※2016/08/23※
致命的な間違いがあり、改訂しました。
シチュエーションは変わりありませんが、会話内容や心情の変化などがありますのでお手数ですがもう一読お願い致します。
第百一話
「他人の家の風呂とは落ち着かぬのぉ」
華琳ちゃんの勧めで風呂に入ることになったのじゃが、事情が事情だけあって入り難いものであったが吾の風呂好き(日本人としては標準)は知られておるから断ることができなかったのじゃ。
さすがに南陽のように温泉ではなく普通のお湯なのじゃが湯船が大きく、壁が可動式で今は庭園が楽しめるように開口されておる。
それにしても……この庭園の構想は誰がしたんじゃろ。洛陽で流行った形式とは随分違うが。
「ふむ、半露天風呂とはなかなか乙なものじゃのぉ。それに大きい浴槽は羨ましい」
「そう?なら設計した甲斐があったわね」
「やはり華琳ちゃんが設計したのか」
うちの風呂は機密もあって露天風呂はないんじゃよ。それに浴槽も温泉をメインとしておるため、そんなに大きくはない……というか吾の身体に合わせておるからむしろ小さいぐらいじゃ。
やはり温泉ではない、通常の浴槽は大きい物にした方が……いや、いい加減倉庫や官僚の増加による事務スペースの拡大、倉庫に倉庫に倉庫に倉庫……で埋まってきておるのにスペースを余分に使うのは如何なものか……悩ましいのぉ。
……というかそろそろ倉庫の数が本格的にやばいのじゃ。一応政庁の建設で一時的には余裕ができるはずじゃが……不安がなくならぬ。
なんで吾のお泊り旅行の護衛兼行軍訓練として三千の親衛隊を連れて来るという明らかに赤字になるはずであったのに……勝手に商隊が後ろを付いてきて護衛代わりに使って、別れ際にお礼だと金や酒など色々なものを献上していったのじゃが……なぜ黒字になっておるんじゃ?
と、そんなことをつらつらと考えておる理由はもちろん現実逃避じゃ。
そろそろツッコミを入れる(現実を直視する)とするか。
「……なぜ一緒に入っておるんじゃ?」
「たまには良いでしょ」
たまには、などと捏造するでない。今まで一度足りとも裸の付き合いなんぞしておらんぞ。
「いやいや、おぬしは事情を知っておるじゃろ……それに百歩譲って一緒に入るのはいいとしてもなぜ全裸なのじゃ」
「風呂は裸で入るものよ」
それは基本的には同意するが応用的には同意できぬぞ?!
男の娘である吾の前でそのような格好するでない!娘とは書いておるが立派な男じゃぞ!?
「あら、私を襲う気?そんな甲斐性があるかしら」
……くっ、耳元で囁かれて色気に惑わされかけたが、これは諸葛亮ならぬ曹操の罠じゃ。掛かってはならぬ。ハニートラップ以上に危険なものぞ?!
という思いつつも……客観的に見ると合法ロリ同士が仲良く風呂で内緒話をしておるようにしか見えんというのは……なんとも倒錯的な光景じゃのぉ。その業界ならご褒美……どころかタイーホじゃな、事案じゃな。
「…………誰が好き好んで飢えた虎の前に飛び込むというのか」
「へたれね」
へたれで結構。
そういえば男の娘で肉食系なんぞおらんな……中性美人系では肉食系は結構おるが……あ、男の娘が肉食系になるとオネエキャラになるのか?いやどうじゃろ?
それはともかく……実は一番吾が落ち着かぬ要因は華琳ちゃんだけではなく——
「華琳様、袁術様……わ、私だけ仲間外れなんて酷いです」
「悪かったわね。ほら、こっちへいらっしゃい……桂花」
そう、男の天敵荀彧も全裸待機しておるんじゃよ。
華琳ちゃんだけでも落ち着かぬというのに更に荀彧などとは……反応に困っておる吾と真実を知らぬ荀彧の反応を見て楽しんでおるじゃろ……ドS過ぎるぞ。
「袁術様はなぜお隠しになっているんですか?」
布で隠しておる胸(偽装)と腰(本命)を忌々しそうに睨みながら荀彧が問うてくる。
まぁ風呂でのマナー違反という自覚はあるが、この場でこれを取ってしまえば命が取られるので何としてでも死守せねばならん。
「これは吾の願掛けじゃな。想い人以外には全てを見せぬと決めておるんじゃ」
く、苦しい。こんなことで納得してくれ——
「そうですか……」
……してくれたのぉ……なんというか、相手が女であるとこれほど素直なキャラなのかや?……いや確か春ちゃんとは犬猿の仲じゃったな。
あ、でも春ちゃんは性格が違い過ぎる上に恋敵でもあるから例外か、ならば秋ちゃんとは……ん?荀彧との絡みが思い浮かばんぞ?それだけ問題ない間柄だったのじゃろうか?
「フフ、残念だったわね桂花」
「そ、そんなことは——」
二人の反応を見てピンと来たぞ。これはどうやら吾を使った調教の一環のようじゃな。
別に二人がどういう性癖があろうと構わんし、友達付き合いを止めるつもりはないが、吾を巻き込まないでもらいたい。
「ところで華琳様、一つ伺いたいことが……」
「何かしら」
「袁術様は華琳様の本命なんでしょうか?」
もしそうならばこれから態度を考えねばなりません……と荀彧が言葉を続けるがそれどころではない。
「ばっ?!な、な、何を言っているの?!」
「しかし、袁術様に真名をお預けになられているようですし、随分古くからの知り合いだと春蘭から聞きましたが……」
「そ、それはそうだけど……」
珍しく華琳ちゃんが動揺しておる。
さすがにそれは無いと思うぞ。華琳ちゃんは吾のことなんぞ見た目が可愛らしい男だから愛玩用程度の気持ちじゃろ。
しかし、面白いから乗っかるとするかの。
「ほれほれ、図星を指されたからとそんなに慌てんでも——あいたっ?!」
「馬鹿なこと言わないでもらえるかしら?……桂花もよ」
「は、はひぃ」
ただの冗談にそこまで怒らんでも良いではないか。
それとも少しぐらいはそのような気持ちがあったのじゃろうか?……いやいや、ないない。だってあの華琳ちゃんじゃぞ?
それにそういう気持ちがあるなら吾の前に堂々と裸でおるわけない。
ん?なんじゃ?華琳ちゃんが居心地悪そうにもぞもぞし始めたぞ。
「興が覚めたわ。美羽は先に上がりなさい。桂花は……これからお仕置きよ」
「か、華琳様……」
「ふむ……まぁほどほどにの」
それにしても……このタイミングで?まさか本当に……違うな。アレじゃ、おそらく吾のことを男だという情報があっても今までの経験から認識は女でこのようなからかいができたが、改めて第三者である荀彧から男女の仲を疑われる(実際は女々の仲じゃが)ようなことを言われて意識し直した、というところじゃろう。
やはり吾と華琳ちゃんでは冗談に近いものがあったからのぉ……自分で推理しておいてなんじゃが……もしそうだとすると吾はどういうスタンスでおればいいじゃろうか。
正直、華琳ちゃんに意識されると困るぞ。
好意を意識したならまだ構わん。それ相応の態度で向き直るだけじゃからの。しかし男であることを意識されるのはなんともやりにくい……男女の友情は成立しない、などというわけではないが今までのように気軽な関係が好ましいのじゃがなぁ。
そして服を着終わって更衣室を出たあたりで嬌声が聞こえてきた。
出入り口を固める護衛や待機しておる使用人が特に反応せんあたり、これは日常的なことなのじゃろう。
……華琳ちゃん。ほどほどにするのじゃぞ?