第六話
「袁紹、寝る前は歯磨きをするんじゃぞ?寝る時は暖かくするのじゃぞ?顔良の言うことはちゃんと聞くんじゃぞ?無駄に高笑いはあまりしてはならんぞ?顔良の言うことはちゃんと聞くんじゃぞ?」
「おチビさんはいつから私の親になったのかしら?」
「しかも斗詩の言うことを聞くが二回あったよな」
「大事な事は二回言うものなのじゃ」
「ハハハ…」
顔良が苦笑いを浮かべておる、応援しておるぞ。
おぬしだけが頼りじゃ。
田豊や沮授も袁紹ざまぁに仕えるような事を仄めかしておるが顔良ほどの信頼は勝ち得まい。
仕方ないから顔良には田豊と沮授の言うことをよく聞くように言い聞かせておるし、本人もそのつもりのようで説得する必要はなかった。
「それにしても悔しいですわね。私より先に太守になるなんて…おば様も何を考えてらっしゃるのかしら」
「来年か再来年辺りには袁紹も太守になれると思うぞ。具体的には冀州辺りのはずじゃ。袁家の力を大陸の北と南から全土に知らしめようという計画なのじゃ!」
「あら、いいですわね。袁家こそ最高にして最強の名家という事を全土に知らしめるなんて…いいですわ!」
「そうじゃろそうじゃろ」
「オーホッホッホッホ」
「ハーハッハッハッハ」
二人して高笑いしてみたのじゃ。
「大丈夫かあの二人」
「大丈夫じゃないよーこんなところで高笑いされたら目立っちゃうよー」
「お嬢様はいつでも目立ってますよ!輝いてますよ!後輪が見えますぅ!」
「ああ、ここにも壊れた奴がいた」
外野が五月蝿いが細事じゃ。
それにしても…本当に大丈夫なのか袁紹ざまぁは…心配しても仕方ないことは分かっておるが…まぁ洛陽までは(他と比べたら)近いのじゃし会う機会もあるじゃろう。
「ではの、袁紹。達者でな」
「ええ、今度会う時はもっと大きくなってらっしゃい」
さて、南陽郡に到着じゃ。
道中の感想は広い大地をのんびり馬車でお尻が痛かった、この程度の事しかなかった…決して野宿の際に七乃が夜這いをかけてきたとかそれを察知した紀霊と一悶着などなかったぞ?本当じゃぞ。
改めて思うとダメな奴等しかいないの〜。
「ここが吾の城か」
「そうですよ、ここからお嬢様の覇業は始まるんですよ!」
「張勲、さすがにまだその発言は危ないと思います」
「えーでもでも〜」
吾も同感じゃ。
漢王朝の権威はまだまだ存在するから迂闊なことを言っておったらそのままの意味で首が飛ぶぞ。
そして南陽郡じゃが、さすが郡なのに州レベルの人口がいるというだけあって人は多い。多いのだが何というか、洛陽と同じで活気がない訳ではないがあるという訳でもない微妙な空気じゃ。
「話はその辺にしておくとして早く城に入るぞ」
「了解です〜」
「御意」
城に入るとまず感じたことは嫌な視線を少なからずあるという事じゃな。
その気持ちはもっともではあるがの、こんな小娘(仮)が上司では誇りに傷もつくじゃろう。
玉座の間に入ると数多くの文官武官がおったが…うむ、あまり覚えたくないほど怖い者ばかりじゃ。強面という意味でも魑魅魍魎という意味でもな。
「これより南陽郡は吾、袁術が統治するのじゃ!」
「「「「ハッ」」」」
膝を地面につき、拱手(中国の礼と言えばこれってやつじゃ)をして応えるが…人数がこれだけおれば圧巻じゃな。
「幼いお嬢様に代わり政を担う張勲で〜す」
「軍を統括する紀霊だ」
二人が挨拶すると空気が軋む音が聞こえた気がしたのじゃ。
面白くはないじゃろうな、今まではトップが無能であったから傀儡にして飼い殺しにしておったのじゃ、これからは吾も…と思う奴等は数多くおるじゃろう。
そういう奴等からすれば軍と政を代理する七乃と紀霊は邪魔者以外の何者でもないじゃろう。
「では早速ですが〜今から呼ぶ方は前へ出てきてくださいね〜」
次々名前が呼ばれていき、呼ばれた者が戸惑いながらも言われた通り前へ出てくる。
一通り呼び終え、いつも従者然とした紀霊が何やら将軍っぽいオーラを放っておる…さすが綺礼、いや紀霊は伊達ではない。
「お主らに吾から一つ願いがあるのじゃ」
「「ハッ何なりと——」」
「死んでたも」
たった一言、だがそのたった一言と同時に紀霊の剣が走り、首が飛ぶ…これはしばらく悪夢決定なのじゃ。
「全く薄汚い奴等じゃ、コヤツらは横領のみならず死体愛好などという狂った趣向を持った者達、吾が居る場所にそのような穢らわしい
一応就任早々にリアル首飛ばしというインパクトで「こいつヤベェ」という認識させる為の一手じゃ。
「ですよねーお嬢様の家臣がそんな下劣な塵蟲じゃいけませんよー」
「そうじゃろうそうじゃろう。…ハァ〜…吾は少し疲れたのじゃ」
「はいはい、後は私が話をつけておくのでお嬢様はおやすみになっていいですよー紀霊さんと一緒に休んでてください」
「うむ、では行くぞ紀霊」
「御意」
予定では斬った人数の半分はこの地の豪族達から改めて推挙する事で今回のことを鎮める為の餌にして、もう半分は吾の手駒を差し込む予定じゃ。
かなり強引な手ではあるが罪状は問題ないのじゃ、全て事実じゃからな。
こんなやり方は早々出来るものではないが袁家の力を持ってすれば難しいことではないのじゃ。
いくら跡目争いでゴタゴタしているとはいえ名門である袁家に喧嘩を売ることが出来る存在なんぞ袁家を知らぬほどの田舎者か、明らかに上と分かる劉家ぐらいじゃろう。
劉家より格が下がるが荀家や司馬家なんぞならばひょっとするかもしれんがここには居らんしの。
それにまだまだ絞る予定じゃ、今頃七乃がやっておるじゃろう。
「さて、これから忙しくなるの〜」
「御意」
<張勲>
「ではでは皆さん、よーく聞いてくださいね。別に私はどーでもいいことですけど優しいお嬢様の御心にいらない負担掛ける方は私が色々としちゃいますよー」
本当に色々しちゃう気満々ですからね?例えば宦官に昇格させてあげたり、ちょっと頭開いてみたり。
それにしても死体愛好家なんていう下種がこれだけ集まっていましたねーおかげでこの事をした時のお嬢様の顔色の悪さはぷにぷにの白肌が更に白くなってましたから…お嬢様がわざと何人か残しておくように言ってましたけどやっぱりやっちゃった方がいいと思いますよ。
でも、ここは貴方の忠犬七乃の頑張るところですね!もっと出番欲しいですし。
「いいですか、皆さん。私の手元にはまだまだ死体愛好家なんていう阿呆馬鹿愚物塵芥死ねばいいのに的な人がいるのは分かっているんですけどぉ、誰がそうなのか分からないんですよ。今から個人面談しますからその時にもし自白や密告をするなら
いきなり大虐殺なんてしたら色々と問題がありますから今は目を瞑ってあげますけどそのうち芽を摘んであげます。
「しかしですねーもしこれからこのような汚らわしい行いを続ける方には公開処刑ですからね」
冗談ぽく言ってますけど本当にやるから注意してくださいね。言わないけど。
それでも私の熱い思いが伝わってるといいけど…証拠はもう揃ってるから本当はこんなことしなくてもいいんですけどやっぱり出会い頭の斬首に不満を持たれて隠れられたり非協力的になられても困るんで飴も与える為のこれは前準備なんです。
「本人が自白せず、密告で発覚した場合は報奨金が出ますよー具体的には密告した方全員に五千万銭山分けです。いやーお嬢様は太っ腹ですねーただし虚偽申告は宦官にしちゃいますからねぇー」
皆さんざわつき始めましたね、特にが官職が低い方々が騒ぎ始めている。
何人か汗が止まらない方がいますがこれって自白ってことになるんでしょうか、私は資料で名前しか知らないけど明らかに彼らがその人達ですよ、と分かるぐらい動揺しています。
お嬢様も可愛い顔してなかなか悪劣なやり方を思いつくものです、さすがお嬢様。
ん、兵士さんから準備完了のお知らせが届きましたね。
「さあ、皆さんの天運が左右する時がやってきましたよ。ちなみに賄賂なんて渡したら宦官にしちゃいますからね。女の人は色々とマワしますよ?」
男性は腰が引け、女性は自分自身を抱きしめてぶるぶると震え始めた。
別に賄賂自体はお嬢様もいいとは言ってましたけど、今回は太守として初めての権力行使なので徹底的にやれと言われてますから容赦はしませんよ。
ただ問題はこの後使い物になるかどうかですよ。
お嬢様の可愛さの前に立ちはだかる何てことはないでしょうけど小石程度の障害にならないとも限らない。
…小石に
面談の結果目録にあった人の数三十人、そのうち十五人は自白して無罪、五人は白を切ったが周りに密告されて袁家流拷問術で痛めつけて再起不能に、更に残された十人は密告もありませんでしたねー多分上手く隠してるんでしょう。
こっちには証拠はもうあるんですけど…しばらくは泳がせて安心した頃に刈り取ってあげましょう。
もちろん、お嬢様の名が落ちないよう密告者にはちゃんと報奨金を与えてあげました…がそのうち回収してあげますから待っててくださいね。
お嬢様が私に政を任せるなんて…とか思ってたんですけどなかなか楽しいですねー弱い者いじめ、病みつきになっちゃいそうです。
そういえばまだしないといけないことが沢山あったんでしたねー袁家から派遣される方の中にも塵芥はいるそうですし、忙しくなりそうです。
お嬢様と遊ぶ時間が減るのは辛いですが軌道に乗ればお嬢様で遊ぶ時間も増えますよね!お嬢様、私頑張ります!
官僚処刑に関してじゃが、実は南陽郡は中央、つまり洛陽から落ち零れたけど田舎には行きたくない、中央から離れたくないという無能な官僚の掃き溜めになっておったのじゃ。
都会から近いとやはり出世する機会があるように思えるのじゃろうな。
しかしここに居る者は二流どころか三流、四流程度の者達ばかりで理由は大体の二流以上の者達はここに見切りをつけ、辺境の地に活路を見出すものが多い。
そして残っておる者達は色々な意味で洛陽より質が悪く、そのまま放っておくと吾の障害となりうるので早々に間引きしたのじゃ。
今回抜けた程度の人材なら吐いて捨てるほどおるからのぉ。
さすがの吾も賄賂云々ならともかく死体愛好なんぞ気持ち悪いものを放置する気はなく、どうせならおぬし等が死体になればいいのじゃ!という逆転の発想なのじゃ。
そしてこれからは吾の無双タイムじゃ!
「なんて思っておった時期もあったの〜」
ペタンペタンとまるで機械のように竹簡や木簡、数は少ないが紙の書類に印鑑を押しておる。
机の上には書類はないぞ?その代わり左右の部屋の壁は見えず、書類の壁しか見えぬがな。
…
……
………
「もう嫌じゃ!七乃はどうしたのじゃ〜!何処で油売ってるんじゃ!」
「七乃も自分の仕事で手一杯のようですよ、今も眼の下にくまを作って頑張ってます」
「ですよねー」
分かっておるよ、分かっておるぞ。七乃が吾を働かせておいて一人で油を売ってる訳がないのじゃ。
吾を困らす為に態とサボっておる可能性もあるが、その場合は吾の傍らにおって応援するのが七乃じゃ。
それにしても仕事多すぎじゃ、もしかしていきなり首チョンパして文官ども怒ってサボタージュしておるのか?…調べてみるのじゃ。
「八葉(はちよう)、いくら何でもこの仕事量はおかしすぎるのじゃ調べてたも」
「ハッ」
ちなみに八葉とは紀霊の真名じゃ、吾が太守となったことで紀霊は吾付きの家臣として迎い入れた際に真名を預かったのじゃ。
ただ原作でおらん将は正史通りの名前、つまり紀霊で一貫するがの。(オリキャラの場合真名で呼んでると誰か分かり辛い為)
真名とは日頃から呼んでいい者と親しき者達だけで呼ぶ者と分かれ、七乃は前者で紀霊は後者で吾も後者という設定じゃ…設定ってなんぞ。
「これでサボっておるようじゃったら解雇か降格じゃな、文句言うようじゃったらこの地の豪族ならば一族郎党皆殺しにするかの…そうじゃ真面目に働いておる奴等でも不満に思う者も多く居るじゃろうから潰した奴等の財宝や土地を奴等に一部分配してやるかの」
こうすれば吾への不満も和らぎ、影響力も増し、仕事も減るかもしれぬの…まぁ逆になる可能性もなきにしもあらず。じゃが頭が固くなった年寄りよりも新しい人材の方が調きょ——教育しやすいのは孤児院もどきで体験済みじゃからなぁ。
孤児達に勉強を教えるために暇そうな年寄りを集めて教師をさせようとしたのじゃがビックリするぐらい頭が固くて色々とキチガイっぽい思想の持ち主が多いんじゃ。
全てが駄目とは言わんが若者の柔軟さを頭ごなしに否定するのはお年寄りと旧文明の悪いところじゃ。
それにしてもやはりそれなりに優秀な七乃と吾では処理しきれんのじゃ。
諸葛亮あたりを拉致って来るかの?戦争はともかく政は得意なはずじゃ…でもあの何でも自分の思い通りに行くと思っていそうな態度が気に入らぬ。
そういう意味では鳳統の方はまだいいんじゃがなぁ…鳳統拉致はありやもしれん、最初は協力的では無いじゃろうがそれは時間が解決してくれそうじゃし…マジで検討するかの。
次によく原作の二次小説ではジョジョ…じゃなかった徐庶が出てくるものがあったがそちらも探って…駄目じゃ、人が居らん。一人二人は居るが何処に居るか分からん者を探すには人出が足らん。
むむむ、誰か居場所がハッキリしてて分かりやすい奴は居らんものか…幸いゲームとは違い毎月居場所が変わるなんていうことはないじゃろう。
今有名な者はうちに来てくれるとは思えんし小者はもう揃っておるから今欲しいのは無名の大物…難易度が高いのじゃー。
「袁術様」
「どうしたのじゃ?仕事の追加ならいらんぞ」
最近吾の手にタコができてしまう…いやもう半分ぐらいできておるんじゃがな。
タコと言えばたこ焼きってこの世界で作れんもんかなぁ、ソースの作り方なんぞ知らんから無理か?いや、それ以前にタコを捕るには海…揚州辺りを手に入れれば楽なんじゃが。
「いえ、袁術様にお客様です」
「ん?そのような予定はなかったと思うが?」
どうするかの、今は紀霊も居らんし七乃も居らん。誰かの刺客でないとは限らんからの〜会うのはやめておく方がよかろうか?…決して面倒だからではないぞ。
しかし名前ぐらいは確認しておくか。
「その者は何と名乗っておるのじゃ」
「孫堅様と言っておられますが」
「あやつか、なら大丈夫じゃな…しかし前もって連絡ぐらい入れておくのが礼儀じゃろうに何を考えておるんじゃ」
ぶつくさ言いながら報告に来た侍女についていき玉座の間に向かう。
孫堅か、前回で会うのも最後かと思うたがまた会える機会があったか、しかし原作から考えると退場も間近じゃろうな。黄巾が起こる結構前に死んでおったはずじゃからな
ここは友として忠告するべきか、死因が分からんし注意を促す程度しか出来ぬ、もし敵対せず、そのまま同盟を結べたのなら吾も楽じゃ。
「突然の訪問申し訳ありません」
孫堅から無意識に放たれる覇気、それは華琳ちゃんや孫策などが将来持つであろう英雄である証。
凡人には寄りづらく、しかし惹きつけて止まないオーラ。カリスマと言い換えれば分かりやすいそれを放つ者を飼えるのだろうか?
それにしてもいつもの男勝りな喋り方からは想像ができんぐらい畏まっておるな。
正直似合わんぞ。
「この時期に連絡も寄こさず何のようじゃ、吾は蜂蜜…ンンー政務で忙しいのじゃ」
「太守になられたとのことですからお祝いの一言でもと思い伺った次第です」
こやつがそんな事で来るわけないからきっと何かあるんじゃろう、面倒事でなければ良いが。
「そうかそうか、そういう事なら吾の私室で話すかの」
孫堅を私室…先程までおった執務室とは違う部屋じゃ。
私室と言っても来たことがあるのはここに赴任して2ヶ月経ったが…片手ほどしかないのは気のせいじゃ。
「では失礼する…これはまた綺羅びやかな部屋だな」
「うむ、住んでおる吾も目が痛くてしかたないのじゃ」
地面も金、壁も金、ベッドまで金、金でない場合は宝石しか見当たらぬこの部屋、吾は豊臣澱と呼んでおる。他の者には意味が分からぬであろうがな。
金糸でできた布団なんぞ寝にくいにも程があるので布団だけは羽毛布団に替えたのじゃ。
最初は上辺だけが金糸なのかと思ったが全てが金糸だったりと贅沢の仕方が間違っておるぞ、絶対。
「何やら実家から大勢人が来たと思うたら吾の部屋をこんな風にしていったんじゃ、吾の趣味ではないぞ」
「はぁ、さすがは袁家。無駄に豪華だ」
正直無能な振りとかいいがこの部屋だけは不本意じゃ、何を考えておるんじゃ袁隗ばあちゃんは…書簡にはこの前のお礼と太守就任祝いじゃ受け取れ的な事が書いてあったがこれは嫌がらせじゃ。
客を迎える際には袁家、ひいては吾の力を魅せつけるには丁度ええかもしれんが成金っぽくて嫌じゃ。
「で、本命の用事は何じゃ。祝いに来たにしては手ぶらじゃが…それと隣に居るのは誰じゃ?見覚えのない顔じゃな」
「おお、これは失礼した。私は呉景だ」
「孫賁です」
「呉景は私の義妹で孫賁は姪だ」
何やら吾に縁がある名ばかりじゃな。
呉景は確か一時期袁術の配下におったはずじゃが…孫賁は知らんのー孫家一族の一人と言う認識で良いか。
客より先に部屋の主が座らねば座り辛いじゃろうから椅子に座り、小脇に常備されている蜂蜜の入った壺を手に取りながら孫堅達にも座るように勧めてとっとと本題に入れと促すと苦虫を潰したような孫堅に暗い顔をしておる呉景に孫賁。
「ちょっと願いがあってな…そのなんだ…」
む?孫堅が言いづらそうにするなど珍しいのぉ、いつもはシャキッ!ズバッ!ズガンッ!というイメージなのじゃ…それほど真剣な悩みなのかの。
ちなみに孫堅は原作の孫策とよう似ておって違いといえば身長が190cmもあり、上品質な筋肉質に男勝りな言葉遣いなどが挙げられるが正確はよく似ておる。
とか何とか言っておるが大体の予想は出来ておるがな。
「金を貸してくれ!」
ガンッと頭を机にぶつけて頭を下げるが…まぁ予想通りじゃな。
おそらく豪族や山越との対立が激しいんじゃろう。
山越は呉にとって最重要課題じゃからな、軍費もかさむ上に揚州は豪族の力が強い土地じゃから自分こそ王!なんて思っておる者も多いと聞く、何かと物入りなのじゃろう。
「ふむ、如何程いるんじゃ?額によっては援助せんでもないぞ」
ちと懐が痛くはあるが孫堅という名前ではあるが友には違いない、友は大事にせねばならんのじゃ。
…それに母上にも言われたしの「借りは作っておけば損はない」とな。
「これぐらいだ」
んーまぁ大丈夫じゃろ。
文字羅列の分かり難い帳簿を読み解くのに時間がかかったが南陽郡は税こそ高いが所得もそれなりに多く、民からしたら不満はあるじゃろうが紀霊が言うには他より所得が高い分恵まれていると言っておった。
つまり想像以上に財政基盤が出来ておるという事で吾が取り掛かる事はそれほど多くなく、就任して2ヶ月もの間
袁隗ばあちゃんから毟った資金を投資してやればいいじゃろう、七乃が「余った分はお嬢様のお小遣いですよー」とか言って結構な額の
「これぐらいなら吾の小遣いで何とかなるのじゃ、誰かおらんかー」
(「今小遣いって言ったように聞こえたが気のせいだよな」)
(「いえ、間違いない」)
(「一年間の軍費と小遣いが一緒かそれ以上ってなんですか?!」)
(「とはいえ小遣いを貰うような子供に金を借りようとしている私達って…」)
(「気にしてはいかん」)
(「そこは気にしましょうよ」)
(「そういえば昔から小遣いが蜂蜜でなくなって困ってたが…」)
(「軍費分の蜂蜜…見たくもないし食べたくもありません!」)
「お嬢様、どうかなさいましたか」
「吾の小遣いがまだ半分ほど残っておったと思うが間違いないかの?」
「はい、間違いありませんが…」
「ならばそれを孫堅達に帰り渡すようにせよ」
「しかしそれではお嬢様が蜂蜜をお控えしなければならなくなりますがよろしいのですか?」
「うむ、友が困っておるのじゃ。ここは黙ってバシッと貸すことこそ名門袁家ぞ!」
「…畏まりました」
(「聞きました聞きました?!あれで半分ってどんな小遣いなんですか!」)
(「いや、私はそれより侍女が見る私達への視線が気になる…なんかまるで駄目な大人を見るような視線が…」)
(「事実だけに耳が痛い」)
(「大体袁術さんがこんなに若い…というか子供なんて聞いてませんよ」)
「ん?どうした三人揃って隅でコソコソと、なんじゃ?吾の懐の深さと器の大きさに感極まったのか?」
「そんなところだ」
なんか吾に対してテキトー過ぎる気がするぞ、棒読みだったし。
「それでだ。さすがに金を借りるだけでは悪いと思って呉景と孫賁をしばらく預けようと思う」
「おお、これが俗にいう人質というやつか!」
現代での人質とは犯罪者が客を盾にして脅す為の人じゃが、これぞ真の『人』『質』じゃな。
しかし…微妙じゃ。呉景も孫賁も文官というより武官っぽい上に客将なので重要機密には触れさせない程度にしか使えない。
「ぶっちゃけ微妙じゃ」
あ、素直に感想言ってもうた。いやー吾は素直な子供じゃから仕方ないのじゃ、ホラ子供って残酷なことでも平気に言うじゃろ?それと同じじゃ。
孫堅は顔が引きつり、呉景と孫賁はビキッと青筋を立てている。や、そんな風に睨まれても事実は変わらんのじゃよ。
「正直に言うが武官は割りと足りておるんじゃよ。目立った優秀な将が紀霊しか居らんが小規模の部隊を率いるには申し分ない者達は数多くおるから吾の臣下に加わるというなら話は別じゃが特に欲しいという訳でもない。文官なら歓迎するのじゃが…それでもやはり客将というのは微妙じゃ、任せれる仕事が限られるからのー」
吾が欲しいのは最終決定の手助け、つまり権力の分割をしたいのじゃ。
まさかそんな重要なものを客将に任せるわけにもいくまい。
むむむ、しかし無下に断るのもどうかと思うし…そういえば丁度いい仕事があったのぉ、皆が嫌がって仕方なく後回しにしておったがちょうどいい機会やもしれん。
「うむ、仕事も思いついたのじゃ。ありがたく預かるぞ!」
「そ、そうかよろしく頼む」
なんじゃその微妙な顔は、不満があるというのか。
「では細かいことは七乃、張勲と話すが良い。吾は細事は苦手なのじゃ」
む、もしや七乃が居らんタイミングを見計らって吾に直談判しに来たなど…言うのは邪推が過ぎるか。
まぁ七乃ならこんな甘くない、むしろ激辛な対応だったに違いあるまい。吾の見積もりではトイチほど悪徳ではないじゃろうが相当足元みられるはずじゃ。
七乃は吾以外にはとことん厳しくて紀霊や華琳ちゃんも例外ではないという猛者じゃ。
「そういえば孫堅、おぬし今何をやっておるんじゃ?連絡も入ってない上に吾も忙しくて他の所の情報にはとんと疎くてのぉ」
無垢な吾は時勢に疎い…という設定じゃ。
本当は影や紀霊に頼み、吾が知る原作や歴史上の重要人物はマークしておる。ただし比較的近くにおる者に限っておるがな。
「ははは、それは仕方ない。最初の勤務が南陽郡の太守など慣れている者ですら大変だからな。今私は揚州刺史だ」
「おお、賊退治で田舎とはいえ刺史とはなかなかの大出世じゃの。しっかし監察なんておぬしに向いておらんと思うが」
「嬢ちゃんもなかなか言うな。正しくその通りだけどな。太守共は頑固者で無駄に誇り高くてこっちの話なんて聞きやしない。『小娘如きが偉そうな口を叩くな』が合言葉って感じだし、山越共は無抵抗な民を問答無用で襲いやがる、しかも———」
これはよほど鬱憤が溜まっておるようじゃな、悪口が止まらん。
喋る喋る、そしてそれに合わせるように呉景達の顔が青ざめるておるな。
吾が然るべき所に告げ口でもした日にはさぞや面白いことになるじゃろう。
とは言え心臓に悪いことは早く解消してやるかの。
「心配せんでも吾は告げ口なんぞせんよ」
失言に気づいたようで「あっ」という声なき声が孫堅から聞こえるほどのリアクションに笑いそうになったが何とか堪えた。
「す、すまんな。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「その辺は心得ておる。おぬし、吾が幼いとはいえ今まで何処で暮らしておったと思っておる」
洛陽では吾のような年でも話していい内容かどうか考えて話せばならん、下手したら藪から蛇に襲われかねんから気をつけねばならん、と母上に教わった。
孫堅には分かりづらかったようで首を傾げている。
「つまりじゃ、洛陽という場所はいけ好かない枯れ木共とその子飼いしかおらんから迂闊なことを話せば幼子の言動でも某かの不利益を被ると言う事じゃ」
「…それほどだったのか」
「それほどじゃよ。軍属に例えれば上官の悪口を副官に言っているような感じかの、ここで嫌になるのが副官は街の住人も入るというところじゃな」
何せ陥れるネタをそれなりの立場の者に言えば報奨金が出たりする
「うげ、私よく無事で居られたな」
多分田舎者じゃから無視されたんじゃろう。
象は蟻の事なんぞ気にせん、それに孫堅は政に一切興味を示さなかった事もプラスに動いたと思っておる。
そういう意味では華琳ちゃんのような気の置けない友と言うのは貴重なのじゃ。
ここで注意、『気が置けない』というのは相手に気配りや遠慮をする必要がないという意味じゃ。
偶に反対の意味で覚えておったりする人もおるがこちらが正しいぞ。
まぁ、だからと言って宦官共が孫堅を目障りに思い始めたのは分からんでもないが嫌がらせとして
孫堅自身は確かに軍事ならばともかく政には向いておらんからそのうち破綻して失脚要因となり得るじゃろう。
しかし家臣のメンツを考えれば嫌がらせになるどころか力を増すばかりじゃろう。
周家と陸家がバックアップに付いているらしいからのぉ、恐らく宦官共は情報を掴み損ねたんであろうな。
「これからは気をつけるんじゃぞ。以前なら朱儁ばあちゃんの子飼いが何か言うとる程度で済んだが今では揚州刺史に叛意ありなんぞと思われたら終いじゃ、そうならんように人脈を作っておく事を勧めるぞ」
「その中に嬢ちゃんも入ってると思っていいのかい?」
吾を後ろ盾にじゃと、特に問題はないが…
「ふむ、吾はいいぞ。ただ年が年じゃからな、吾の世話になるというのは…こう…のぉ?」
「………背に腹は代えられない」
ふはははは、12歳の小娘にいい年した大人が守られるというのはなかなかにシュールじゃな。
それでも朱儁ばあちゃんのところよりは来やすかろう、洛陽は魔窟に等しい上にあちらは現役軍人、あっちこっち行って忙しいじゃろう。なにせまともに動く軍が朱儁ばあちゃんと盧植さんと皇甫嵩爺ちゃんぐらいじゃからな。
皇甫嵩が男なのにはかなり驚いたぞ、有能部将は大体女性だと思っておったからの。
実際皇甫嵩の爺ちゃんはなかなか侮れないのじゃ、親の七光りなのかと思っておったがちょっと前に異民族侵攻の際に暴れまわっただけのことはあってかなりの英傑じゃ。
ちなみに張奐は亡くなっておるらしい…微妙に正史と違うんじゃな。今更だけど。
「うむうむ、吾等が袁家の威光も揚州まで届くのはいいことじゃ。良きに計らえ」
孫堅以外は若干憤然としておったようじゃが別に吾が頼んだわけではないのじゃから知らんのじゃ。
「では今日は歓迎会じゃな。歓迎の蜂蜜…ゲフンゲフン、宴を用意させるとしようかの」