すいません。
睡魔に負けて短くなりました。
第百十六話
突然じゃが吾の親衛隊は全て重騎馬隊じゃ。
何故重騎馬隊なのかと言うと相手が大軍の場合は歩兵が多いため逃げることが容易で、相手が騎馬隊なら機動力は劣るが配備や維持費が掛かる騎兵が吾等より多いとは考えづらく、数が少ないか同数程度であると想定できるし、何より正面から戦うなら重騎馬隊の方が強い……つまり、どの場面にも活路を見出すことができることから重騎馬隊を採用しておるわけじゃ。
歩兵としても戦えるから厳密には現在の武装が、というだけではあるがな。
さて、北郷がこちらに向かってきているわけじゃが、守勢ならば歩兵で陣を固めればまず負けることはない。
相手が騎兵である以上対策はいくらでもある。
馬防柵などがその代表じゃ。他にも飼っておる蜂や蛇を散布したりすれば大混乱間違い無しじゃ。
ただし、これらの方法を用いるにはいくつか問題がある。
まずは待ちを前提とした策であることじゃな。
待ちというのは基本的に有利に動くことが大半じゃが、今回はどうなるかわからん。
内通者がおる可能性を踏まえると歩兵で守りを固めると機動力の差で吾等を無視して洛陽を落としにかかる可能性も大いにある。
そして一番問題なのが北郷一刀を逃さずに始末or捕縛したいことじゃな。
本来の主人公なんぞという面倒な存在は早いところ排除したいところなんじゃが、これがすごく面倒なんじゃよ。
騎馬隊というのはこの時代で最高速度の乗り物じゃから普通に考えれば捕まえるのは至難の業じゃ。しかも相手が乗るのは中華一と言っても過言ではない涼州の馬じゃからのぉ。攻勢に出ても殺れるか捕まえれるかわからんのじゃよ。
一応李典に頼んで一部の者達に馬鎧を簡単にパージできるようにしてもらったが……不安じゃのぉ。
「ところで孫権、少し緊張し過ぎではないか?」
「そ、そんなことないわ」
軍を率いるのに緊張しているのか、はたまた本物の戦場に緊張しているのか……どっちもか?
「……お嬢様は落ち着いてますね」
「まぁいつでも死ぬ覚悟ぐらいはしておるからの。たかが戦場に出るぐらいどうということはない」
「…………そうね。そうでした」
うむ、立ち直ったようじゃな。
指揮官が緊張しておっては周りの兵士に不安を与えるぞ。
……まぁ親衛隊がその程度で不安に思うことはないがな。吾が慌てても可愛いだの萌えだのと言って気にせんじゃろうな。
所詮お飾りなんじゃよ……いや、これは無能なフリではなく、ガチでじゃぞ?吾は軍を率いることなんぞ想定しておらんからな。
前に孫策達と演習したのは本当に特別じゃ。
「さて……あれじゃな」
随分離れたあ場所に見えるが吾達も相手も騎馬による進軍で距離が詰まるのが速い。
敵が目視できたことにより周りが慌ただしくなる。
点呼、隊列のチェック、武装チェックなどなど……本来なら出撃前にしておけというところじゃが念には念を、が基本方針じゃ。
それに移動中にトラブルがないとも限らんしの。
あの中に北郷一刀がおるのか……なかなか感慨深いのぉ。
「ところで……お嬢様は馬ではなく、小次郎でよろしかったのですか?」
「すっごい今更じゃろ」
吾が騎乗しておるのは馬ではなく、うちで飼っておる虎の小次郎である。
小次郎は馬より速い上に吾にない戦闘能力まで補ってくれるから大助かりじゃ。
たまに周りを走る馬を食べたそうに眺めている時があるのが玉に瑕じゃがな。
ちなみに親衛隊の馬だから平気じゃが他の馬だと小次郎がおるだけで大混乱に陥る……あ、そういえば小次郎だけで涼州軍の負けフラグじゃな。
宣戦布告や降伏勧告はせん。
そもそも洛陽の近くで徒党を組んで行進することは法によって定められた手順を踏まなければならないが、そのようなものは申請されていない以上、不法者であることは確定であるからギルティなのじゃ。
親衛隊が出向くことなんぞまずないが、対応方法自体は変わりない。
サーチ・アンド・デストロイ、これに尽きる。
「ところで陛下、荊州王、そんなに震える必要はないぞ。青空を眺めている間に終わっておるじゃろう……まぁ下手に逃げたりして逸れると死ぬ可能性が高いから気をつけるんじゃぞー」」
「「は、はいぃ」」
二人をどうやって守ろうか考えておったが宮廷内では近くに疑うべき人間が多過ぎるために前線へ出せば安心じゃろうということで連れてきたのじゃ。
まぁ現役の皇族が戦場に出るなんてことはまずありえんからビビっても仕方ないとは思うがの。
それに本人達も散々嫌がったが、追い込みを掛けた上で最後には折れることとなった。
ちなみにこれは非公式じゃから万が一があった場合は責任問題になるので吾は失脚間違い無しじゃな。
「構ええぇ!」
孫権の号令とともに親衛隊が弩を構える。
敵も構えに入っているようだが……おそらくこちらの射程より断然少ない。
射程は単純に吾等の方が長くてこちらがイニシアティブを取ることができる。
そうすれば相手の陣形も崩れることも考えればこちらが有利であった。
再び孫権から号令が発せられると弩に装填された矢が宙を舞い、狙いは大きく違わずに涼州兵達に降り注ぐ。
孫権は緊張していたのが嘘かのように、立派な掛け声が響くあたりもう大丈夫かの。
魯粛は今のところ出番はないが、先程からなにやら打ち合わせしているようだが……まぁ吾が気にすることではないじゃろう。
贈られた矢の仕返しとして涼州兵達も弓矢を引き絞るのが見えた。
しかし、この距離で弓矢を構えるということは有効射程はこの程度か……しかしこの協会との二射目には間に合わないだろう。