79話
「あっちに見える大岩にはな、危なすぎて今や誰も召喚できひんゆー巨躯の大鬼が眠っとる。18年だか前に一度暴れた時には今の長とサウザンドマスターが封じたらしいけどな。でもそれも、お嬢様の力があれば制御可能や」
森の中にある湖の中心には巨大な岩が奉られている。
其れに向かうようにして湖には祭壇が用意され、其処に着物姿のコノカが横たえられる。
眠りに落ち、意識の無いコノカの傍には千草、そして布で包んだ石の塊を抱えた
そして、祭壇を囲むようにして10人近くの陰陽術士が居り、各々がスクナ復活のために呪力を祭壇へと向けることで、儀式の下準備を整える。
「ふふ、これでスクナは復活や」
「そうだね」
集められた陰陽術士の中には、魔法具によってフェイトの従者に協力を強いた者も居る。
……近衛木乃香の魔力を利用して、千草がリョウメンスクナノカミを復活させれば、最早フェイトが彼等に協力する義理はなくなる。そのため、フェイトは最後で詰めを誤らぬよう警戒を強め。
「……ほな、始めますえ……
コノエコノカから魔力が立ち上り、巨大な魔力の柱が空へと伸びてゆく。
その輝きで湖が照らされるほどの光で。
「さて……足止めはうまくいっているかな」
フェイトは、戦闘が行われているだろう方向へ眼を向けた。
「昼間は変な邪魔が入ったがな……仕切り直しやっ、西洋魔術師っ」
昼間、ネギ達を瀕死の重傷へ追いやった狗神使い、犬上小太郎が数十の鬼を引き連れて姿を現す。
幸いにして、森の中で開けた場所を見つけられたため、迎え撃つことは可能だが……数の差は歴然で。
「ネギ先生、二人に魔力供給を」
龍宮がバイオリンケースから己の得物を取り出しつつ、ネギに助言する。
4人の中で最も戦い慣れているのは龍宮であるため、自然、周りを見渡してフォローする役目を負うこととなり。
「は、はいシ、
「はっ、させるかっ、っ、ちぃっ」
迷わずネギに向かって突貫しようとした小太郎を銃撃が襲う。
気で強化した腕で受けたが、その威力は通常の拳銃を上回る威力だ。
「
その間に、明日菜とクーフェイの身をネギの魔力供給が包み込む。
それは、小太郎の気による強化を上回るほどの密度で。
「って、龍宮さん、それ拳銃!?」
「それ本物アルか!?」
「じゅ、銃は人に向けたら駄目ですよ〜」
「ただのエアガンだよ」
つい先程、男に銃で脅されたばかりの明日菜やクーフェイにすれば怖ろしい凶器だが、龍宮はエアガンだと言い切り。
「ちぃっ、行けや」
ネギ達を半包囲する鬼達が小太郎の声に従って進みだす、範囲を狭めるようにして動き出す鬼の群。
その額を次々に銃弾が撃ち抜いていく。
龍宮は何処からとも無く弾倉を取り出すと距離のある内から攻撃を続け。
「邪魔すんなや」
それに業を煮やしたか、小太郎は自身の影から狗神を生み出すとそれを龍宮に放つ。
「ハッ」
その狗神を、正面に踏み込んだクーフェイの拳が打ち砕く。
昼間は殴りつけても効果の無かったその拳は、ネギの魔力を纏ったことで狗神を容易く打ち砕き。
「っ、何や。昼間とちゃう」
「昼間は世話になったアルネ」
「ちぃっ」
クーフェイはそのまま、小太郎の懐へ飛び込むと魔力の篭った拳を振るう。
昼間とは違い、気の強化を突き抜けてくる拳の威力に小太郎は眼を剥き。
「た、龍宮さん、あれって鬼!?」
「落ち着いて戦えばいい、見た目ほど怖ろしい相手じゃないよ、神楽坂のアーティファクトも十分通用する……筈だ」
「ちゃんと断言してぇ〜っ」
両手に銃を手にし、周りの鬼を撃ち抜きながら明日菜のアーティファクトであるハリセンを見る龍宮。
未だ、そのハリセンが持つ退魔能力を知らぬ龍宮には、断言はしづらく。
けれど、半包囲されている以上、突出したクーフェイが小太郎を含めた前面を押さえてはいても、左翼右翼からも鬼達は近づき。
「大丈夫でさ、姐さん、姐さんのアーティファクトは長も頼りにした代物っすよ」
「あぁ、もう、行くしかないんでしょうっ」
向かって左側の鬼が近付いてくるのを見て、仕方無しに飛び込んでハリセンを振り上げる明日菜、そのまま勢いよく振り下ろし。
叩かれた鬼は一撃で消えうせる。
「ほぉ……まさか本当に通用するとは」
「ちょっとぉ〜っ、龍宮さん〜〜!!」
「って、兄貴、後っす」
クーフェイや明日菜が飛び出して戦闘に参加したことで、ネギの傍にも鬼は迫り。
けれど、ネギもまた、昼間の敗戦から一つの腹案を考え出していた。
「大丈夫だよ、カモ君」
故に、拳を握り、迫る鬼に向かって素人ながらも構えを取る。
どこかクーフェイのそれに似せた構えは、鬼を迎え撃つ意思を伴い。
「くっ、ネギ坊主っ」
けれど、其処へ咄嗟に飛び込むのはクーフェイ。
昼間の件でネギが近接戦闘を不得手としていると理解しているクーフェイは、小太郎から離れるとネギの前に立ち、鬼の一撃を受け止め。
「はっ、もらったぁっ」
自由を得た小太郎はネギに向かって飛び掛る。
クーフェイは即座に、念のために用意しておいた布を振り回す……魔力が通るそれは、普段練習するそれよりも自在に手の中で動くようで。
けれど、クーフェイの布槍術が小太郎を叩くよりも早く、ネギが一歩を、小太郎に向かって踏み込んだ。
「っ、ネギ坊主!?」
「
自身への魔力供給。
治療の際にも回復が早まるということで使用を推奨されたが、自分の魔力を自分に注ぐことで、明日菜やクーフェイ同様の魔力による身体強化を行う。
それにより、通常より遥かに高めた魔力で小太郎の一撃を受け止め。
ネギは、魔力を込めた拳で小太郎を殴りつける。
「おっ……」
クーフェイの武術を僅かにも見取ったか、一瞬見せたネギの武才にクーフェイも僅かに感嘆の声を洩らし。
「ラス・テル・マ・スキル マギステル
ネギの拳の一撃で浮かび上がった小太郎へ向けて、呪文を唱え魔法を解き放つ。
「
その手にするのは、春日から渡された予備の魔法の杖。
その杖から放たれた雷は、小太郎とその後にいた数匹の鬼も飲み込んで突き進み。
「あぁーっ、兄貴、杖にヒビが入ったっすよ」
「くっ」
慌てて魔力を抑える。
春日の魔法の杖は、一般的な代物だ。
そして、それを使用しているネギ・スプリングフィールドの魔力量は一般の其れを隔絶した域にある。
故に、魔法の発動体はその力に耐え切れず負荷がかかり。
「く、やっぱりこの杖じゃ駄目なんだ……」
小太郎が吹き飛んだのを確認して、ポケットを探る。
ポケットから取り出すのは、春日から渡されたもう一つの発動体。
今、ネギが手にしている魔法の発動体とは違い、最高品質で、ネギの魔力にも十分に耐えられるだろう代物だ。
……但し、これには呪いがかけられていると言う。
詳細は分からないが、魔女によって行動を制限されるような呪いがかけられたと聞き。
「ネギ先生、私の傍に居てくれ」
龍宮が鬼に次々と銃弾を叩き込みながらネギの傍に寄る。幸いにして明日菜も10匹ばかりを片付け。
何よりも。
「よくやったアル、ネギ坊主」
「がはっ」
周りの鬼を駆逐しながら、クーフェイの拳が、立ち上がりかけていた小太郎に追い討ちをかける。
気の不足による力不足を魔力で補ったことで、攻撃力と防御力も小太郎の其れを上回り。
昼間、魔力が無い状態でも小太郎を圧倒した
ネギから一撃を喰らって隙を見せた小太郎を見逃すはずも無く。
「
仮契約カードを手に、叫んで手にするのは、極めて強固な金属で作られた、
クーフェイのアーティファクト
「みんな、伏せるアル」
龍宮がネギの頭を掴んで姿勢を低くする、それを確認し……クーフェイは、10mほどまで伸びた
龍宮とネギの頭上を猛スピードで通過するそれは、周囲の鬼と明日菜を巻き込むようにして吹き荒れ。
「って、あたしも居るわよーっ」
辛うじて、明日菜はジャンプしてその台風のような勢いの
「ハァァッツ」
勢いをつけた棍の一撃を、横薙ぎによって小太郎の場所まで集められた鬼達に振り下ろす。
十匹以上の鬼と小太郎に向けて振るわれたその一撃の後には。
意識を失った小太郎の姿しかなく。
「鬼退治完了アル」
「やるならやるって言ってからやってよー」
「アスナなら避けられると思ったアルヨ」
アーティファクトである
だが、その猛威のおかげで周囲の鬼は悉くが打ち倒された。
「兄貴、あれを見てくだせぇっ」
そんな中、オコジョがある一点を指し示す。
それは、光の柱……詠春から指示されていた、敵の目的地であるかもしれないという大岩がある方角に、強力な魔力を発する光の柱が現われたのだ。
「どうやら、長が言っていた予想が当たったようだな、飛騨の大鬼神、リョウメンスクナノカミと言っていたか……奴らは其れを復活させるつもりらしい」
「じゃぁ、あの光のところにこのかさんが」
「まず間違いないだろう……」
「直ぐに向かいましょう、あれだけ目立つなら真っ直ぐに」
「待つんだ」
走り出そうとするネギの首根っこを掴むと、押し留める龍宮、クーフェイもまた、目的地までの間に存在する森を睨み。
「……どうやら、鬼はまだまだ居るようだ……それも、別格級が森に隠れて私達を狙っている」
「そうアルナ、慌てて飛び込んだら影から襲ってきそうアル」
小太郎と共に現われた数十の鬼、それと同数かそれよりも多い数が未だに森に潜んでいる。
そして、感じからして今さっき相手をした鬼とは比較にならない強さだろう。
見通しの悪い森の中を慌てて進めば奇襲されるのが明白で。
「くぅぅ、こうなったら兄貴一人だけでも杖で飛んで……って、杖が無ぇんでしたぁっ」
「ネギ先生、杖無しでの飛翔術は?」
「つ、使えないんです」
「そうか……危険を承知でも突っ切るしかないかな」
龍宮が溜息を洩らしながらも覚悟を決める。
その中で。
「森を跳び越せればいいアルヨナ……おっ、いいアイディアを思いついたアルヨ」
クーフェイが、己がアーティファクトを手に手を上げた。
「よし、行くアルヨ……ネギ坊主?」
クーフェイの声に軽く首肯しながら、ネギはゆっくりと拳を開く、拳の中には指輪。
GFの魔女から渡された、魔法の発動体……それを暫し見つめた後で。
「……このかさんを、助けるんです」
左手の人差し指にその指輪を嵌めた。
「って、ネギ、それって呪いが何とかって」
「はい、でも、今は力が必要なんです、もう春日さんの杖は壊れる寸前です、この先も魔法を使うためにはこれを使うしかありません」
「……ちなみに、外せるのかい?」
龍宮が恐々と聞くので、試してみるが……ネギがどれだけ力を込めようと、その指輪は指から外れることは無く。
簡単な魔法を使ってみると、問題なく使えた。
「指輪は外れませんが……魔法は使えます、今はそれが一番です」
「けど、呪いって」
「まぁ、待て神楽坂……話は後でも出来る、今は急ごう」
不承不承ながら明日菜が頷くのを待って、森の開けた場所で、4人が一箇所に集う。
周りの森からは隠れてる鬼の視線を感じるが、今は相手をすることが出来ず。
中心になるのはクーフェイ、その右腕を龍宮が、左腕を明日菜が掴み、ネギが背中に負ぶさるようにしがみ付く。
全員が、クーフェイにしっかりと掴まり。
「行くアルヨ、みんな、着地は自分でお願いするアル、ネギ坊主は私にしっかり掴まってればいいアルガ」
「うぅぅ、不安だけど、不安だけど」
「まぁ、着地くらいなら問題ない……やれ、
頷いて、クーフェイは己がアーティファクト、
ほんの僅かに角度をつけて……向きは、無論光の柱。
「大きくなって、伸びるアルっ」
そのアーティファクトの特性は、その強度と、使い手の意に沿って自在に重量・形状を変更するという点。
質量保存の法則等、覚えて無いと、数百メートルくらいならば容易く伸びる。
故に、クーフェイは
意を汲んだ
「うっきゃぁぁぁぁぁっっつ」
「ひぃぃぃぃっ」
森を飛び越えるように、光の柱に向けて
一瞬で、4人は森の上を跳び越えて光の柱へと近付いていく。
無論、角度があるため近付くに連れ高度もどんどん上がっていくが。
後は、光の柱の直前で伸びるのをやめさせれば、森を跳び越えた形になり……
「駄目だ、
「っ、あの時の」
「子供っ!」
夜空に浮かぶは白い髪の少年。
小太郎や月詠、暗殺者による足止めが行われていたが、暗殺者は他二者の状態も観察する手段を持っていた。
盗聴器や通話状態のトランシーバーを持たせておけばいいのだから、難しいことではなく。
小太郎が倒れた直ぐ傍で作戦会議などすれば、容易く意図も伝わる。
故に。
「
フェイトにもそれが伝えられ、叩き落すために強力な魔法を解き放つ。
自身の魔法を消し去ったアーティファクトがある相手ならば手加減等できない。
咄嗟に反応したのは明日菜とネギ、自身のアーティファクトが退魔に特化したものであることを知り、詠春から其れを教えられていた明日菜は何とかそれに向けてハリセンを振り切り、ネギもまた呪文を詠唱する。
「
長から教えられた、魔法を克する正しい使い方。それをもって石柱に向けて振り切り。
「
ネギは自身が使える最強の攻撃魔法を解き放つ。
けれど、足りない。
アーティファクト ハマノツルギは未だ本来の姿に満たず。
ネギの攻撃魔法もまた、大規模殲滅魔法に抗える威力は持たず。
消し切れなかった数本の石柱と
魔法薬は現状3本……今、直撃を受けたのは4人(と一匹)
4−3=?
ちなみに、当初は3人を庇ったたつみーあたりを石化させて地面に叩きつけて砕くというのを考えたんですが。
たつみーなら種族的に、メディアさんクラスなら再生の理由もつけれそうですし
ただ、魔法抵抗が高そうなので一瞬で石化するとは思えないのでお流れになりそうです。
一瞬でたつみーだけ石化する方法って無いものですかね(マテ
落下しながら段々石化していって下半身……くらいならありか(さらに待て