また短くなってしまいました。
申し訳ない。
第百十七話
涼州軍からの弓矢による損害は皆無なようじゃ。
旧装備のものですら離れた弓矢は効果があまりなかったにも関わらず、今親衛隊が着けている装備は李典が更に魔改造したものじゃ。
涼州軍が使う短弓で貫通させるにはかなり至近距離から放たなければ効果はないと李典が言っておったがその予測通りのようで安心したぞ。
もっとも吾と小次郎は何の武装もしておらんから当たれば怪我間違い無しじゃがな!
いや、いくら軽い鎧と言っても吾が着れるほど軽くはないのじゃ。さすがに蜂蜜壷とセットでは重くて仕方ないのじゃよ。
小次郎は鎧を着けるのを嫌がるしのぉ……まぁ虎が鎧なんぞ着たがるわけがないか。
「袁術様、あまり前へ御出にならないように」
「うむ、しっかり守ってたも劉勲」
それにしても……いつの間にか劉勲が親衛隊におったとは、意外じゃ。
これで『袁術』の主だった配下は揃ったのぉ。
劉勲は親衛隊に属するだけあって能力はある……あるのだが、関羽達のような一流から比べるとやはり一枚も二枚も落ちる。
まぁ紀霊や魯粛が規格外なだけで、普通はこんなものじゃよなー。
そんな評価の劉勲ではあるが、降り注ぐ矢の雨を吾に届かぬように切り払い続けておるあたりはさすが『袁術』の配下の中では紀霊に次ぐ武力の持ち主じゃな……紀霊と比べると武は六割程度でしかないらしいがな。
「涼州軍が動揺しているようです。私達に矢が通じなかったのは予想外だったようですね」
まぁ涼州軍の騎馬は騎射で崩して突撃か騎射で逃げ撃ちというのが十八番戦術である。
前者はその十八番戦術の土台である騎射が通じぬとわかれば動揺もしよう。
何から何まで李典様々じゃな。
良かったのぉ、予算の増額決定じゃぞ。
本当は李典がしたいように予算を組んでやりたいんじゃが、他の部署から贔屓だと文句が来るとの理由である程度抑えなければ(それでも万の軍が半年は動員できるほどの金額)ならなかったのじゃよ。
むっ、先頭が接触したようじゃな。
さすがに馬より低い小次郎の上からでは気配は察せれても細かい情報は手に入りづらい。
「様子はどうじゃ」
「重騎馬である我々がたかが騎馬に負けるわけがありません」
多少気にかかる言い方ではあるがその通りなのじゃろうな。
むっ、足元に死体が……ふむ、確かに死体の装備から察するに親衛隊のものはあまりないように見える。
それに衝突したにしては速度が落ちておらんからこちらが押し切っておるんじゃろう。
「お嬢様、あちらに妙な服装をした者が居ました」
「ここから届きそうか?」
……まさか学ランで戦場に来るとは思いつつも念のため見たこともない服装の者がおれば優先的に報告するように言っておったが……本当に学ランで戦場に来ておるのか?それとも波才のようにジェンヌ風な奇抜な格好をしたものが他にもおるのじゃろうか?
「いえ、今回はおそらく届かないでしょう」
「そうか」
騎馬隊の突撃というのはそれほど簡単に方向が変えられるものではない。
少し外れると集団が崩れ、攻撃力が落ち、攻撃力で補っていた弱い防御力が露呈してしまう。
北郷一刀という確証もない現状で陣を崩し、被害を増やしてまで狙うにはリスクが高すぎるため大人しくしておく。
その代わり先頭近くと後方で指揮を執っておる孫権と魯粛に一報しておくことを命じる。
さて、本当に北郷一刀であるならここで討ち取ってしまえば不安要素は消えるのじゃがのぉ。
「ところで陛下方は大丈夫かや?」
「だ、大丈夫じゃ」
「……うっぷ」
二人とも顔色が悪いのぉ。
人死を目にすることは少なくなかろうに……やはり戦場というのはまた特別に思うところがあるのかもしれんな?
まぁこれも経験じゃと思うて頑張るんじゃな。
「……狼煙が上がりました」
最後にギリッと歯ぎしりを付け加えて報告する劉勲。
やはり内応が計画されておったか、どの程度の規模なのじゃろう。場合によっては洛陽は放棄することになるが……七乃は大丈夫じゃろうか?
一応徴兵した兵士達と信用のおける禁軍をつけておるが……農民兵はともかく、禁軍がイマイチ当てにならん。
信用のおけると言っても背後関係を調べただけで、一番重要な時間が足りぬからのぉ……七乃にもしものことがあったならば関わった者共を殺してくれと懇願するような目に遭わせてくれる。
(袁術がとても怖いんじゃが)
(今はそれどころでは……うっぷ)
む、全体の速度が上がったようじゃが……敵陣を抜けたか。
となると次は反転じゃな。
「敵の残存はわかるか」
「陣が乱れて把握しづらいですが……大体三千と八百ほどかと」
ふむ、それが正しいとして約千二百程度を一度に削ることができたということになる。
こちらの被害はどれほどか……と思っておったら魯粛と孫権から報告があがってきたので合算してみると被害は三百に届かないことが判明。
キルレートでいうと八十%、キルレシオだと一:四……同数の軍同士の奇襲などを用いずに正面から戦ってこのような結果がありえるのか?
これが李典の魔改造装備のおかげだとすれば予算増額待ったなし、じゃな。
さて、敵はどう動くのじゃろうか。
吾等が敵陣を突破したことによって洛陽とは反対方向へと抜けたことになる。そして涼州軍は依然として洛陽に向いている。
敵の取る行動は、そのまま進路を変えずに洛陽に向かう、同じように反転して吾等と戦う、どうやってかは知らんが逃げる、の三つが考えられる。
吾なら原作知識ありで考えるならとっとと逃げて馬騰達と合流するがな。そして漢中を通らせてもらうよう説得するか史実の鄧艾の如く迂回して成都へ向かい、吾に敵対心を抱いておる劉表かその存在を邪魔に思うておる劉璋に味方すれば当面の難は逃れられるじゃろうに……まぁ先がないのは同じじゃがな。