第百十一話
吾等はこの七日ほどで南郡(襄樊と江陵がここに属する)と江夏を手中に収めた。
襄樊には荊州王の代わりに皇甫嵩爺ちゃんに代官として入ってもらって荊州王は相変わらず洛陽でお仕事中なのじゃ。
さて、察しの良い者達ならば気づいておると思うが……そう、領土が増えれば仕事が増えるのじゃ!……と思ったら荊州の者達を多く雇用することに成功したため、常識の範疇の量しか増えておらん。
もっとも吾の政策を実施しておらんから、という理由もある。
さすがに戦時中に新たな政策をするとまた眠らぬ政庁二百四十時が放映されることになるからのぉ。
唯一、インフラ整備だけは始めておるがな。
実は今回のことで起こった問題もある。それは劉備の領土と隣接したことじゃ。
一応南の要である江陵には引き続き李厳を大将として波才、牛金、それに水軍の将として甘寧、更に遊撃部隊として孫家を派遣したのじゃ。
もっとも劉備達に軍を長江を渡河させるだけの船があるとは思えんから本当に一応の手配じゃがな。
大体の船は賊達が四州を支配しておった頃から吾等が抑えておったからの。
ふう……孫家に良い仕事が見つかったのじゃ。
例え劉備側に寝返ることがあったとしても船がなかればどうにもならんし、その船の管理は全て甘寧がやっておる。
そして甘寧は周瑜にはともかく、孫策にあまり良い感情を持っておらんようじゃ。
主に自分の主君(吾ではなく孫権)の仕事を増やす的な意味での。
孫権からも念を押してもらっておるからおそらく大丈夫じゃろ。
ただ……大型船だけで千を超え、中、小型船を含めると四千を超える船団を甘寧が一人で管理できるのかが問題じゃが……まぁ甘寧は河賊時代からの子飼いがおるから大丈夫か、それに年のためにという意味合いが強いしの。
これでおそらく南側は安心じゃろう。
それに最悪は襄樊を確保できるならそれ以外は放棄しても構わん……多少評判は落ちるじゃろうがな。
「問題は……馬騰が敵に回るのは予想しておったが、思った以上に行動が早いのぉ」
まだクレームを付けられておった程度であったから貿易は普通に続けておったし、いくら脳筋でも……いや、脳筋だからこそ陛下を手に入れておる吾等を敵に回す愚かさもわかっておるからもう少し動きが鈍いかと思っておったが……民意に押されたか?涼州の奴らは将だけでなく民まで血の気が多いからのぉ。
約定通り董卓達はこちらに付いてくれるようで馬騰達と対峙しておる。
今のところ戦闘はなく、睨み合っておるだけではあるがそれでも十分じゃ。
ただ、董卓と馬騰が内通しておらんとも限らんところが難点じゃな。
董卓がこっそり馬騰達に物資を融通しておることもわかっておるし……もっとも物資は食料だけであったから優しい董卓の救済処置ということも考えられるがな。
何より……あまりの存在感の無さに偶に忘れるが、馬騰のところには北郷一刀がおるんじゃよなぁ。
董卓が籠絡されておるという可能性も考慮せねばならんか?吾等を敵に回せばどうなるかわかっておる賈駆が止めてくれることを期待したいが……賈駆は賈駆でツンデレじゃからデレたら……のぉ?
監視からの報告では北郷一刀と接触した様子はないが安心できん。戦場で燃える恋もあるかもしれん……元がエロゲーなだけあってご都合主義爆発ということもあるかもしれんから油断ができん。
「本来は本命であるはずの袁紹ざまぁは……予想通り立ち往生か」
まぁ黄河を渡るための船は半分ほど買い占めたからのぉ。
さすがに長江とは違って治安が安定しておった黄河は全て買い占めることはできなかったが、それでも渡河効率を落とすことに成功したのじゃ。
それに華琳ちゃんは吾が動かした豫州と揚州、そして徐州それぞれ四万、合計十二万の兵力が境界付近で演習しておるため動けぬ。
そもそも華琳ちゃんが動員できる兵力は正規兵一万と徴兵で一万〜二万、つまり豫州揚州のどちらかより少ない数しか動かせない以上、動かくことができまい。これで華琳ちゃんと戦うことはあるまいよ。
何より両州共にまだ予備兵が存在する……が、あまり動員し過ぎると治安の悪化や劉備が動かぬとも限らぬからこれぐらいが限度じゃ。
ちなみに徐州軍が動いている理由は金で陶謙を引っ叩いたら喜んで尻尾を振ってきた。まぁ帝がこちらに存在する以上敵に回る可能性は低いとは思っておったが……俗物じゃのぉ。
そして汜水関には紀霊と文聘を配置した。いきなりラスボス投入じゃな
兵力は南陽正規軍が二万と少なくはあるが投石器も三千ほどに床弩や連弩も設置したのでそう簡単に落とせるとは思えんな。
虎牢関にはなぜか志願してきた盧植先生と仕事から逃げるように補佐として立候補した荀攸、司隷郡から徴兵した五万……というより五万の輸送、工作部隊というべきか?汜水関へ送る矢の製造から投石用の石などを集めることが仕事じゃ。一応長期戦になった場合南陽正規軍だけでは耐えられぬじゃろうから交代したり混ぜたりするじゃろうがな。
原作通りの昼夜問わずに攻城戦が行われることを想定すると予備兵は多いだけいいはずじゃ。
もっとも不安なのは徴兵した者達が信用できぬことじゃ。
民とは世迷い言としか言えんような噂話で簡単に動揺する。そのような者達をろくな訓練も無しに兵士に仕立て上げてどの程度役に立つのか。
他の軍ではこれが標準なのは知っておるが……それを切り崩す方法はいくらでも思い浮かぶのが更に不安を加速させるのじゃよ。
自軍に対して使われれば、それは手痛い被害を受けることになる。
何より……それで紀霊や魯粛、文聘などの上位幹部に被害が出れば致命傷なのは間違いない。七乃の名前がないのは戦場に出ることがないからじゃ。
忠臣の損失で国が傾いたことなど一度や二度ではない……まぁ忠臣を重用し過ぎて傾いた国も数えきれんほどあるがな。
「しかし、どうにかなったと言っても将は不足なんじゃがな」
手が空いておる将は一応の吾、七乃、魯粛、孫権、廖化ぐらいしかおらん。
朱儁ばあちゃんには名がある武官がおらんなった南陽に詰めてもらっておる。
本当は磨けば光る、そこそこの将はボチボチおるんじゃが経験不足な者ばかりでイマイチあてにできんのじゃよ。これからの成長に期待じゃな。
そして何より吾等は今の業務状況は許容範囲内ギリギリであり、兵站の手配から日頃からの書類、随時届けられてくる報告書の山と戦い続けておる。
誰かが兵を率いることとなればその瞬間からまた眠らぬ政庁二千四百時がスタートしてしまう。
……おかしい、武官より文官が多いはずなのに仕事に追われ続けておるじゃと?……いつものことか。
しかし、問題は馬騰が董卓を抜いたりすると洛陽まですぐということじゃ。
そうなると誰かが戦わねばならん……兵はどうにかできるが将はのぉ……正直、総出で指揮しても馬騰や馬超、馬岱、韓遂、最近仲間に入ったらしい鳳徳などがおる。
脳筋の集まりではあるが将の厚さだけは負けておるな。
まぁ本当に『将の厚さ』だけでじゃがの。
「お嬢様お嬢様、お嬢様にお客様ですよー。丸坊主にして野に返して上げていいですか?」
「いいわけなかろう。しかし吾に客?そのような予定はないはずじゃが?」
太傅に就いてからと言うもの面会はアポがほぼ必須となったはずじゃ。
一応緊急事態や決められた事柄であれば優先的に面会することも可能であるが客というからには緊急性もマニュアルにもない面会であろう……一体誰が来たのじゃ?
「会ってからのお楽しみです。お嬢様はきっと驚いて喜んでくれると思いますよ」
む?ということは吾が知っておる者か?もしくは蜂蜜商人か……いや、蜂蜜商人は一昨日来たばかりであったか。
はて、誰じゃろうな。
七乃がこれほど勿体振るということはちゃんとオチがあるんじゃろうなぁ。
さて、誰が来たのじゃ?