第百五話
霊帝がお隠れになり、皇位継承者を決めておらんかったせいで朝廷は大混乱。
何皇后が推す自分の子、劉弁。
外戚が存在しない(というか何皇后に始末された)操るにはいい駒だと十常侍と宦官が推す劉協。
自分の妹の子供だというのにどっちつかずな何進。
混乱の原因は主に最後の何進じゃな。
おそらく十常侍達を排除するためにタイミングを見計らっておるんじゃろう。
いくら頭の出来が悪そうな何進とはいえ、それぐらいは配慮するらしいの……当然のことか。
そして十常侍達からはこちらに付くように書状や使者が度々やってくる。正直、味方に引き入れようとしておるのではなく、嫌がらせではないかと思える量が届くんじゃが……あやつらもあやつらで必死なんじゃろうな。
ぶっちゃけ知らぬがの。
お互い利用し、利用される間柄ではあったが今の十常侍に吾を満足させる利などありはせん。
吾が十常侍達に付けば一時の腐った平和は保たれるであろうが劉備のような砂糖過多で肥満になる夢の方がまだマシな平和なんぞごめんじゃ。自身が腐敗する平和なんて斬られて血を流す戦争よりもたちが悪いわ。
「と吾は思うわけじゃが孫権はどう思う」
「悪即斬」
何処の新選組じゃ。牙突でもする気か、吾は天翔龍閃派じゃぞ。
「念の為に聞くが、悪とは十常侍のことじゃよな」
「もちろんです」
「別に悪ではないと思うがのぉ。本能に忠実なだけじゃろ」
奴らも奴らで本能……この場合正確に言えば欲じゃろうか?それを素直に実行しておるだけじゃ。
「それが悪なんです。人間は考えることができ、本能や欲だけで行動——」
「ではそれをおぬしの姉に言えるか?」
「…………」
…………吾が悪かった。だからそんな悲しそうな目をするでない。
そんなわけで今少し膠着状態は続くようじゃ。
長い間帝の空位なんぞしておられんから近いうちに決着はつくじゃろうが……第一政庁(第三まである)が完成するまで後二ヶ月ほどじゃから、それぐらいまで引き伸ばしてくれんじゃろうか。
そうすれば二割ほど仕事効率がよくなるはずじゃ。
そんな期待は見事にスルーされたのじゃ。
あれから一ヶ月、何進が謀殺……かと思ったらまだ生きておるらしい。十常侍も無能じゃのぉ。
それはともかく、これで各勢力が動き出したのじゃ。
何進謀殺未遂を防いだのはなんと沮授と文醜、そして霊帝の直轄部隊である西園八校尉(厳密には官職名じゃがの)の一人、淳于瓊じゃ。
全体指揮を沮授が執ったおかげで間に合ったようじゃな。
そして何進を謀殺という大義を手に入れた淳于瓊と文醜が西園軍の半数を掌握し、率いて宮廷へ雪崩れ込んだ。
その結果、十常侍の半数、宦官のほとんどを殺害することに成功し、何皇后の保護も成功したのじゃが……案の定というか世界の修正力というか、帝候補の劉弁、劉協を取り逃がしてしまったようじゃ。
そういえば、これでもし二人のどちらかが捕まったりするとどうなっておったじゃろ。まさかの何進天下?もしくは袁紹ざまぁ天下?……結果的には良かったが、もしそうなっておったら……董卓が何進や袁紹ざまぁに変わるだけか?いや、董卓よりも弱そうじゃな。
「さて、そろそろ長安への荷留を——」
「お嬢様ー、お客様がいらっしゃいましたよー」
「む、この時期に客じゃと?……袁紹ざまぁか華琳ちゃんか?」
「いえ、種無しと私偉いです的な雰囲気を纏ってるお子ちゃま二人ですねー。どうします?追い返しますか?」
「え?」
………………
……………
…………
………
……
…
「一応確認するが、十常侍と皇太子の二人……ということで良いのじゃな?」
「はい。どうします?全員首だけにしちゃいますか?」
……なんで七乃はそんなに平然としておるんじゃ?あまりにいつも通りで事態が思ったように飲み込めぬぞ。
……孫権も硬直して動いておらんのを見て、少し冷静になれたのじゃ。
「いや、なんで吾のところに?」
「よく考えたら当然ですよね〜。あれだけ支援してきたんですから逃げるなら私達を頼るのは自然の流れです」
……言われてみればそれもそうじゃな。
確かに吾以上に貢献してきた者など誰もおらんじゃろう。見ようによってはカモ……忠臣に見えなくもない。
しかしあの悪劣非道の十常侍達がそのような思いなどあるとはとても思えんのじゃが……まさか——
「十常侍の生き残りの中に宋典が……」
「いますねー」
これで確定じゃな。
他の明確に恨みを持っていそうな者達よりもあまり恨んで無さそうで、まだ操りやすそうで、繋がりを持っておる吾を頼ってきたか。
「全くの予想GUYじゃ〜……追い返す……わけにもいかんじゃろうなぁ」
「さすがに風聞よろしからぬかと」
「じゃよなぁ」
まさか反董卓連合ではなく、反袁術連合?何の冗談じゃ。確かに史実でならあってもおかしくないイベントではあるが吾はそれほど悪いことをしておるわけではないぞ……多分、きっと、だったらいいなー、Maybe。
これでは根本的に戦略を変えねばならぬではないか。
「……何にしても会わぬわけにはいかんか」
随分予定が変わりそうじゃの。
華琳ちゃんとの同盟の話はどうなるじゃろ……いや、それよりも皇太子達を手に入れたことによって確実に動く勢力があるの。
それは……劉表のじじいじゃ。
今までは劉の名を持っておったやつを始末する大義がなかった(孫堅の仇なぞ小さすぎて無理じゃ)が、これで吾も劉の名を手に入れたということになる。
実際吾がそうするかどうかはともかく、臆病なやつのことじゃから間違いなく動くじゃろう。
勝てるわけもないのにご苦労なことじゃ…………ふ、ふふふ……ハーッハッハッハ、これでやっと……やっと——
「孫権!これで仇が取れるぞ」
驚いたようにこちら見て、吾の言葉を理解したのじゃろう。孫権は笑顔で——
「……はいっ」