第百七話
死ぬ……死ぬのじゃ。
これはきつい……身体がいつも以上に動かぬ。
もう十三日……から数えておらんから今が何日か不明じゃ。
しかし、これだけ頑張ったかいあって書類は減って……減って……減って……
「なんで増えておるのじゃ!」
そろそろ孫権が復活するはず……いや、復活してまた潰れたんじゃったか?……いかん、記憶が飛んでおる。
戴冠式に関しては吾がやることは終わっておる。後は現場の作業が終わるまで待つだけなのじゃが……では今の書類はなにか?それは戴冠式ので滞った仕事が押し寄せてきておるんじゃよ。
ああ、あと程昱と郭嘉が抜けた思っていた以上に大きいということもある。
客将であったから仕事はそれほど重要な物を与えてはおらんかったから処理能力の低下だけだと踏んでおったが……まさか末端の指揮までしておったとは思わんかったぞ。と言うか責任者まで指揮されてどうするんじゃ!
これで魯粛か七乃がおれば命令系統、連絡網の再構築が簡単であったのじゃが……く、これでは互角の相手に飛車角落ちではないか。
仕方なく文聘と荀攸に任せた……本当は荀攸だけでも良かったのじゃが派閥の関係で文聘にも指示を出した……が、これがまた失敗じゃった。
命令系統の回復はどうにかなったんじゃがどうも両派閥間で連絡網が混乱して復旧に時間が掛かってしもうた。
不幸中の幸いは派閥争うによるものではなく、上司、部下共に寝不足で頭の働きが悪くなっておったことによるミスだったことじゃな。
この緊急時に派閥争いなんぞしようものなら男は宦官、女は丸坊主にしてやるところじゃぞ。
「さて、次は……む、これは洛陽からの報告か」
ふむふむ、洛陽の掌握に成功し、中枢が麻痺したことによって多少の治安の乱れがあったが皇太子の無事を知った今は落ち着いておる、と。ついでにどさくさに紛れて邪魔そうな家は潰すことにも成功したようじゃ。主に生き残った宦官やその身内や売官とその身内が対象じゃ。
こういう輩は身内の名誉()を振りかざして威張る、群がる、強請る、脅すから間引きせんと後々面倒じゃ。
もちろん吾等がやったとわからんようにしておるが……公然の秘密になってきておるような気がするが気のせいじゃろ。
宮廷にあった財宝の類はほとんど賊に持ち出されていたらしい。
「そこは予想通りじゃな」
そのために資金は大量に持ち運ばせた。厳密にいうと五十ほど倉庫を空にしたの。
……もう期待せんぞ。絶対来年になるまでには戻ってきておるじゃろ……いや、戦乱に入れば微レ存か?使っても使っても戻ってくる呪われたお金(大量)……うん、あまり怖くないの。
報告書に書かれている予定の通りなら今頃虎牢関と汜水関を抑えておる最中のはずじゃな。
これからのことを考えれば大量の輸送が必要になるが、鉄道馬車でも走らせ……あ、レールが盗まれて終わりか、それにレールを作れる技術があるか?錆はどうする?などの問題があるか。
となると乗り合い馬車の量を増やして輸送量の拡大……は馬が足りぬ。公孫賛と貿易を初めて思った以上に質の良い馬が増えたがそれでも足らぬ。
南陽から引き抜く……なんてしたら住民から苦情殺到じゃろうなぁ。南陽の住民は贅沢に慣れておるからちょっとした不満でも問題になる可能性は高いが……よし、目眩ましと本命として大々的に洛陽と南陽ルートの便を増やすことを宣伝して、利用者の少ないルートの便を減らすとするか。
漢王朝の実権を手に入れたおかげで関所で止められることがなくなるのもよいのぉ……まぁ間者や暗殺者などに多く入り込まれると面倒じゃから馬車に乗せる前にある程度身元調査するようにはするがな。
「……こうして仕事が増えていくんじゃな」
「お嬢様……」
「孫権か、復活したのかや?なら吾も少し休憩を——」
「お嬢様にお客様です」
なん……じゃと……ここに来て、更に応対をしろともうすか。
君主って辛い職業じゃな。君主と書いて奴隷と読むのではないか?
しかし、孫権は何処と無く嬉しそうにしておるが、なぜじゃ?
「お客様は……朱儁将軍と皇甫嵩将軍です」
「…………」
生け贄 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
よし、逃がす前に捕まえなければ……あ、その前に化粧じゃな。
フハハハハッ、二人共奴隷……取り込み完了じゃ!
おかげで仕事は少しマシになり、二時間ぐらい仮眠がとれたぞ……むしろこれだけ頑張って二時間ぐらいで起きれてしまうことも問題な気もするが、そこはスルーじゃ。
更に二人共文官を連れて来ておったのも嬉しい誤算じゃ。
これでなんとか乗り越えられるじゃろう。
む、董卓からの返書が来たか……よし、董卓はこちらに付いてくれるようじゃな。これで呂布や張遼と戦わずに済むぞ。
何より馬騰や羌族との防波堤となってくれるじゃろう。それに洛陽の西の守りである函谷関を維持するには軍の数が足らぬし、長安が近すぎるため董卓に任せるのが妥当じゃろう。
もっとも、それほど心配はしておらんがな。馬家にしろ羌族にしろ主戦力は騎馬である以上攻城戦は苦手じゃから洛陽までは辿りつけまい……董卓が裏切ればキツイがの。
華琳ちゃんからも返書があったが、当面は吾にも袁紹ざまぁにも付かずに中立の立場を維持するそうじゃ。まぁそれ以外に道はないからのぉ。
そして袁紹ざまぁ、何進、劉表のじじい、馬家、陶謙、後は細々とした太守達から苦情のメールが届いておる。
曰く、皇太子達を使って専横している。
曰く、朝廷の財産を使って蜂蜜を買い占めている。
曰く、傀儡政治を行い、我らを追放しようとしている。
曰く、蜂蜜のせいで農作業する者が減った。
曰く、蜂蜜のせいで肥満が増えてきた。
曰く、蜂蜜のせいで街の匂いが甘ったるい。
曰く、蜂蜜のせいで虫歯になった。
曰く、蜂蜜のせいで倉が一杯です。
曰く、徐州とももっと貿易しましょう。
…………なんか蜂蜜の苦情多すぎやせんか?誰じゃこんな挑戦状を書いたのは……陳琳?……ある意味納得……できるかあぁ!!
というか専横はともかく、金の話をするとか無謀すぎやせんか?
誰かの財を力尽くで奪うほど飢えておらんわ!
しかし、これらの全てが敵に回るとなると少々厄介じゃな。
あ、最後のは了承じゃな。