今さらですがこの小説の注意事項を
転生者複数、ハーレム、オリ設定&展開があります。ご注意を
前話に書いとけば良かったのですがね……忘れてました、すみません。
それと主人公の名前変更しますた
第二話
ここが地球……前世の俺の故郷……。
「良いところですね……ガイさん……」
「ああ」
しかし感慨にふける間も無く隣から発せられた桃色オーラでブレイク。
俺のライフポイントは一気にゼロとなった。スイーツ(笑)。
目の前には立派な一軒家。父さんがPO☆Nと買ってくれたそうで。
相変わらず時空管理局ってお給料が良いね。
桃色世界へと旅立った二人を置いて、俺はお座りしているベイを連れて中に入る。もちろんちゃんと足を拭いてあげるのを忘れない。
そして俺たちは家の中を軽く探索した。リビングを、トイレを、バスルームを、個室を、キッチンを。
うん。広いね。それになぜか個室の数が異様に多い。いつか妹や弟が増える時のためだろうか?
毎晩聞こえるプロレスごっこの音を思い出しながら俺はリビングへともう一度戻る。そこには父さんも母さんも居て、部屋の中から庭を見ていた。
「綺麗だな」
「ええ。でもガイさんの方が素敵です……」
……こういうセリフって普通逆じゃね? いろいろと。
それに父さんもスルーしないであげて、母さん今にも火が出そうなくらい真っ赤だから。
さすがは父さん。鈍感である。
隣のベイはまだ走り回り足らないのか庭へと駆け出し、そこでヒラヒラ舞う蝶を見つけて追い掛け回す。
「レイナさん、自分の部屋は見つけましたか?」
「うん。でもちょっと広いような……」
大人でも二人で使えそうな部屋だった。
ちなみに母さんと父さんは同じ部屋。つまりそういうことである。
「でも綺麗で使い易そうだから、好き」
「……そうか、それは良かった」
それに俺はまだ六歳。個室をもらっただけでもありがたいと思わないと。
《ふぁー……いやー、よく寝れました》
突如脈絡もなく声が響く。発生源は俺の胸元。
着ている服をグイッと伸ばしてそこから手を入れる。そして掴んだのは紐と繋がっている青い真珠もどき。
「おはようブレイブソウル」
《あっ、おはようございますマスター……っとこれはこれは御館様に奥様。大変失礼なところを》
このピコピコ光る謎の物体の名はブレイブソウル。俺のデバイスだ。
昔誕生日に父さんからもらった俺特製のデバイス。父さんの仲間が作ってくれたそうな。
無駄に人間臭い奴である。
「ああ」
「いえいえ。ブレイブソウルさんにはレイナさんが学校に行っている時もお世話になりますから」
《おほほほほーい! 不肖ながらこの私、必ずやマスターを最強の小学生にさせてみせます!》
何だよ最強の小学生って。俺は一体何と戦わせられるんだ。
そうなんだ。俺も今年で六歳となり、来年からは小学生としてキャッキャッウフフと学び舎に入ることに。
違和感しかない。でも通わないという選択肢もない。
ミッドチルダ出身の人間にしては珍しく、父さんは俺が管理局に入ることにあまりよろしく思っていないらしい。
せめて義務教育を終えてから、だってさ。
前世の記憶がある俺としてはさっさと管理局に入って父さんの仕事の手伝いをしたい。今さら小、中の勉強を習ってどないするんやって話だ。
……父さんも母さんも行って欲しいみたいだから行くけどさ。
「ワンワン!」
これからの学校生活に一抹の不安と脱力感を覚えていると、ベイがこちらに向かって吠える。尻尾を振って道路をしきりに見ている。どうやら散歩がしたいらしい。
「父さん。母さん」
「そうですね。散歩がてらどんなところか見て回るのも良いですね」
一を聞いて十を理解するというのは、こういうことを言うんだろうな。
母さんからの許可をもらった俺はベイの首輪に散歩ようのリードを取り付ける。
「ちょっ、こら暴れるなベイ!」
しかしテンションマックスのベイは聞く耳持たず。俺の顔を舐めたり前足を上げて寄りかかって来たりする。相変わらずの暴れん坊だ。
ちなみに父さんがすると凄く静かになって、お前誰って言いたくなるほど従順になる。俺の時もそうして欲しいものだ。
《マスター、頑張ってください。具体的に言うと涙目になって私に萌えを下さい》
うるさいよアホデバイス。
なんとかリードを着けた俺はベイを連れて家の前へと出る。父さんと母さんもその後ろからゆっくりと着いてきた。俺的には一人で行っても良いんだけど、まだ年齢が年齢だしこの星に来て間も無いから仕方ないか。
「そう言えば引っ越し屋さんから『翠屋』という喫茶店がオススメと聞きました。寄ってみます?」
「……そうだな」
「レイナさんも良いですか? そこのシュークリームは美味しいって評判らしいですよ?」
シュークリームか……俺はどちらかと言うと羊羹とか饅頭みたいな和菓子派なんだけどな。お茶と合うし。でも洋菓子も別にそこまで嫌いって訳じゃないから一度行ってみるのも良いかな。
「うん。俺は大丈夫」
「……レイナさん」
頷いて肯定したら何故か母さんに肩を掴まれる。な、何?
「『俺』だなんてそんな可愛くないのお母さん認めません。『僕』と言いなさい」
強制するのはイケないことだと思うんだママン。
母さんはいつも『俺』って言うとこうやって一人称を『僕』に変えようとしてくる。まだ幼いからというのもあるが、俺は中性的な容姿をしている。それに加えて母さんの意向から髪を切らずにずっと伸ばしているからポニーテールしないと女の子に間違えられることがある。ミッドにいた時に告白されたことがあったし……変態紳士(おとな)に。女の子の服を着た時にゃあ俺がいくら男だと言っても誰も信じてくれないだろうな。
「では言ってみましょう。さん、ハイ!」
「……僕は大丈夫」
「うん。完璧です!」
満足そうな母さんにため息を一つ。助けを求めるように父さんを見るが、こちらをジッと見るだけで何も言わない。特に意義はないということか。……なんか子どもっぽく過ぎて違和感があるんだよなぁ……。
《マスター》
「何、ブレイブソウル?」
《そこは頬を赤らめさせてモジモジしながら『……ぼ、僕は大丈夫』と言うところです。さあ、ワンモア》
絶対やらない。
◆
新しい家から随分と歩いた。テンションマックスなベイも俺を振り回すようなことはせず、俺の歩幅を合わせて歩いてくれる。道中母さんがナンパされたり、父さんが逆ナンされたり、それで母さんが暗黒モードに入ったり、変態紳士が俺をナンパしたりと色々とあったが、この街に移り住んで良かったと思える物をたくさん見た。
ひったくりを捕まえるたくさんの人々。お婆さんを背負って車よりも速く走って運ぶメイド。不良に絡まれていた女の人を助ける木刀を持った黒髪のお兄さん。……なんかおかしくね?
いや、でもそれだけこの街は優しさで溢れているということか。ミッドも良いとこだったけどこっちも負けていないかな。
「レイナさん、ここは気に入りましたか?」
「うん。街も綺麗だし空気も美味しい。それにここに住んでいる人は優しい人が多いね」
ちょっと自分の欲求に走る人がいるけど。
「それは良かったです。ほとんど無理矢理この星に移り住んだようなものでしたから、少し心配でしたのですが……」
まぁ……それは仕方ないかな。俺の魔法使いとしての資質がアレだったし、あのままミッドに居たらあまりよろしくない可能性もあったわけで……。
その点で言えば父さんの提案は渡りに船だったわけだ。いや、父さんのことだからこの事も見越していたのかもしれない……ううん、多分そうなんだろうな。
でもあの子には申し訳ないことを……いや、何時でも会えるし、ビデオレターを出すって約束したから今更どうこう言って仕方ないか。
「レイナさん。この星……地球はですね、私たちにとっても縁が深い所なんですよ」
「そうなの?」
「はい。詳しいことは省きますが、ここで私とガイさんのラブリーストーリーが始まりましてね……」
あっ、これ長くなるパターンだ。
《……おっ。奥様、翠屋という喫茶店に着いたようです》
「それでですね、私とガイさんがその時——ってあら? そうなのですか? いつの間にか着いていたようですね」
そう言って母さんは微笑んでオシャレな店を見る。どうやらここが母さんやブレイブソウルの言う『翠屋』らしい。おかげで助かったよ。
「では中でゆっくりと話しましょうか」
世界はそこまで優しく作られていないらしい。
「いらっしゃいませー!」
ベイのリードを適当な場所に括りつけて中に入ると、たくさんの人で溢れかえっていた。特にシュークリームを食べている人が多く、家族連れや女性の人が多い。
「大人二人に子ども一人です」
「すみません……ただいまテーブル席が満席でして、カウンター席しか空いていないのですが……」
接客担当らしき黒髪でメガネの女性の人が申し訳なさそうにそう言った。母さんはそれを聞いて俺の方を見る。体が小さいからカウンター席よりもテーブル席が良いと思ったのかな?
「お……僕は大丈夫」
「ではそちらでお願いします」
「はい、かしこまりました。ではこちらにどうぞ」
店員さんに連れられてカウンター席に着く。
「レイナさんはシュークリームとオレンジジュースで良いですか?」
「うん」
「それでは少し待っていてくださいね?」
そう言って母さんは父さんと一緒にメニュー表を見る。二人で一つのに。どうやら母さんはどころ構わずイチャイチャするようだ。桃色空間という結界魔法が発動して俺は無性にブラックコーヒーを頼みたくなった。それにこうなると俺は置いてけぼりにされるのが常。悪気は無いんだろうけど……。
俺は手持ち無沙汰でボーッとしていると、ふと視線を感じてそちらを見る。
「……!」
『ソレ』は俺が向くと慌てたようにして隠れるが、チョコンと茶色の尻尾が出ていて隠れているとは言えない。時々そっと出てくるが、すぐにさっと再び隠れる。
「……」
「……」
ジッと見ていると、『ソレ』は——女の子は隠れるのをやめてこちらをジッと見つめ返して来た。俺と同い年ぐらいか? こちらを見るその目は猫が興味を持った物に見るそれだった。心なしか彼女の頭から生えている二つの触覚がみょんみょんと反応を示しているように見える。触覚と言っても髪の毛なんだけどね。
「なのはが気になるかい?」
お互いに見つめ合い何だか変な膠着状態が続いていると、この店のマスターらしき人が話しかけてきた。
なのはとはあの少女のことだろうか。気になるといえば気になるので頷いておく。
「そうか。——なのは、こっちに来なさい」
その男性が触覚少女にそう言うと、その子は幾分か巡回するようすを見せてトコトコとこちらへとやって来る。
「この子は私の娘のなのはって言うんだ。ほら、なのは」
「……高町なのはです」
女の子……なのはは一言そう言うとマスターの後ろに隠れた。恥ずかしがり屋なのかな?
「レイナ……岡崎レイナと言います」
俺も自己紹介する。しかし言うのは地球での名前。ウィルタニアの性を名乗るには俺の容姿は日本人過ぎて違和感しかない。それでどうしようかと話し合い、父さんが母さんの家に嫁いだという設定が上がったんだけど、それを母さんが酷く拒否したんだ。何だか母さんが父さんよりも立場が上みたいになって悲しいらしい。どういう理由なんだ。ちなみに漢字で書くと『霊無』らしい。一瞬どこのキラキラネームだと。
「レイナ君か……良い名前だ。レイナ君は歳は幾つかな?」
「もうすぐ六歳になります。先月誕生日でした」
「ああやっぱり。もしかしたらと思ったら……この子も同い年なんだ」
そう言って目の前の男性はなのはの頭を撫で回す。髪の毛が乱れながらも『うにゃー』って言ってその子は喜んでいる。……仲が良いことが伺える。
「レイナ君は学校は何処に行くのかな?」
「確か……せいしょーというところです」
「せいしょー……ああ、聖祥か。奇遇だね、なのはも同じところに行くんだ」
「そうなの?」
俺はなのはに向かってそう問いかける。すると彼女は一瞬ビクン! と体を跳ねさせてマスターの体の影に隠れて、すぐに顔を出してコクリと頷いた。
「…………ねぇ、レイ」
「なのは、俺と友達になってくれない?」
「……とも……だち……?」
「うん。友達」
この子の目を見ているとあの子を思い出す。引っ込み思案で、でも仲良くしたいけどどうすれば分からない……そんな目をしていた。そんな目を見ていると何故か放っておけなかった。
「…………ダメ?」
「……ううん。私も、お友達になりたい」
なのははそう言ってニッコリと笑った。……なんだ、ちゃんと笑えるじゃないか。
「……でも、なのはお友達になるにはどうしたら良いのか分からない」
しかし彼女は顔をシュンと暗くさせるとそうポツリと零した。
——私、友達って居なかったから、どうやってなれるのか分からないんだ。
……あの子と似ている。確か同じようなことを言ってなのはのようにシュンとしていたっけ。
「…………俺は岡崎レイナ」
「……? 知ってるよ?」
「名前を教えて?」
「…………なのは。高町なのは」
「はい、これで俺となのはは友達」
「……ふぇえ?」
目を白黒させてなのははよく分かっていないようだった。最初から思っていたことだけど、彼女は感情がすぐに表情に出る子のようだ。……まぁ、この歳の子どもはそれが普通か。俺が異常なだけだし。
「父さんが言ってた。名前を呼び合えば、それでもう友達だって」
前世の頃はそんな風に考えたこともなかった。いつの間にか一緒に遊んで、喧嘩して、バカやって……そうして行くうちに友達になっていた。だからあの時どうすれば良いか分からないって言われて戸惑っていた時に聞かされた言葉に俺は感銘を受けた。
——名前を教え合い、そして呼び合うと良い。
そんな簡単なことで良いのか? と思ったけど、簡単だからこそ良いんだって気づかされた。だから俺となのははもう友達。
「……レイナ君」
「何? なのは?」
「レイナ君!」
「なのは」
お互いに相手の名前を呼び合い、そして同時に吹き出して笑った。理由は無いけど何だか可笑しく感じちゃったからだ。
「……いらない世話だったかな」
ん? マスターが何か言ったようだ。声が小さくてよく聞こえなかったけど。それにさっき何か言いかけていたようにも思えたけど……気のせいだったかな?
「なのは、友達できて良かったな」
「うん!」
……まっ、いっか。
「あら? レイナさんお友達ができたんですか?」
父さんと固有結界を作っていた母さんが現実世界へと舞い戻り、俺の前でニコニコしているなのはを見てそう言った。というか本当に二人の世界に行ってたんだ……すぐ隣の俺たちの会話に気づかないって……。
母さんがなのはへと視線を向けると彼女は再びマスターの影に隠れる。
「嫌われちゃいましたね……」
「ああ、いや。この子はちょっとあることがあって人見知りというか、対人恐怖症というか……」
対人恐怖症? それはまた……ん? でもそれにしては俺とはすぐに打ち解けたみたいだけど……自分で言うのも何だが。
「それはまた……。あっ、申し遅れました。私、この子の母のカナリア・岡崎と申します。この度引っ越して来まして……こちらは夫の岡崎ガイです」
母さんの言葉に父さんは一言呟いてぺこりと頭を下げた。
「これはご丁寧にどうも……私は高町士郎と言います。この子は高町なのは。ほら、なのは」
「……よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
ニッコリと優しい笑みを浮かべながら母さんはなのはにそう言った。彼女はそんな母さんの柔らかい雰囲気に当てられてかおずおずとぺこりと頭を下げる。
「ふふ、良い子ですね。確か聖祥に通うのでしたよね?」
「はい、そうなんです。あそこの学校は——」
俺たち子ども組を置いてけぼりに、大人たちは話を咲かせた。やれ我が子はカワイイだの、やれ昔から落ち着いているだの、やれこれで安心だの……話題の中心なのに疎外感を感じる。
俺も前はそうだったのかなぁと思いながら、なのはに向かって手招きする。呆然としていた彼女はそれに気づき、頭に大量のハテナを浮かべながらもカウンター先から俺の所まで移動する。
「レイナ君? どうしたの?」
「友達になったからさ、何か話そうよ」
本来ここのシュークリームを食べに来たのに、その店のマスターと我が親たちは主婦の井戸端会議の如く盛り上がっている。人間って会話が好きな生き物だからね……。
「うん、良いよ! でも何を話すの……?」
「うーん……だったら好きなこととかを……」
好きな食べ物、嫌いな食べ物、他にも色々な話をした。……最初は。
途中からはなのはがずっと喋り続けて、それを俺が頷いたり何なりして聞くという状態に。……どうしてこうなった。
子どもって大人のことなど気にせずに話し続けることあるよね? ライ○ーとかウルトラ○ンとか話したりする時の。今のなのはちゃんはまさにそれだ。ぶっちゃけここでの地球のテレビとかアニメは知らないから置いてけぼり状態。
ハハ、どうすれば良いんですかね……嫌な顔をしたら、なのははすぐに泣きそうな顔になりそうだな。何だかそういう子っぽいし。
「それでね、それでね!」
「なのは」
なのはのマシンガントークによって風穴を開けられまくっていた俺を助けたのは、最初に店に入った時に案内してくれたお姉さんだった。その人は俺の前となのはの前にシュークリームが乗った皿を置いた。
「あ、お姉ちゃん」
「これは私からの奢り。友達と仲良く二人で食べてね」
……奢り? そう言えば母さんたちは士郎さんとずっと会話に華を咲かせていたな。ふとそちらを見るとお互いに謝っている母さんと士郎さんの姿が。
「お父さんってば、他のお客さんをそっちのけに話し込んでたからお母さんに怒られちゃって」
だいたい話は分かった。
「いえ、それでしたら家の両親にも言えることですし……」
「ははは。ボクは礼儀正しいね。確かなのはと同い年だよね?」
仕様です。という冗談は置いといて、よく周りの人に言われます。
それはそうとこのシュークリームについてなのですが、これってこのお店の看板メニューですよね?
「ん? そうだよ」
だったらそれは丁度良かった。もともとこれを頼もうと思っていたんで。
だから奢りじゃなくて良いです。大人の人っていろいろとお付き合いとかがあってお金が必要なんですよね?
「……驚いた。まさか、なのはと同い年の子に諭されるなんて……」
——と、お父さんが言うと思います! この前も同じことがあってそう言ってました!
俺がそう言うとなのはのお姉さんは納得して仕事に戻って行った。……父さんゴメンね。今度肩叩いてあげるから……。
内心我が父にそう言い、俺は目の前のシュークリームを手に取る。……おお、良い香り。それに生地も柔らかくて美味しそうだ。早速口に入れてみる。
「……美味しい」
「でしょ!」
なのはが胸を張ってそう言うが、それだけの価値がこのシュークリームにはある。はっきり言って母さんのよりも美味しい。生地特有の変な味は無く中のクリームの絶妙なハーモニーを奏でて、フンワリとした食感が感じる甘さをさらに掻き立てていた。さらに噛めば噛むほど味が変化する。甘いのは甘いんだけど、その甘さは一辺倒ではなくまさに千差万別。結論、無茶苦茶美味い。
「おかわりはいる?」
「……お願いします」
甘い誘惑には勝てなかったよ。
三個も食べちまった。
◆
あの後、シュークリームを片手になのはと談笑という名のリスニングをしていると、それなりにいい時間になってしまっていた。外からこちらを見るベイの視線が痛いこと痛いこと……後でウンと構ってやろう。
「それでは失礼しますね、桃子さん」
「はい。これからもよろしくお願いします」
母さんとなのはさんのお母さん——桃子さんは早くも意気投合したようだ。珍しい。母さんって基本初対面の人にあそこまで気を許すことはないからなぁ……理由はだいたい分かるけど。
というかなのはの母さん若いなぁ……美由紀さんっていう大きな娘さんが居ることからそこそこ年取っているだろうに。亡くなったおばあちゃんと同じ人種かな?
「あの、ガイさん。少し聞きたいことがあるので、いつかお時間をいただけないでしょうか?」
「……はい、分かりました」
で、こちらは何やら不穏な空気。以前父さんと管理局の人が一触即発になった時よりは重くないけど、少しだけピリピリしている……感じかな? 士郎さんの目が真っ直ぐ父さんに向けられていて……うーん、何だろうこの感じ。
でも大事にはならないのは確かかな。勘だけどね。
「じゃあね、なのは」
「……帰っちゃうの?」
椅子から降りようとしたら、なのはに服の袖を掴まれてしまった。
「あらあら」
「ふふ」
お母さん方がこちらを微笑ましそうに見る。
それに気づかないフリをしつつ、はてどうしたものかと頭を捻る。なのはは確かちょっとした対人恐怖症と言っていたけど……今日話した限りじゃあ逆に感じた。どちらかというと人と触れ合うのが好きなタイプ。んで、それと同時に友達が少ない、または居ない、と。その居ない分を全部俺に注入しているような、そんな感じがした。だからこそ士郎さんは俺となのはをくっ付けさせようとした。
何でこの子がこんなことになっているのかは……勘だけど、あまりよろしくない理由があると思う。それもかなり複雑な。
つまり何を言いたいかというと——。
「また明日ね、なのは」
「……! うん、また明日ね」
そんな複雑なこと知ったことじゃない。友だちと仲良く遊ぶだげだ、ってこと。
さっきまでの考察もどきを客観的に聞かれていたら、全然前後が繋がってねーじゃねーかとツッコミを入れられそう。でもそれで良いんじゃないかな。人間ってそんなものだろうし。
「これうちの住所です。いつでも遊びに来てくださいね」
「……ありがとうございます」
会計を済ませて、不貞腐れているベイを連れながら、なのはの元気な声をBGMに俺たちは帰路についたのであった、まる。
ちなみに持ち帰ったシュークリームの一個をベイに食べられてしまった。そこまで放置されたことを根に持っていたのか。
というか犬が食っても大丈夫なのか……?
それと母さん。喫茶店で父さんたちのラブストーリーを話せなかったからって、シュークリームを食べている時にはやめてください。糖尿病になってしまいます。