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裏話2
魔女達の出陣から少し時を遡り、ホテルでは日常が続いていた。
1班の面々は取り留めの無い会話をしており、5班の面子とはかけ離れた日常に身を置いている。
そんな中、コンコンと、軽いノックの音が響く。
部屋に居た面々は少し怪訝そうにしながらも、一人が扉を開き。
「あれ、超さん?」
「お邪魔するネ」
「どうかしたの?」
其処に居たのは、麻帆良最高頭脳とまで称えられる才媛、超鈴音だった。
彼女は6班の班長であり、此処、1班とは特に関係は無いのだが……敢えて言うのであれば、部屋が近いくらいだろうか。
そんな彼女が突然、1班が宿泊する部屋に現われた。迎え入れた釘宮は不思議そうに尋ね。
「うむ、しばらく部屋に居させてほしいネ」
「別に良いけど……何かあったの?」
「うむ、少し葉加瀬と言い合いをしてしまったネ、頭を冷やす時間がほしいネ」
「言い合いって……け、喧嘩? 超さんとハカセが!?」
思わず驚きの声が釘宮から漏れ、その言葉に部屋に居たほかの4人も視線を向ける。
千雨とアキラ、桜子と柿崎が部屋に居たが、超が口にした言葉には思わず全員が驚く。
3-Aの天才その1の超と天才その2の葉加瀬は二人とも、とても仲が良く。
二人で大学部のロボット工学研究会に参加し、一緒に共同研究を行う等、親友と言っていい関係の筈で。
「うむ、どうしても我慢できなかったネ……確かに言い過ぎた気はするガ」
「あぁ、取り合えず、座れ……今、お茶を淹れるから、相談なら乗るぞ」
1班の班員が揃って心配そうにした後で部屋に迎え入れる。
千雨が急須を手にし、アキラや釘宮は左右から超を支えるように肩に手を置く。
何があったか分からないが、本当に喧嘩をしてしまったのなら、何とか仲直りできるよう尽力するのが3-Aでは当然の行為で。
「何かあったの? 今日の自由行動でとか」
「いや……大したことではないのだが」
「大したことないなら、超はそんな顔しないでしょ。何があったの」
事実、超はかなり難しそうな顔をしている、何か深く考え込んでいる顔だ。
それこそ、教室で論文の推敲をしているときにそんな顔をしていたかもしれない。
そんな顔をする超に、アキラや釘宮が励ましの声をかける。
柿崎も心配そうで……千雨がお茶を超の前に置き、椎名は何故か首を傾げ。
超は一口、お茶を口にすると……それを口にした。
「実は……数学の証明で単連結の三次元閉多様体は三次元球面に同相であるという予想、所謂ポアンカレ予想における証明の話をしていたのだガ、三次元閉多様体の定義で意見が分かれてしまったヨ、私はリーマン予想でも使われた公式を使うべきだと思うのだガ……ふむ、相談に乗ってもらうならどんなものかきちんと説明しないといけないナ」
「で、明日は4班と合流で良いよな」
「そうだね、また美味しいものが食べられそうだし」
「亜子が頑張る感じだったしねぇ、ところで、ディルムッドさんは呼び出せるの?」
「朱雀が連絡すれば来ると思うよ」
「うん、大丈夫」
「聞いたなら、ちゃんと相談に乗ってほしいヨ」
肩を落して口にした言葉に、1班の面々は完全に無視をした。
サラリーマンだかポンカンだか知らないが、そんな頭の痛くなりそうな説明を聞きたくは無く。
難しい顔をしていたのは単純に難しいことを考えていたからだと答が出たのだから。
そんな中で、超は問題なく1班の部屋に溶け込めた事を安堵してお茶を飲む。
実際には、超と葉加瀬との間に言い合いなど無い、口裏こそ合わせてあるが、要は1班の部屋に入り込む口実だ。
加えて、あんな小難しい説明をしようとすれば深く聞かないだろうし。
「いや、大したこと無さそうだし」
「だから、大したことは無いと最初に言ったネ」
そんな理由と知れば、然程、問題はないと理解するだろうと。
ちなみに、これと時をほぼ同じくして、春日美空がメディアの部屋へとカミカゼ特攻を果たしていた。
……関西呪術協会におけるトラブルの連絡が関東魔法協会に届けられたのだ。
そのために、超はこの部屋を訪れた。
学園長がGFに救援を求めたことは超にも伝わった、そのため、春日や瀬流彦がGFへの影響度の高い千雨や桜子、アキラに接触することを怖れたのだ。
いきなり部屋に飛び込んで土下座でもされようものなら、さすがに困るだろうし。
瀬流彦あたりがそれをやれば、たぶん首が飛ぶ。物理的に。
「まぁ、頭が冷めたら戻るから、暫くは居させて欲しいネ」
「別にいいけどな……」
そのまま、人数分のお茶を淹れると取りとめも無い話題で盛り上がり出す。
幸いにして、春日も瀬流彦も、この部屋を訪れるような命知らずな真似はしなかったようだ……実際には試みて魔女の罠に嵌った可能性もあるが。
万一の備えだった超は、適当に話を合わせるだけでよく……
「で、実際は何処まで進んでるのあんた達」
会話の議題は、修学旅行の夜らしいガールズトークへと移っていった。
にやにや笑うのは釘宮と柿崎、そして対象は千雨と桜子とアキラだ。
「「「ただの幼馴染」」」
けれど、3人から返る返答は其れのみ……最も、多少紅くなっていたりと照れも入っているようだが。
一応、3人とも認識上は幼馴染と言う間柄で。
「いやいや、どうでしょう釘宮さん、こんな事言ってますが」
「えぇえぇ、お店に入るたびに隣の席を取り合ってた時は、あれだけ熾烈な奪い合いをしてたのに、こういうところは意見が合うんですなぁ」
「ほぅ、それは是非見てみたかったネ」
今日の食い倒れツアーでの一件を持ち出される、最終的にはローテーションが確定したのだが、回数が多かったために釘宮も気付いたようで。
「あ、明日6班も一緒に来る?」
「興味深いネ」
くっふっふと笑う3人のクラスメイトに千雨達も息を洩らす。
3日目の完全自由行動日は私服だった上、メディアやディルムッドまでいたせいで、クラスメイトの前にも関らず普段の様子を出しすぎてしまったようで。
「意外に行動力のある長谷川と、自慢の凶器を装備してるアキラ、何だかんだで漁夫の利を得そうな桜子……誰が最初に頭一つ出ると思いますか、解説の超さん」
「難しいネ、何せ、ツンデレ眼鏡っ娘、癒し系凶器、天然ラッキーガールとそれぞれが、特徴のある武器を備えているネ、特に、あの凶器相手に未だに耐え凌いでいる朱雀さんの自制心が信じられないネ」
「そうか、確かに……あんな凶器が傍にあって、まさか何もしてないなんて普通は無いよね」
「……なんで私の胸を見るのかな、超、柿崎」
軽く胸元を隠しながらアキラが呟くが、柿崎のテンションは上がってきた様子で。
「と言うことは、実は既に一歩先んじてるのも居ると?」
その言葉に、一瞬、千雨の視線が桜子に向く……実際、桜子は千雨の前で、寝惚けて朱雀と仮契約をしており。
……その行為は一般的にはキスと呼ばれる行為である。
「あ、今、長谷川、桜子を見たね……って事は、実は桜子が」
「え? ん〜あったような無いような……て言うか、あったっけ千雨ちゃん」
「知らん、私は知らんぞ」
ちっと舌打ちして眼を逸らす千雨、あれさえ無ければ自分が仮契約をする流れだったのだが、メディアさんの暴走でその話も流れてしまい……
「ねねねね、桜子、朱雀さんにお酒呑まされた事とか無い? 気付けば急に眠くなって寝ちゃったこととか、朝一緒のベッドで起きたとか」
「あるよ、甘酒だったけど……そういえば、確かにあの時は急に眠くなったかな」
「「あったーーーーー!!!!」」
桜子の爆弾発言に驚きと共に叫びを上げる柿崎と釘宮。
実際には当時小学3年生だったのだが、そんなことは関係なく二人は盛り上がり。
「けど、その時は千雨ちゃんとアキラも一緒だったし」
「「しかも4人で〜〜〜〜!!??」」
「ほれ、アキラ、お前の分のハリセン」
「うん、私が釘宮だね」
その直ぐ後、スパーンと言う景気の良い音と共に、一瞬だけ部屋に静寂が訪れたのであった……
「にしても、やはり朱雀さんはモテモテネ」
「将来苦労しそうだよねぇ」
「何だ、また叩かれたいのか」
クスクスと笑みを浮かべる柿崎にハリセンを構える千雨、直ぐに両手を上げて降参状態をアピールし。
「ふむふむ、やはり一夫多妻の制度は必要ネ」
「今度はお前か、超」
ハリセンを手にしながら超を睨む千雨。
「いやいや、違うネ、少し構想している事があってネ」
「構想? さっきのサラリーマンとかポンカンみたいな?」
リーマン予想とポアンカレ予想のことを思い出して聞いてみる、けれど超はそれに首を振り。
「少し違うネ……まぁ、良いカ、私には夢があるネ、その夢の話ネ」
「ふ〜ん、どんな夢?」
「……国を作りたいネ」
「「「「「国?」」」」」
突飛もない言葉に、さすがに5人ともが驚いた顔をする。
会社を作っていることくらいは小耳に挟んでいるが、いきなり跳び越えて国に行くとは思わず。
「うむ、どんな者でも受け入れ、周りと適度な距離を保ち、平和のために尽力する、一夫多妻制の国ネ」
「最後はちょっと待て」
千雨が呟くが、超は気にもしない様子で。とても嬉しそうに語っている。
それを見る桜子も何故か嬉しそうにし。
「国なんて、どうやって作るの」
「土地は……砂漠がいいかナ、広大な砂漠地帯を買い取って、其処を人間が住める環境にしたいネ、環境は不毛な大地で構わないネ」
地域によっては、国として十分な広さの砂漠地帯を確保できそうだと語る超。
不毛な大地であっても、空気があるだけでも随分違うのだと。
「緑地化ねぇ……何年かかるんだ其れ」
「……今の科学技術ならば、100年後には月や火星に人が住んでてもおかしくないネ、そう考えれば、空気があるだけ100倍マシネ」
「100年生きる気かよ」
「ふっふっふ、天才・超鈴音の知識は既に100年後の人間に追いついているネ」
「……あながち冗談と笑えねぇのが嫌だな……絡繰の例があるし」
「ふっふっふ……む、誰か来たネ」
そんな、取り留めない話をしていると、ふと、何かに気付いた超が部屋の押入れに飛び込んだ。
その直ぐ後に、1班の部屋をしずなが訪れ。
「1班は……全員居るわね」
確認した後息を吐く。
「あの……もしかして、また?」
困った様子のしずなに尋ねると、やはり頷き。
「今日は、春日さんと龍宮さんと長瀬さんかしら……本当に、困った子達」
一昨日の神楽坂不在の騒ぎを思い出して問えば、やはり当たりのようで。
困った顔をして去っていくしずな、押入れから超が出てくると。
「超、戻ったほうが良いんじゃないか?」
「身代わりをおいてるから大丈夫ネ、もう少し置いてもらえるとありがたいヨ」
6班の部屋には仕掛けが施してあり、不在でも問題ないようにはなっている。
そのため、見つかりさえしなければ超の不在が発覚することはなく。
その時、何処からか、何かの叫びが聞こえた。
一瞬、部屋に居た全員がびくっと身を竦ませるほどのナニカ。
それが、京都の街に響き渡った。
「何だ……今の」
それで、超は計画の成功を確信した。
今のが、恐らくはリョウメンスクナノカミの叫び。
で、あれば、計画通りにスクナは復活し、計画通りに暴走を演じているのだ。
……GFが、一旦、関東魔法協会や関西呪術協会への協力を拒んだ以上、参戦には1アクション必要だ。
気が変わったと言って理由も無く参戦しても良いだろうが、万一、それまでの放置を勘繰られても困る。
魔法秘匿が損なわれる危機があったためと言うことならば、魔法使いが事態の収拾に乗り出すのは不自然ではない。
故に、リョウメンスクナノカミは復活と同時に魔法の秘匿が危うくなるような叫びを上げる事は計画の上で。
次いで、これも予定通りに、超のポケットの中で携帯電話が着信音を奏で始める。
それを確認すると、声が漏れないように窓際により。
通話ボタンを押した。
『朱雀? ガキと西がへまをやらかしたわ、片付けに行くわよ…………魔法の秘匿は魔法使いの責務よ、私情を殺しなさい、下手をすれば数万人規模の魔法目撃者が出るわ……えぇ、直ぐに向かうわよ』
携帯電話から響いてくるのは苛立った様子のメディアの声。
此方からの返答等聞いていない、ただ、向こうが勝手に口にしているだけ。
朱雀の携帯電話を預かっておいて、通話ボタンさえ押せばいいのだ、メディアが魔法関係者に電話口への発言を聞かせることだけが目的なのだから。
また、これで、朱雀の携帯電話の通話履歴にもきちんとそれが残される。
メディアは魔法関係者である瀬流彦の傍に居るはずなので、これで、意図は関東魔法協会に伝えられる。
「闇の福音出撃まで、後10分ほどのようヨ……お早めにネ」
最後に、背後の気配に気をつけながら。
小声で、こちらからも軽く情報提供すれば、全ては終わり。
後は、瞬く間に終焉へと向かうだろう。
全ては魔女の予定通り、故に問題なく超は振り返り。
……何故か、笑顔の、3人が居た。
「ど、どうしたネ、3人とも……それに、柿崎、釘宮」
声は聞こえなかったはずだ、その自信はある、けれど何か迫力があり。
壁際によっている二人、まるでナニカから逃れるようで。
「いや」「大したことじゃ」「ないんだけど」
にこにこと、笑う、3人。
全て、予定通りの筈で……
「「「携帯電話の着信音が、朱雀とお揃いの理由とかを聞きたいかなと」」」
笑顔と共に、ガールズトークは第二部へと突入するのだった。
修学旅行編の裏話です。
ちょっと携帯電話の相手が分かりにくかったようだったので。
暴走は予定の上。
携帯電話は超が出ていた、と言う辺りですね。
そして、京都編の後はフェイトの代わりに超が舞台に上がります。
常に主人公勢は裏方ですwww
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