宴を滞り無く終わり孫堅は
そしてその置き土産は…
「なんで私たちがあんな事しないといけないんですか!」
「そうじゃそうじゃ!」
「これも民の慰撫政策の一つじゃよ」
キャンキャンとうるさくて仕方ないのじゃ。
この二人、一応は客将であるが現状は客将より立場が低いの人質の癖に文句が多すぎるのじゃ、全く。
「「街の清掃作業は政策じゃない(ぞ)!!」」
何言っておるんじゃ清掃作業も列記とした仕事じゃぞ。
恋姫の世界じゃからひょっとすれば下水道があるかも…と期待しておったのじゃがその期待は見事裏切られた。
主要な道には臭いからなのか、見た目を重視したのか、原作の不思議パワーなのかは知らんが糞尿はないが一本道を外れるとそこには思い出したくもない光景じゃ。
それを解決すべく下水工事を始めたのじゃがまだまだ途中、つまり現在も溜まりに溜まっているので衛生面は最悪じゃ。しかも飢えが進むと糞尿の中で成長した蛆虫を食べたりするらしいぞ。
うん、食料はすっっっっっっごく大事なのじゃ!分かっておったが、やはり吾は元現代日本人、この世界では貴族のような立場であるから食べるに困った事がないのでこういう事を意識していこうと決心したもんじゃ。
そういう理由で二人が嫌がるのも分かる、分かるが…
「借金の形の分際で仕事を選ぶでないわ」
「「ぐっ」」
客将と聞けば聞こえがいいが事実は借金の形なのじゃ、黙って働いてもらいたいものじゃ。
「おぬし等が直に作業しておるわけではあるまい?そういう苦情を言いたければおぬし等自身が清掃作業を行なってから言うがいい」
基本的に将である二人は指図しかせず、作業を監督するだけなのじゃから問題無いじゃろ。
吾の影達に任せれば文句も言わずにやってくれるが影達は吾の便利な手足であるが故、そんな雑用に使うには勿体無い。
吾が言った事が効いたのか文句は続かず黙り込んだ。
「おぬし等分かっておらん…というか忘れておるじゃろうが吾はこの前太守に就任したばかりなのじゃ。まだまだ地盤が安定しておらん吾にこれ以上何を求めるつもりじゃ?」
沈黙が続く。
まだ就任して三ヶ月しか経っておらん事を忘れんで欲しい。
孫堅だって吾より早く就任しておるのに未だに地盤固めが上手く出来ておらんではないか。
まぁ、何度も言うが気持ちは分からんではない。
本来戦場を駆けることがこやつらの本職、今のような雑務はお門違いというものじゃ。
このまま放置して爆発されでもしたら困るし飴でも与えておくとしよう。
「最近賊が活発化してきておるから近いうちに討伐隊編成する予定でおる。二人の内、評判が良い方を討伐隊に加えようと思うのじゃが…」
では失礼します。と言い残して早々に出ていく二人の背に頑張るんじゃぞ〜と声援を送る。
現金な奴らめ…しかしこれで文句は出んじゃろ。
仕事が余計に増えたような気がするがな。
それにしても作ってよかった算盤先生。
恋姫の二次小説のテンプレに倣って算盤を配布、販売を始めたのじゃ。
発注先は洛陽と
洛陽に卸し、天子様や宦官どもに献上した事によってブランド価値をつけたのも大きく、売上はかなりのもので具体的には吾の蜂蜜10年分ほどじゃな…ん?具体的ではない?気にするな。
近いうちに揚州にも卸す予定ではあるのじゃが…揚州と交易するには長江から船で下るべきなのじゃが劉表のじじいが長江を支配しておるに等しく難しい。
どうせ中国お得意のコピー商品が出まわるじゃろうから急いで売上を回収しておきたいものじゃが…将棋も劣悪なものがもう出まわっておるしのぉ、それでも上流階級の者には袁家印の物が好まれておるから困りはせんがな。
ちなみに天子様への献上品は翡翠で作った算盤にしたのじゃ。
いやー眼球が飛び出るかと思うほど高かったの〜それでもそれだけの価値はあったとは思うがの。
算盤なんて使う者はこの時代では上流階級しか使わぬから頭打ちは案外早いじゃろうからコピーされてもそれほど困らんがな。
「ハァ、それにしてもこのままでは吾が目立つではないか」
吾のパーフェクトプロジェクト(笑)脳あるお嬢様(偽)は爪を隠す!作戦が破綻しそうじゃ。
算盤を作り出したおかげというか、せいでというか吾の名前が少し売れ始めておる。
何としても有能な盾となる文官が欲しいぞ。
特に吾の盾になってくれるような奴が好ましいのぉ…おお、ひょっとすればあやつならいいやもしれん。
演義では酷い扱いされておるが正史ではかなり有能な人材じゃ。
問題は原作に登場しておらんし二次小説でもあまり見かけぬから存在するのかどうかと無官であるか否かか、こうしてはおれんぞ。
影に頼んで下調べをせねばならんな。
調査の結果無官であることが判明したのじゃ。
これは何としても確保せねばならん!
「という訳で吾は出掛けるぞ」
「何がという訳でなのかわかりませんよぉ、もうちょっと具体的に話してください。蜂蜜あげますから」
「うむ、はむっ…ん、この舌触りにこの粘り気は揚州の寿春のものか?」
「さすがお嬢様正解です。それでなにかお話があったんじゃないんですか?」
「おお、忘れておった。実はな」
カクカクシカジカウマウマモリモリ皆食べるよ蜂蜜。
「なるほど、でもお嬢様一人ではさすがに行かせられませんよ?私は…」
「留守番じゃな」
「ですよねー紀霊も忙しいでしょうし…」
「影と小次郎と行く予定じゃ」
「それなら大丈夫ですかねー」
影とは吾専属の忍びみたいなもので紀霊がまだ吾自身に仕える前に
元々はただの護衛であったが吾が暗や…ゲフン、色々と手伝ってもらっておったらいつの間にか護衛スキルより諜報、工作スキルの方が上回っておったから不思議じゃのぉ。
小次郎は…紀霊より劣るがかなり強いから相手が武将並でもいい勝負ができるので護衛にピッタリじゃ。
「でもお嬢様直々に行かなくてもいいと思うんですけどー」
「仕事が嫌…何、せっかく吾の太守になって初めての臣下を加えようと言うのじゃ。吾直々に勧誘してやるのじゃ」
「それでもし断った闇討ちですね!さすがお嬢様!中華一腹黒!よっ傍若無人!」
「ハーハッハッハッハ、七乃、吾の誘いを断る奴なぞおらんぞ」
いやいや、七乃が言っておるような事をすれば吾は宦官とそんなに変わらん存在になるぞ?まったく七乃は吾を助けておるのか困らせたいのか…多分どちらもじゃな。
「では行ってくるぞ」
「はい〜気をつけて行ってきてくださいねー」
さて、正直口説き落とせるか疑問なんじゃが史実通りならよいが…
そして道中ふと思った。
まさかとは思うが魚になっておらんよね?某三国志アーケードカードゲームに妙なコラボカードで出てたような…まさかここでコラボとかしたらさすがに泣くぞ。
もっとも元ネタは知らんのじゃが問題はそこではない。
こんな事なら容姿も聞いておくんじゃった。
さて、やって参った徐州東城郡。
彼の者は吾の記憶では臨淮郡東城県出身のはずじゃが…はて?
まぁ影達の情報に間違いは多くないし本人がおるならば良しじゃ。
小次郎は相手に怯えられても困るので村から離れた場所に放し飼いしておいた。多分民の二、三人喰われるかもじゃが問題ない。(冗談じゃよ?)
では早速…
「何を食べるかのー」
腹ごしらえも大事じゃ、確かこの辺は魚が名産だったはず…いや、刺身の人はもっと北じゃったか。
「とりあえず…アレは見なかったことにするのじゃ。スルーじゃスルー」
やばい、あれはヤヴァイ。
紅洲宴歳館『泰山』なんて暖簾は見なかったのじゃ、見なかったのじゃ!
いやいや泰山はもう少し北じゃろ。とツッコミどころが違うか?
…でも一口…いやいやダメじゃ、絶対地雷じゃ。
もしやここを張っておったら楽進が現れるのでは?さすがにない…はずじゃ。
…
……
………さて、やはり寄り道はいかんな、さっさとスカウトに参るか。
「たのも〜」
吾の家と比べると見劣りするがそれでも普通の家から比べると豪邸の部類に入る家が今回勧誘する予定の者の家じゃ。
原作では影も形も無かった上に演義では扱いの酷さに涙し、正史では周瑜の後継者、KO○Iでは統率のステータスがあるかないかで扱いが随分変わるがトップクラスの文官。
「あらあらあら、どなたかしら」
とりあえず魚ではなかった事に感謝なのじゃ。
前世ではありえない黄緑色の髪を腰まで伸ばしたちょっとタレ目の優しそうな雰囲気のボンキュッボンなお姉さんがおった。
その見掛けはおっとりしてそうに見えるが…中身はどうやら別物のようじゃ。
ゲームの世界であるからなのかは知らぬが、才ある者が放つ重圧が感じられる華琳ちゃんや孫堅が放つそれと同質の覇気を…この世界はいつから◯NEPIECEになったのやら。
「突然の訪問申し訳ないが魯粛殿で間違いないかの?吾は姓は袁、名は術、字は公路と言うの——モガッ?!」
「あらあらまあまあ」
ちょっ、何じゃこの双子山は!埋もれて——息が、息が!
通じるか分からないが降参のタップしてみるが離してくれぬ…死ぬ、マジで死ぬ!
こうなったら…奥義!
「キャァ!」
「ハァハァ…さすがに乳に埋もれて死ぬのは御免なのじゃ」
男の冥利に尽きる死に方ではあるがまだ死ぬ予定ではない。
ちなみに何をしたかというと…まあ乳首を摘み上げただけじゃ。
紳士としてはどうかと思うがさすがに生死が関わる状況で戸惑う事はない。
女装してるのに紳士とはこれ如何に。
「もう、女の子は丁寧に扱わなくてはいけないわよ?」
「人を殺しかけといてその言い草か」
「ん?」
小首傾げるその姿がまた様になっておる、これじゃから美人は…じゃなくてじゃな。
「そなたが魯粛子敬で間違いないか?」
「ええ、間違いありませんわ。それで南陽郡の太守さんが何か御用?」
その程度の情報は知っておると…ん?
「おぬし、吾が太守と分かって抱き殺そうとしたのか?!」
「あら、何のことかしら。私は可愛い生き物を見るとこうやって——」
動きが全く見えんかったぞ?!またか、またなのか!絞まる、絞まるぞ…いや、先ほどよりパワーアップしておるじゃと?!マジで殺す気か。
「抱きしめてしまう癖はありますけど…抱き殺すなんて物騒な事しませんよ?」
いや、結果的にそうなっておるからな?もう少し自覚を…ってそんな場合ではない。
もう一度究極奥義発動して難を逃れる事に成功したのじゃ。
「もう、女の子は丁寧に扱いなさいってさっき言ったばかりでしょ、メッ」
「おぬしこそ吾の扱いをもう少し丁寧にしたらどうなのじゃ」
「ん?」
とまた小首を傾げる…いや、様になっておるのは分かったから、の?
「もうそろそろ本題に入っていいじゃろうか」
「あら、私としたことが…とりあえずこちらへどうぞ」
家の中に入るように勧められておるように聞こえるじゃろ?でも事実は後ろから抱きかかえられておるんじゃよ。
勧められるというよりは強制連行もしくは拉致じゃな…吾が拉致しに来たはずだったのに拉致されるとは。
というか主の命の危機だったんだから助けてたも影よ。
「それで大体予想がついてるけど袁術ちゃんは私に何か御用ですか?」
「本題に入りたいが…膝から下ろしてくれんかの?」
「嫌です」
むう、さっきから魯粛の膝の上に座らされておるんじゃが…せっかく三顧の礼ばりの勧誘をしようと思ったのに格好がつかんじゃろ。
ちなみに揶揄で三顧の礼と言ったが、日本でも中国でも誘いは二度断るという礼儀があるのでそれほど珍しいことではないぞ…ひょっとすると三顧の礼が始まりでその後礼儀として広がったのやもしれんがな。
「それで何じゃが…魯粛、吾に仕えるつもりは——「荷物まとめるわ」——あれぇ??」
こう、貴女は何を目指すのかとか今の漢をどう思うのかとかの問答は?それ以前に返事は?
「ちょっと待っててね」
吾を膝から下ろして奥の部屋にさっさと引っ込んでいった…もしかして人選間違ったかのぉ。
もしや同姓同名の別人か?しかしここは恋姫を基準とした世界じゃ、こういう人格でもおかしくはない、のか?
色々ツッコミどころが多そうな魯粛じゃが…付き合っていけなくはないと思うのじゃ、ただ七乃と似た匂いがするのは悩みの種が増えるという兆しかはたまた頭痛の原因となるか…む?どれもダメフラグでしかないではないか。
確信して言えることは仕事の量が減るということじゃ。
「準備できたわ」
「思った以上に早いのぉ、もっとゆっくり準備してもええんじゃよ。吾も何日か滞在しても問題ない程度には余裕を持って来ておるし」
女の子の準備には時間がかかると言うが引越しは別なのか…そんなわけないのじゃ。
「大丈夫、母さんが後は手配してくれるっていうから心配無用よ」
この時代に引越し業者なんて居るわけもないじゃろうからどうするんじゃろ。
まぁよい、本当はこれから観光でもと思わなくもないのじゃが正直時間が惜しいので真っ直ぐ帰るとするかの。
「それにしても袁術ちゃんの護衛は優秀ね」
何、こやつは吾の護衛に気づいて居るのか…でもおぬしから助けようとしなかった段階で微妙だと思うぞ。
「まさか私の護衛と戦ってここまで来られるんですから」
「お嬢様!ご無事ですか!」
なるほど、助けなかったのではなく妨害にあって助けれなかったという事か。
「うむ、大事ない。しかし吾の護衛ともあろう者が妨害にされるとは…精進するのじゃ」
「ハハッ申し訳ありませぬ」
「もう良い。次はこのような事がないようにするんじゃぞ」
「ハッ」
「では下がれ」
ふむ、しかし魯粛の言から察するにこやつは護衛にそれなりの自信があったのじゃろう。
それを掻い潜り吾の下へ駆けつけることが出来たあやつは才能が有るようじゃ、後で名を聞いておくとしよう。
「袁術ちゃんは見た目よりしっかりしてるわね、ちょっと吃驚したわ」
「この程度は凡人でも出来るわ。ハーハッハッハッハ…とそれよりおぬし、明らかに吾を子供扱いしておるな」
さっきから頭をずっと撫でられておる。
嫌いではないが、あまりやられると威厳が…ないのはもともとじゃったか。
「まぁ良い。吾は寛大じゃ、その程度は認めてやらんでもない」
「あらあら、ありがとう」
にこやかに微笑むその姿は正しく保母さんじゃな。
………
……
…にしてもなかなか止めぬのぉ、もうそろそろ止めてもらわんと禿んか心配になるのじゃが。
「あら、いつの間にか日が暮れてしまいました。今から外へ出るのは危険ですから今日はお泊りしませんか」
もしやこれが狙いか?!
しかし罠にかかったとはいえ、この時間から宿を探すのも面倒じゃ。
「うむ、苦しゅうない。良きに計らえ」
「ふふふ、御意」
こうして魯粛の家に一晩お世話になったのじゃが…再び吾の命は途絶えようとしておる。
魯粛の仕官祝いも兼ねての宴が急遽行われ、さすが富豪と思うだけの料理と酒と手際の良さじゃった。
宴は滞り無く終了した。ではどうして死にかけているかというと…急性アルコール中毒なんて不名誉なものではないのぞ?…圧殺再びじゃ。
吾は割り当てられた部屋で寝ておったのじゃが知らぬ間に魯粛が吾の寝床に潜り込んできておった、もう後は分かるじゃろ?この柔らかいデカメロン2個と吾の頭をがっちり固定している何処にこんな力があるのか疑いたくなる細い腕。
しかも究極奥義を使ったのじゃが反応こそするもののロックが外れぬ、いや外れるどころか更に締まった気さえする。
おおぅ、華琳ちゃんが見える…って華琳ちゃんは死んでないのじゃ、出てくるなら母上じゃろ。
とか言ってる場合ではないのだ。
やばい、もうこの状況に陥って体内時計で3分が過ぎた。
吾の酸素もデッドアラート。
そして何より…意識が朦朧としてきたのじゃ。
これは使いたくはなかったが必殺技を使うしかあるまい。
意識が薄れていく中である部分を思いっきり摘み上げた…ナニを摘み上げたのかご想像にお任———
どうやら限界がきて気を失ってしもうたようじゃ。
永眠ではなくてよかったのじゃ。
ところで最近思ったんじゃが…この喋り方、原作袁術ではなくおじゃる◯っぽくないかの?…まぁ深く考えるのはやめておくが。
今は吾は魯粛を連れ、帰路についておる。
「そういえば袁術様」
「なんじゃ〜」
吾は馬に乗れぬので天蓋付き馬車に乗り、のんびりタレていたところに魯粛が声をかけてきた。
魯粛は馬に乗れるらしいが吾と一緒に馬車に乗りたいらしく、二人で乗っておる。
小次郎はまだ合流しておらんがあやつは5km先の吾の匂いが分かるのでもうじき合流するじゃろう。
「袁術様は南陽をどうしたいのかしら?」
今更かい!そういうのは仕官する前に聞いておくもんじゃろ。
「ん〜平和と安定かの〜吾はあまり
「なぜ私が?」
「やはり一番大きいのは吾の見掛けが子供…まぁ年も相応なのじゃが…だからかのぉ、袁家の名を盾にしてもそのうち反発するのは目に見えておる。下手すると吾は大丈夫にしても張勲や紀霊が危険に晒されるやもしれん。あの二人は吾の支えではあるが謀略や政は優秀ではあるが天才はではなくての。ならば政が達者な者がおれば幾分か楽になるじゃろう」
「あら、私は囮という事かしら」
「不満か」
これで今更拒否られたら困るんじゃが。
「ふふふ」
…いや、笑ってないで返事が欲しいの——フガッ
「ふふふ、いいですよ。私が守ってあげますわ」
またか?!またなのか?!と思ったら今回は口は塞がれておるが鼻は無事じゃから何とか窒息死されずに済んだぞ。
妙な方向にレベルアップしたな魯粛よ。
「それで目指すのは南陽の安定だけでよろしいんですか?」
のほほ〜んとした口調は変わっておらんがタレ目に鋭さが宿っておる。
胸をポンポンと叩いてポヨンポヨンと…じゃなくて離すように促すと今回は真面目な話のためか察してくれたのかスマートに離してもらえた。
いやはや、横山三国志ではあわあわするのが仕事のような魯粛ではあるが史実では諸葛亮より先に天下三分の計のような戦略を打ち出しただけの事はある。
「しばらくは地盤固めと人脈作りと人材発掘じゃな。吾もそれなりに知り合いがおるがまだまだ足りんからのぉ。魯粛には政務と軍務両方をまとめて貰うつもりでおる。人材は追々じゃ」
「あらあら、いきなり新参者の私がそのような要職については反発が大変そうですわね」
「そのへんは吾の我儘で任命したという事にしておくと良いぞ。そして魯粛は吾をお飾りにしてくれればそれで良い」
「うふふ、楽しそうですわね。それでこれからの世はどうなると思います」
「それは言わずとも分かるじゃろ。民の反乱、鎮圧失敗、権威失墜、こんな感じじゃろ。ここから先は不確定要素が多いから推測は無理じゃ」
まさか董卓が中央を治めるや反董卓連合が組まれるなどというのは今を生きる者にそんなに先まで見通す事は出来まい。
魯粛は目をパチパチッとさせ意外そうな表情を浮かべ、次いで笑顔で言った。
「あらあらまあまあ、私の想像以上ね。可愛いからって付いて来たけど間違いじゃなかったみたいね」
やっぱり見掛けで付いて来たんか!
予想通りで言葉もでんわ!
「しばらくは内政と外交に力を入れ、事と次第によってじゃが次第荊州を制圧したいのう。南陽は北からの攻撃にはそこそこ強いが南からの攻撃には対処が難しいからのぉ」
「そうは言うけど袁術ちゃん。南陽郡と南荊州以外は劉表様の影響力が強く、劉家に弓を引くというのはなかなかに難しいかと。しかも南陽から攻めるには襄樊の攻略が必須。堅牢で有名な襄樊は劉表様の本拠ですから尚の事荊州を治めるには難しい思います」
「それは魯粛の腕に掛かっておるのじゃ。頑張ってたも」
「ふふふ、そう言われたら頑張らないわけにはいかないわね」
幸い劉表は未だに南荊州どころか北荊州の豪族達を掌握できておらん…まぁ実は吾等が邪魔をしておるんじゃがな。
そして黄巾の乱が起これば更に統治が難しくなるはずじゃ。
史実では劉表が荊州入りするのは霊帝死後なのじゃがこの世界では既に荊州入りしておるが妙な所で史実通りで豪族を恐れて本来の州治である漢寿ではなく襄陽を州治にしておる。
霊帝がまだ生きておるから今のところは目立った闘争はないが影でどんな薄汚くドロドロとした戦いをしておるのか…そんな世界に自分から入って行かねばならんのだから鬱になるのじゃ。
…積極的に仕掛けておるのが吾のような気がするが、まぁ気のせいじゃ。
「これから楽しくなりそうですわね」
おおぅ、今の黒い笑顔は背中がゾクッとしたぞ。
原作にあるまじき黒さじゃ、心強いとも思うが不安にも思ってしまうのは付き合いが短いからじゃろう…そう信じるのじゃ。