あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願いします
累計ユニークアクセス 年末に104万を達成いたしました。
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皆様のお陰で、昨年は大変な評価をいただけました
本年も、期待に応えられるよう頑張りたいと思います。
番外編4
ゆるやかに空から降るのは、水ではなくもっと寂しい粒。
「雪か……唯でさえ、歩きにくいってのに」
「先週降れば良かったのにね、ホワイトクリスマスになったし」
「クリスマスのときも、少し降ってたよ? 少しだけだけど」
吐く息も白く染まる、冷たい風に吹かれながら、3人の少女はゆっくりと歩を進める。
その足取りが普段よりも緩やかなのは、普段に無い履物をしているからだろう。
また、着衣自体も普段とはかなり装いを変えている。
師走の十二月。一年の締め括りと言うべき月も、既に残すところ、後、数十分となっていた。
十二月三十一日、大晦日である。
学生である3人は、当然冬休みの最中にあり、其々実家に帰っていた。
ただ、大晦日と言うイベントを見越して集まることを決めており、年越しを一緒に祝おうという話になっていた。
毎年同じようなことをしているので、定例行事とも言えるだろう。
故に、3人は普段にない装いで着飾ると、待ち合わせ場所へと足を運び。
「あら、来たわね」
待ち合わせ場所には3つの影……昨年までは2つの人影が待っているのが通例だったが、今年は一人増え。
その彼とは、3人も面識があった。
「ディルムッドさん、来られたんですか」
外国に住んでいるらしく、普段はめったに顔を見せない幼馴染の保護者だ。
モデル体型で、待ち合わせ場所に立っているだけでも視線を集める美丈夫……ただ、少しばかり自分達に対して丁寧に接しすぎる感があるのが気になっているが。
高級感のあるスーツを身に纏い、あいも変わらず女性の視線を集めている。
「虫除けにね、朱雀だけじゃ足りなかったみたいだから」
そう、軽く言い放つのは、これも高級そうな着物で身を包んだ女性。
長い髪は無造作に下ろし、かんざしを挿しているが、もともとの美貌もあって、特に不自然な感じはせず。
「あぁ、去年は、大河内も声かけられてたからな」
昨年の惨事を思い出して、僅かに顔を顰める。
同年代に比べて発育の良い少女は、中学一年の頃には既に高校生くらいには見える容姿をしており。
結果として、数名の男子校生に声をかけられ……後の惨事を招いていた。
「あれ、3人とも着物新調しました?」
そして、その惨事を巻き起こした張本人……3人の幼馴染でもある、朱雀と言う名の少年も待ち合わせ場所にはいた。
ディルムッド同様、ブランド物らしきモード風の装いに身を包んだ少年は、3人の少女たちを見渡すとそう呟いた。
メディアと同じ、和服で着飾った幼馴染達を……
「と言うか、贈られてきたんだ……懸賞に当たったとかで」
「私も」
「出したのは私、3人とも当たって良かった」
にこにこと、無邪気に微笑む桜子、その強運は未だ衰えることを知らず、雑誌か何かの懸賞に自分と、幼馴染二人の名前で応募したところ、見事に三着の着物を引き当てたらしい。
「よく似合ってますよ……千雨ちゃんは、少し雪がかかってますが」
それを誉めた後で、肩にかかっていた雪を軽く払う。
千雨は照れながらも其れを受け入れ、合流することが出来た6人は神社に向かって足を進めるのだった。
「冬休みでも、やっぱ結構人通りがあるな」
「龍宮神社は有名ですからね……」
彼等が歩むのは麻帆良学園都市の中だ。
冬休みと言うことで、まして、深夜十二時近いと言うことで、普段ならば人通り等無いのだろうが、大晦日と言うことであれば話は別だ。
皆、一つの目的のためにある場所を目指して集まってくる。
着物姿の美少女3人と美女1人、加えて美形の男性2人と言うことで、それなりに注目を集めるが、さすがに慣れたのか6人が気にすることはなく。
「しかし、寒いな……カイロ3つじゃ足りなかったか」
「私、まだ持ってるよ? 使う?」
「もらうもらう、悪いな椎名、大河内は大丈夫か?」
「大丈夫、長谷川はあんまり寒さに強くないよね」
「でっかい肉の塊を二つぶら下げてるお前とは違うんだよ」
千雨のからかいにアキラが顔を紅くして怒ったようなポーズを見せる。
それを適当にあしらうが、どちらも冗談で言ってるのが分かっているのか、表情は二人とも笑っており。
「あ、鐘の音がし始めた」
「除夜の鐘ですね……」
龍宮神社前の階段まで至ったところで、鐘の音がし始める。
時計を見れば、今年も残すところ後僅か、自然、6人は其処で足を止めた。
鐘の音が響く中、周りも自然と足を止め始める。
それはもう、日本人の習慣とも言って良いだろう。
やがて、時計の短針と長針が重なり。
麻帆良学園の空に花火が幾つも打ち上げられる。其れは、年越しの瞬間。
今、新しい年が始まる。
「「「「「明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」」」」」
朱雀とメディア、千雨、アキラ、桜子が声を合わせてぺこりと其々にお辞儀をし合う。
ディルムッドは日本の習慣をあまり知らないのか、慌てて真似をしているが。
「ふふ、なんだか変な感じね……みんな、今年もお願いね、ちょっと早いけどお年玉を渡しておこうかしら」
「…………常識的な範疇でお願いしますね」
年が変わった節目は一瞬で終わる。後は普段と変わらぬ日常がまた一年始まるのだ。
故に、年明けの行事の一つとしてメディアがお年玉袋を3人に渡し……
「……あの、今年もまた、分厚い気が……」
「……受け取ってしまえば、受け取ってしまえば新型PCが……だが、人としては駄目な気も……」
「ありがとうございます、お母さんに渡しておくね」
手渡された其れにアキラが戸惑い、千雨が葛藤し、桜子は開けもせずに親に渡すことを即決する。
実際、1cm程の分厚さのお年玉袋を受け取るのも、中身を確認するのも怖ろしいことだ。
是も毎年のことなので、返すか、常識的な金額にしてもらうのが通例だが。
「さて、お参りね」
そこはメディアも分かっているのか、返事もせずに龍宮神社の奥へと歩いていく。
残された者たちは慌てて後を追うことしか出来ず。
ひとまず受け取り、この後予定している宴会の席で返すか何かすることを決めるのだった。
そのまま、参拝をするために参道を進み、5人は拝殿へと向かう。
メディアは、神様へお参りするのは柄ではないと、お参りを好まないため、参拝を行うのは他の5人だけになり。
其々賽銭箱に小銭を投げると、礼にならった参拝をしていく。
毎年と同じ、恒例行事で……
「? …………」
ふと、横を見た千雨が怪訝そうな顔をする。
大したことではないが、隣の朱雀の参拝が妙に真剣な様子だった気もして……
ただ、それも、そう長い時間ではない、特に問題も無く5人は参拝を済ませ。
「さて、施設に年越しの宴会の準備をしてありますが、他に何かありましたか?」
「おみくじとか?」
「同じのしか出ないから、私は良いな……それより、甘酒配ってるから貰ってくるね」
おみくじを引くと言う行為が、大吉を受け取る行為に近い桜子は特に興味も無さそうに、甘酒を配っているほうへと向かう。
アキラは苦笑しながらそれについていき。
「絵馬でも貰うか……」
「そうですね、私も一つ、頂いておきましょう」
基本的に、運の良い朱雀も特に興味無さそうだ、千雨は中等部に上がってから、妙なクラスメイトに囲まれたことで、神頼みの一つもしたくなり。
朱雀と二人で受付所へと並ぶ。
幸い、行列は然程でもなく、直ぐに窓口まで辿り着き。
其処で、千雨は目元を押さえて明後日の方向を向いた。
目が疲れているのか、妙なものが見えたようで。
「……とりあえず、朱雀、金は後で払うから私の分も絵馬を貰っておいてくれ、ついでに厄払いとか、そういうお守りがあったらついでにそれも、私には今、変な幻覚が見えた」
「クラスメイトに向かっていきなり失礼だな……サービスしようかと思ったんだが」
「私の眼には、クラスでも、おかしさでは5指に入る留学生が巫女服着て売り子やってるように見えたんだよ」
「正解だ、ほら、絵馬に厄除けのお守り……隣の彼氏に渡せば良いのか」
「彼氏じゃねぇ……幼馴染だ」
売り子をやっていたのは千雨のクラスメイトでもある龍宮真名と言う少女だった。
彼女は、ここの巫女をしているのだが、明らかに日本人ではない顔立ちとスタイルは、巫女服とはミスマッチな感じがする……そういうのが良いという者も居るのだろうが。
覚悟をしたのか、あきらめて正面を見た千雨はゆっくりと息を吐き。
「ロボ子と良い……狙いすぎな語尾のやつと良い……挙句は年齢詐称巫女か」
「よし、その喧嘩買うぞ」
はっはっはと、朗らかな笑みでモデルガンを取り出す龍宮。
心の中の葛藤を吐き出した千雨の暴言はさすがに聞き逃せなかったのだろう。
龍宮にしても少女としてのプライドと言うものがあり、年齢詐称などと言う単語は聞き逃せず。
「あぁ、千雨ちゃん落ち着いて、言いすぎですよ、色々あるかもしれませんが、クラスメイトなんでしょう? 同い年です同い年」
「ふふ……朱雀、お前の目には私とこいつが同い年に見えるのか」
平均的な中学二年女子に比べれば、十分に胸を張れるスタイルを誇る千雨。
けれど、目の前の異国風巫女さんは、そんな自信を容易く打ち破る。
身長にして、およそ22cmの差は大きく。そのほかも色々と違い……
「えぇ、まぁ……世の中いろんな人が居るんですよ、人を外見で判断しちゃ駄目です」
そのまま一瞬、龍宮と朱雀の視線が交錯する。
其れは、互いの裏の気配を察した一瞬の邂逅で、朱雀はその魔眼を前に目を細める。
一瞬だけ、龍宮の指がモデルガンの安全装置を触れ。
朱雀はぐいっと、耳を引っ張られた、千雨に。
「千雨ちゃん?」
「いや、何だ、随分真剣に見詰め合ってると思ってな」
「ちょっ、違いますよ? ちょっと彼女の魔眼が気になっただけで」
「よしよし、朱雀、お前の病気が一向に治らないのは私の努力不足もある、仕方ないだろう、けど初対面のクラスメイトまで巻き込むのはどうなんだ、それとお前ももう中学二年だ、いい加減、厨二病からは卒業してだな」
「ちがっ、ちょっと、話を聞いてください千雨ちゃん」
絵馬とお守りを掴むと、支払いを叩きつけ、朱雀の耳を引っ張って去っていく千雨。
それを呆然と見送りながら、龍宮もゆっくりと安堵の息を吐いた。
緊張から僅かに震える指で、安全装置がかけられたままのモデルガンを仕舞う。
それで漸く、自身を向いていた二つの殺意は収まった……魔女と槍兵はそれでようやく警戒をやめたのだ。
朱雀と視線を交錯した瞬間には、それも含め三つの殺意に襲われたのだ、正直生きた心地がせず。
「なんとも、とんでもないクラスメイトが居たものだ」
あれほどの剛の者達に護られる少女と言うのは、特徴的な生徒が多い2-Aでも珍しい。
今まで一般人だと思っていた長谷川千雨が、傭兵龍宮真名の中で格をあげた瞬間だった。
「とりあえず、絵馬を奉納したら施設に向かいましょう」
暫しの問答の後、何とか許された朱雀は千雨と共に絵馬を描いていた。
「そうだな、お年玉の話もあるし……さすがに返したほうがいいよなぁ」
「メディアさんはあんまり気にして無いと思いますけどね……と言うか、絵馬でも厄払いですか」
朱雀と桜子と言う金運コンビが傍に居ることで、メディアは金銭に苦労することは無い。
そのため、大金をぽんと渡しても、メディアはまったく気にせず。
絵馬に千雨は、まともな日常が戻ることの願いを書いていた。
「……後1年ちょっとなんだが……椎名のやつが、3学期とか、3年はもっと楽しくなるとか不吉なことを言い出してやがってな」
「はは……ははは……っと、私も絵馬を奉納します」
この先、中学二年の3学期から始まるであろう波乱の日々を一瞬夢想して、朱雀は眼を逸らす
沈黙のまま、書いた絵馬を手にし。
「世界平和……ねぇ……」
朱雀の絵馬には、はっきりとそう書かれていた……世界が平和であるようにと。
「今年は色々ありそうですからね」
「まぁ良いが……頼むから、魔王の復活とか、異世界からの侵略者とか言い出さないでくれよ、火星人が攻めてくるだとか……」
幼馴染が偶に洩らす妄言が、幼少期における現実と虚構の混同によるものだと信じる千雨は呆れて口にするが。
「…………いえまぁ」
魔王はともかく、異世界からの侵略と火星人は、実際有り得そうなので朱雀も困るしかない。
「其処で黙ってくれるなよ……」
「お、朱雀たちだ、ごーりゅー」
そんな中、甘酒を求めていた桜子とアキラが合流してくる。
後のほうにはメディアとディルムッドの姿もあり。
「椎名、お前顔赤いぞ、どんだけ甘酒飲んだんだ」
「少しだけー。ね、アキラ」
「う……うん……ちょっと?」
ふらふらと、上機嫌で近付いてくる桜子はピンポイントで朱雀へと突貫する。
それを受け止めた朱雀は苦笑して。
「はいはい、ふらつくようならおんぶしましょうか」
桜子を背負いながら、メディアやディルムッドとも合流する。
そのまま、麻帆良学園を出て、施設へ向かう予定で……
そんな中で、桜子が笑顔で、もう一度新年の挨拶を口にする。
「ふつつかものですが、今年もよろしくおねがいしまーす」
「……あぁ、何だ、改めて、今年もよろしくな」
「うん、そうだね、今年もよろしく」
「此方こそ、よろしくお願いしますね、3人とも……今年は、慌しい一年になると思いますので」
そうして、彼等の一年が始まる。
ある世界の運命を左右する事になる、一年が……
たつみーは吸血鬼編で、千雨や朱雀を眼にしてますが
吸血鬼戦では、後姿と逃げ去る様子から気づけなかったということでお願いします(ぇ
まぁ、番外編ですから、本編とは矛盾があっても仕方ないですよね、3ヶ月前はまさか過去編で出てくるとは思ってませんですし(ぉぃ
本編も6割ほどは書けてますが
何分、元旦と言うことで、親戚付き合いで昼間から酒が入ることが多く(マテ