第百九話
戦いとは戦場にあらず、戦いとは机の上にあり。
戦いとは人を殺すものにあらず、戦いとは自身を殺すことなり。
by吾。
「あ、陛下、三つ目の計算が間違っておるぞ」
「すいません」
「それと劉弁、劉表のじじいへの書状はまだなのか」
「もう少しで下書きが……」
「まだ下書きか」
「すいません」
結局太傅を引き受けることになった。
本来は魯粛が適任ではあるが吾の家臣である以上、吾より上の官職に就くわけにはいかん……となると他の者は魯粛以下なので当然駄目じゃ。
そもそも袁隗ばあちゃんの指名じゃからのぉ……あ、袁隗ばあちゃんは南陽で隠居しておるぞ……本当じゃぞ?隠居しておるぞ?ただ少し毎日書類の整理をしておるだけじゃぞ?
ほら、隠居すればおそらく燃え尽き症候群になり、ボケてしまうかもしれんじゃろ?日常の潤いぐらい必要じゃからな。
なんと心優しい吾じゃ。
そもそも政争に疲れたなどと甘い……政争には休みがあるが書類仕事には休みなんぞないことを知るべきじゃ。
劉弁が書いておる書状は劉表のじじいに対して転任を命ずるものじゃ。
正確に言えば、荊州牧が廃され、劉弁が荊州王に封ぜられた。そして劉表のじじいは、先日タイミングよく亡くなった益州牧である劉焉の跡を継いだ劉璋の後見人として転任を命ずるものじゃ。
ふっふっふ、これこそ完璧な大義じゃな。
いやー、本当に劉焉の死は丁度良かったのぉ。つい先日蜂蜜を贈ったばかりなのに……残念じゃ。
ちなみにこのことは陛下と劉弁……荊州王にも伝えてあるぞ。どういう風に受け取ったかは知らんが……一言で言い表すとガクガクブルブルじゃったの。
この後、蜂蜜はいるかと聞くと二人して頭を横に振った。……いや、まさかそこまで怖がるとは思わなかったが……あれ、もしかして恋姫の董卓以上に史実の董卓しておらんか?吾。
「そういえばこんなこともあったか。」
手元の報告書に書かれておるのは玉璽の紛失じゃ。
このようなイベントもあったなと今思い出したが……孫策に見つけられると面倒じゃから早々に手を回すかの。確か井戸に隠してあるんじゃったか。
全く、十常侍もわざわざ陛下達と分けるようなことをせずに一緒に持ってきてくれれば良いものを。
まぁなかったらなかったでそれほど困らんがの。
それより問題はこちらじゃな。
「うーむ、公孫賛とは貿易は続けるがとりあえずは敵対関係になるしかないかのぉ」
公孫賛の幽州と袁紹ざまぁの冀州は隣接しておる。
そんな状況で公孫賛が吾に付けば袁紹ざまが反袁術連合を起こした場合、一番初めにターゲットとされてしまう可能性がある。
まぁ冀州から比べれば幽州などド田舎じゃから捨て置く可能性が高いのじゃが……さすがに吾のせいで公孫賛が攻められるのは良心が痛む。
公孫賛が普通の人と言われるほど常識人じゃから尚の事じゃ。
吾は公孫賛のことを気に入っておる。評価しておるわけではなく、気に入っておる。別に評価しておらんわけではない、しかしそれ以上に気に入っておるんじゃ。
公孫賛はわかりやすい。そのわかりやすさが、素直さがコーヒーの蜂蜜のように黒く染まった吾には輝いて見えるのじゃ。
何より心配なのは……恋姫無印では公孫賛は死んでしまっておるんじゃよ。確か無印では唯一の名前ありキャラの戦死者だったはず……ん?華雄もそうじゃったか?まぁ華雄は董卓軍におるからこの世界では死ぬことはなかろうよ。
とりあえず、公孫賛には内密に力を付けさせ、袁紹ざまぁに対抗できるようにせねばならんな。
劉表のじじいから返書が来た。
内容は簡単にまとめると……
「だが断る!」
……であった。
さもありなん。
まぁ実はこれ、吾が仕組んだことじゃからな。
今頃劉表のじじいは鼻息荒く出撃準備をしておるじゃろう……それが吾に操られた結果だと知らずに。
劉表のじじいの側近連中が寝返ったわけでもない。ただ、奴らが情報を手に入れる部分をほぼほぼこちらが握っているというだけの話じゃ。
奴らは吾等が中枢を手に入れたはいいが持て余しておるという情報を真に受けておるようじゃ。
まぁわからんでもない。沮授達は宦官や売官どもを処分してくれたおかげで官職は三分の二ほどが空席になったからの。
本来なら朝廷など一太守が支えられる荷物ではないのだから信じて当然ではある。
そして今の南陽なら落とせるとも伝え、それに乗ったわけじゃ。
くっくっく……愚かな奴らじゃ。
吾の真の狙いは反袁術連合の足並みを乱すことにある。
最近、悪逆非道の奸賊という噂が流れ始めたので反袁術連合の結成が間近であることを察し、吾から先制攻撃として劉表のじじいの独断専行させることにしたのじゃ。
今頃袁紹ざまぁ率いる他の諸々達も大いに慌てておる……まぁその慌てる内容が『このままでは劉表に良いところが持っていかれる』というものじゃから救いがないのぉ。
どうせなら劉表のじじいを担げばもっと良い戦いができるであろうに……まぁ袁紹ざまぁは仲が良い劉虞を担ぎたいようじゃ。
劉表のじじいの悪評と劉虞の評判を考えれば気持ちはわかるがの。
それに袁紹ざまぁは潔癖なところがあるしのぉ。
さて、肝心の劉表のじじいの出迎え人員は、大将に李厳、配下にタカラジェンヌこと波才と牛金コンビ、兵は一万じゃな。
劉表のじじいは自身が率いて四万五千という数じゃから四倍以上の兵数差がある。
うひゃ〜負けてしまうのじゃ〜……いや、冗談抜きでこれだけ見ると負けてしまうの。
まぁ色々布石は打っておるがな。