしまったようだ。
男は、気にも留めず無言のままに残りの陰陽術士に銃口を向ける。
「……まぁ、良いけど」
人間の殺害を避けるようにされているフェイトは多少気になったが、四肢の欠損が殆どで、頭部から重要部位がある胴体までが殆ど無事であることを確認して、気にしないこととした。
野太刀を手に斬りかかってきたのだから、自身が同じ眼に遭うことも当然の報いであろうと。
大して手間もなく陰陽術士たちも石化しようとして……
背後、遠く離れた距離から大きな轟音が聞こえてきた。
「君の罠にかかったようだね……けど、誰か追ってきたのは確かなわけか」
呪文を唱えながら僅かに背後に注意を傾けるフェイト。
此処に来るまでに、男は何度か足を止めていたが、その際にワイヤー式のトラップと圧力式地雷の埋め込みを行っていたのだ。
殺傷性は無いものと確約したため、フェイトはそれを許容し……それは役立てられた様子だ。
「距離的に、一番初めのものだ」
「
残る陰陽術士も石化させると、男が千草の首を銃把で殴りつけて意識を奪う。
そうして、10名近くの神鳴流剣士と陰陽術士達は、その殆どが石化されるという形で無力化され。
神鳴流剣士達に到っては、石化した状態で四肢を損なうという惨事に見舞われることとなった。
銃撃や同士討ちで発生した血痕も多く残され……それは、悪夢のような光景で。
「そう……どれだけ足止めできるのかな」
「視覚・聴覚・平衡感覚を一時的に麻痺する事になったろうし、催涙弾も同時に爆発するようにしてある……暫くは動けないだろう、それと」
横合いを向くと、呆然と留まったままの式神らしき小さな影に向けて術の施された弾丸を撃ち込む。
それにより、詠春の偵察用式神もまた消え失せ。
「眼も潰した、回り道をしてでは直ぐに此方へ向かうのは無理だろう」
「千草さんも直ぐには無理じゃないかい?」
コノカをフェイトに預けると、千草の背中に手を当てて気付けを行う。
「かはっげぼあっ」
突然の気付けで意識を取り戻した千草の顎を掴むと上を向かせ。
懐から取り出した小瓶の中身をそのまま喉に流し込む。
最後に、呪詛避けの符を額に張れば応急処置は終了で
「なんや、いきなり敵が……新入りに、このかお嬢様、知らんおっさんに……後、石」
周りを見渡し、状況を把握する千草。
……慢心の精霊の影響下にある千草は、自身の状態が回復したことを理解すると、暫し沈黙した後に寸前までの状況を思い出し。
悪夢のような光景を見渡した後で。
「お、戻ったんやな新入り、ようやったわ。こっちのは味方なんか?」
……とりあえず、色々を無かった事にした。
「君、割と酷だよね」
「気にするな」
そんな千草を見て、さすがに不憫に思ったかフェイトが声をかけるが、男は冷淡に応えるだけだ。
「……まぁ、いいけど。彼は味方だよ、僕の助っ人だと思ってくれればいい」
「そうなんやな……あとはお嬢様を連れてあの場所まで行けばウチラの勝ちやけど」
近衛木乃香の奪取に成功した事実に笑みを浮かべる千草。
……その後暫くしてから、深呼吸をした後で……現実を直視する。
即ち、石像と化した陰陽術士達と、石化した上、砕かれた神鳴流剣士達を。
「……味方が、こんなんなってもうたのは、問題やな……あー、敵がやったんやよな」
「正当防え」
「いや、これは敵がやったんや、そうしとかんと祭壇に居るのが五月蝿いわ、まだ10人ばかしが儀式の準備しとるからな、そうやな、新入り、おっさん」
呪詛によって同士討ちを引き起こしたという現実から目を背けて言い切る千草。
呪符使いであるからこそ、何が原因でこのような事になったのかを理解しているのだろう……現に、指が一本欠けている手を隠すようにしている。
「……それで良いなら良いけど」
「あぁ、せやけど、青山はんまでやられてもうたのは厄介やな……GFへの切札になる思たのに」
石像と化し、重なり倒れて砕けた神鳴流剣士の石像のうち、一体に目をやり息を吐く千草。
一昨日に赫翼の槍騎士ディルムッドによる攻撃を受け、半死人に陥った千草にすれば、万一の備えとしてGFへの対抗策が欲しく。
だからこそ、効果的な手札として使えそうな彼女を手元に置いていたのだが……
「……その女剣士が何か?」
「いや、こん人、色々あってGFには、どえらい嫌われとるんや……最悪、こん人を囮にしよう思っとったんやけど」
はぁと溜息をつく千草。
切り捨てるという発想もどうかと思うが、フェイトは無言のままに男を見る。
無関心な様子の男は、無言のまま懐から取り出したトランシーバーの音を拾い集めているようで。
「ちなみに、恨まれた理由は?」
「GFで祭り上げられとる命ってガキの親なんや……有体に言うと、虐待して捨てたんやけどな、その後、そのガキは才能があったんか、メディア言う女に拾われて、GFの
「……それは興味深い」
一点、フェイトの中ではGF内の序列に多少の違和感があったが。
関西呪術協会と関東魔法協会の認識で言えば、朱雀と言う少年を表に立てて裏でメディアが糸を引いているというのが正しいであろうと言うのが共通の認識だ。
実態も、そう違うものではないし。
「一応拾うとくかな、これの首差し出したら多少は話聞いてくれるかも知れへんし」
関西呪術協会の長の反対派に声をかけて回ったわけだが、唯一、彼女達だけはGFと手打ちをするための道具として招き入れた理由が強い。
故に、それだけでも使えるかと召喚した
「…………」
それを気にせず、男は無線のスイッチを押した。
「な、なんや今の音」
突如、響き渡ったのは轟音……それも、先を上回るような爆発音で。
呆れた様子で男を見るフェイトに、男はどうでも良さそうに答える。
「本山の一部の爆破解体の音だ、これで何人かは本山に戻らざるを得ないだろう」
「君……本当に酷だね」
「ばっ、爆破? な、何したんや一体」
「それより、少数が突出してくるようだ……足止めが必要だが」
トランシーバーで何処かでの会話を盗み聞いていたのだろう、男は簡潔に告げる。
実際は罠の近くの空けた場所に数個のトランシーバーを集音マイクつきで放置しておいただけだが、これも役立ったようだ。
「……あぁ、ほな、小太郎はんと月詠はんにも動いてもらいましょうか……ついでに、お嬢様の力の一端も」
クスリと、千草は笑むと、
そして、その首に下げられた首飾りに符を貼り付ける。
「
千草の呪文と共に、辺りに幾つもの真言が浮かび上がる。
それらは異常な魔力を放ち始めると、次々にその場に鬼や河童、鴉天狗や
近衛木乃香の魔力で手当たり次第に召喚した式たちで。
「追っ手が森の中におる……死なへん程度に痛めつけてやっておくれな」
その命に従い、鬼達は森へと広がり、
「ほな、うちらは祭壇に向かいますえ」
気分の良い千草は、石像と化してしまった陰陽師たちに事は綺麗さっぱり忘れる事にして、祭壇へと進み始める。
夜の森に、鬼と仲間を解き放って。
フェイトと男は無言のままに其れに従い。
……本格的な戦いが始まるのだった。