前話ラスト 四人に激突を少し修正しました
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80話
数本の石柱が迫る。
それを前にして、最も冷静で居られたのは龍宮だった。
魔法関係者として、何よりもマギステル・マギのパートナーとして危地を潜り抜けてきた彼女は、当然のように切札を幾つも持っており。
「
迫る石柱を前に、クーフェイと明日菜の襟首を掴むと、そのまま
「わっ」「くっ」
手にしていた銃を捨てる形になったが仕方ないと判断する、幸い、胸元には大型狙撃銃も隠し持っている。
状況は最悪、石柱は直ぐ近くまで迫り、激突寸前だ……ただ、クーフェイが言われたとおりに
至近の一本はそれで逸れ。
「神楽坂、抵抗してくれるなよ」
クーフェイのアイディアの実行前に、逃げ場の無い空中で敵に襲われた場合の対処として、龍宮が提案した手段とした魔法符を取りだす。
完全魔法無効化能力により魔法が効きにくいという弊害……手段の内容を聞いたオコジョからそれを指摘された龍宮は、明日菜に何度も言い含め。
その背に、切札とする符を押し付けた。
幸いにして、魔法陣は無事に発動し、明日菜の姿が眼前からかき消え、数十m離れた、祭壇寄りの方向に姿を現す。
龍宮が切札とする転移魔法符、一枚80万と高価な代物だが、この状況で其れを惜しめるはずもなく。
次いで、クーフェイとネギにも転移魔法符を起動させる。
龍宮をして大盤振る舞いだと思わせるが、至近に迫る石柱に一刻の猶予も無く。
最後、自身に其れを使用しようとして。
目の前に現われた少年と、目が合った。
転移魔法は龍宮だけが使えるものではない、目の前の少年もまた、其れを使用し。
「
龍宮もまた、最後の一瞬まで抵抗を試みるが……
「残念だったね……」
銃使いである彼女の手に、得意とする武器は無く。
フェイトは寸前に投げつけられたナイフを受け止めた……魔法符がひらひらと辺りを舞い。
「来るのがもう数分遅かったら、見逃してあげたのに」
其れは、石柱の一本と激突した。
ネギが最初に理解したのは、浮遊感だった。
と言うよりは落下感と言うべきか。
目の前に迫っていた石柱は無い。
明日菜とネギの手により半数程が消えたとはいえ、未だ大質量を有して自分達に向かっていた。
それが突然に消え去ったと思えば、視界が移り変わり。
眼下には湖、中心に大岩を奉った湖が眼前に広がり、湖の端には祭壇がある。
その祭壇からは光の柱が立ち上り、10人近い術士たちが呪文を紡いでいる。
それこそが、恐らくは、近衛木乃香を利用した儀式なのだと、一瞬で理解して。
そのまま、祭壇前の鳥居の辺りに不時着した。
「くっ」「ほっ」「あわっとととと」
同じようにして降り立ったのはクーフェイと明日菜だ。
明日菜も一瞬不思議そうにするが、クーフェイは明日菜が消えて別の箇所に現われるのを見ていた、故に状況を察し。
「真名がてんいまほーふとか言うのを使ってくれたみたいアル」
出発前の打ち合わせどおり、上空で敵と遭遇したら転移魔法符で離脱する。
ただ、その移動距離は数十mが精一杯のため、一度攻撃を逃れるのがやっとと言われており。
背後からの振動に後ろを見れば、森に何本もの石柱が突き立っている。
また、上空で
幸いにして、ネギ達の辺りに降ってくるのは少ない様子で。
「よし、あそこにこのかが居るのよね、このまま」
「させないよ」
光の柱を前にして意気を上げる明日菜、けれど、その前に降り立つのは白髪の少年。
祭壇とネギ達の間を断つようにして立ち塞がり。
「くっ……真名は何処アルカ、連携して……」
その少年の厄介さを眼にしているクーフェイが構えを取る。
明日菜とネギもまた、ハリセンと、見様見真似の構えをとり。
ゴトッと、不意に岩の欠片がネギ達の足元に転がってくる。
3人は一瞬だけ其れに目を向けるものの、それから眼を逸らそうとして……もう一度、その岩塊に視線を戻す。
……信じられないものが見えた。いや、信じたくないものが見えた。
それは、人間の子供くらいのサイズの岩だった。
それは、奇妙な形をした岩だった。
手があった、指があった、髪があった、目もあった。
まるで、人が胸元から何か取り出そうとしているような形状をしていた。
それは、龍宮真名の上半身に酷似した形状の、岩だった。
「……転移魔法符で飛ばされてきたのか……いや、飛んだのかな? 最後の悪足掻きか」
石化し、石柱と激突し、其の身を断たれた龍宮真名だったものを前に、ネギは息を思わず止めた。
そして、直後には、その身は既に、フェイトの至近にあった。
「っ……速い」
力任せの一撃を技術で受けきるフェイト、けれど、ネギの拳にこめられた威力は今までの其れとは比較にならない重さで。
猛然とラッシュ、今までに見てきた戦い方、犬上小太郎やクーフェイの格闘術を見取って模倣し、フェイトへと叩き込む。
それは、今までに無いほど苛烈な攻撃で。
「な、何あのスピード」
「さっきまでのネギ坊主の動きじゃないアル」
「魔力の
「い、オーバードラ……!? えも……?」
眼前の少年に苛烈な勢いで拳の弾幕を喰らわせるネギを前に、ネギから振り落とされる形となったオコジョが叫ぶ。
「まだ修行不足で使いこなせちゃいねーが、兄貴の最大魔力は膨大だ、それが何かのきっかけで一気に解放されれば……エヴァンジェリン戦の時もこれで勝った。しかし、兄貴、こりゃあ……」
「と、とにかく、これが真名なら……くっ」
慌てて龍宮らしき石像の欠片を抱え込むクーフェイ。抱えたまま数歩下り。
フェイトに向けて、一気呵成と踏み込むネギ、けれど。
力任せの一撃で倒せるほど、目の前の存在は甘いものではなかった。
「残念だよ、ネギ君……期待外れだ」
防御一辺倒だったフェイトが、一瞬攻勢に回る。
両腕でのラッシュを裁き、その腹に膝を叩き込み、顎を掠めるようにして手刀が放たれた。
「あくっ」
それだけで、容易くネギはふらつき、再度の蹴りで明日菜たちのほうへと蹴り飛ばされる。
「ネギ坊主っ」「ネギっ」
ふらつきながらも光の無い眼差しでフェイトを睨むネギ。
けれど、フェイトはそんなものに興味は無いと背後を振り仰ぐ。
「本来なら、石になってもらうところだけど……どうやら終わったようだね」
自然、その場に居た全員の視線がフェイトと同じものを見る。
即ち、湖の中心に奉られた大石を。
「こ、この強力な魔力は儀式召喚魔法だ、何かでけぇもんを呼び出したんだ!」
祭壇から立ち上る光、それは一際強く輝き。
そして大岩から光り輝く四本の腕が蠢き、それらが上空へと伸びていく。
それこそが、千六百年前に討ち倒されし飛騨の大鬼神。
18年前に英雄によって封印された鬼神が復活したのだ。
その前には木乃香と、一昨日に木乃香を浚おうとした呪符使いの姿もあり。鬼神の力を使ってか、大岩の近くを飛翔している。
それから感じられる魔力は凄まじいものがあり。
ネギ達の戦闘を見ていたのか、少しずつ大岩から祭壇の方へと上半身を向けていく。
其の下半身は未だに大岩に在りはしても、その巨躯の指先は祭壇へ至り。
「っ、あ……」
「そ、そんな……こんな、こんなのっ」
「でかいアルっ、しかもこの気迫……桁違いに強いアル」
「つか、デカッ!! オイオイオイちょっと待てよデケぇっ!! デカすぎるぜ」
祭壇でも儀式召喚に参加した陰陽術士たちが歓喜の声を上げている。
その声に応えるように、リョウメンスクナノカミはその両腕を大きく振り上げ。
その、祭壇へと、両拳を叩きつけた。
それには、制御しているはずの千草こそが驚きの声を上げる。
自身の式神である
「っ、なんや、こら言うこと聞きぃっ」
鬼神の拳が叩きつけられた祭壇は砕け、陰陽術士たちも吹き飛ばされていく。
鬼神の顔の近くで木乃香と共に浮遊する千草は、何とか制御しようと呪文を唱えるが、鬼神は其れを聞く素振りすら見せずその巨大な顎を開き。
京都全域に響き渡るほどの、憤怒と暴虐に満ちた咆哮と言う名の産声をあげた。
「困りましたねぇ……」
其処には4人の男女が集まっていた。
ホテルの女将の立場にあるメディア。
そして、そのホテルに宿泊している麻帆良女子中等部の教師である新田、瀬流彦、ネギである。
彼等は、一つの問題について話し合っていた……それは……
「まったく、一昨日に続いて今日もとは……春日は悪戯好きなところはありますが、こうまでルールを無視するような生徒ではないはずなのに、長瀬と龍宮にしても」
「すいません、一応、ホテルのカメラに出る姿は無かったのですが」
「あ……あははは」
「アハハ」
数人の生徒の姿がホテルに見当たらないのだ。
一昨日の晩には教師であるネギと、生徒である神楽坂が同じように所在不明となっており……その時は、学園長の急な用向きで外出する必要があったと、事後報告があったが。
今日は、春日美空、龍宮真名、長瀬楓と言う生徒が居なくなっている。
「その、また学園長のお使いとか……」
何とか、瀬流彦が事実に近しい言葉を口にするが。
「先程から学園長に電話しておるのですが、まったく出る気配が無いのです、一昨日もあれだけの騒ぎになったのです、事前に一言あってしかるべきでしょう」
瀬流彦がフォローするが。関西呪術協会の一大事と言うことで、ある事に奔走している学園長は電話に出る暇等無く。
事情を知る瀬流彦は冷や汗を流すしかない……
「ネギ先生も、先程からそんな調子で、本気で心配しているのですか」
「アハハハハハハハハハハアハ」
瀬流彦の冷や汗がまた増す。
此処に居るネギ先生は関西呪術協会によって用意された身代わりなのだが、有体に言ってあまり出来が良くない。
瀬流彦にすれば気が気でなく。
「まったく、ネギ先生……うん?」
「っ、今の」
「……ふぅ、まったく」
……何処からか、何かの吠え声……と言うか、叫びが聞こえた。
一瞬にして背筋を震えさせるような不気味な咆哮……それが何処からか聞こえ。
ほぼ同時に、魔法先生である瀬流彦にはとてつもない魔力を有する存在が此処、京都に生まれたように感じられた。
「む、なんですかな、今のは……何かの吠え声のような」
「近くの山の野犬ですね……専門の部署がちゃんと対応していたはずですが……本当に、使えない」
ふぅと、適当なことを口にしながら、深々と溜息を洩らすメディア。
そのまま、新田先生の頬に指を添える。
「む、待つんだ、急に何……を……」
直ぐに、その意識が途絶え、新田先生は眠りへと落ちていく。
それを優しく抱きとめ。
「あ、あの何を」
その新田先生を近くにあったソファに座らせると。
メディアはもう一つ溜息を洩らし。
「アハハハハバブンッツ」
目障りなネギの身代わりの頭部を、躊躇い無く殴り壊した、直ぐにそれは一枚の符となって床に落ち。
其の身から尋常ならざる莫大な魔力が溢れ出る。
「本当に使えないガキね……まったく」
右往左往する瀬流彦を無視して携帯電話を取り出すと、ある電話番号にかける。
数度のコールの後、相手は出たようで。
「朱雀? ガキと西がへまをやらかしたわ、片付けに行くわよ…………魔法の秘匿は魔法使いの責務よ、私情を殺しなさい、下手をすれば数万人規模の魔法目撃者が出るわ……えぇ、直ぐに向かうわよ」
其処に在るのは一人の魔女、最強の魔女。
リョウメンスクナノカミが復活し、その咆哮が一般人の耳にまで届いた。もはや、一刻の猶予は無いと。
狼狽する瀬流彦の前で電話口に向けて言葉にし、しかたなく自分達が片付けると言い切る。
その携帯電話からは小声で返答が返る。
『闇の福音出撃まで、後10分ほどのようヨ……お早めにネ』
くっと、その情報提供に嘲る様な笑みを浮かべるメディア。
少し前に、吸血鬼にかけた呪いが発動したから何かあっただろうとは思っていたが、学園も切札を切るようで。
「そう……じゃ、さっさと終わらせてしまいましょう」
瀬流彦に背を向け歩き出す、これで学園には勝手に報告されるだろう。
闇の福音が来るなら後片付けは其れに任せてもいいが。あれが最強の魔法使い等と嘯くのも気分が悪い。
彼女達には目撃してもらおう、魔法秘匿のために尽力する最強の主従の姿を。
故に、最強の魔女は、その主の元へと向かう。
己等が最強を証明するために。
さて、薬味が盲信するマギステル・マギ主従の出撃です(ぉぃ
……原作ではこれでエヴァに弟子入りフラグが立ったことを朱雀が教えていなければ、あんな喜劇は起こらなかったろうに(何