第百二十七話
小次郎は優しい子なので足が不自由になっておる吾の車椅子代わりになってくれておる。
そして周泰も心配してよく来てくれる……決して小次郎に会いに来ているというわけではない。決してじゃ。
もっとも小次郎に跨るには足が痛いのが玉に瑕じゃあがな。
そして最近困っておるのは風呂と北郷一刀の名前を呟きながら包丁を研いでおる七乃をよく見かけるということじゃ。
風呂に入るのに困っておるのは洗うのに不便をしておることはもちろんなんじゃが……七乃を筆頭に紀霊や魯粛……そしてなぜか孫権までもが一緒に入って世話を焼こうとすることなのじゃよ。
七乃達は良くも悪くも淑女(変態)じゃからわからんでもないんじゃが……なぜそこに孫権が混ざっているのか謎なんじゃよ。
吾が男の娘であることは知っておるというに……もしや男として見られておらんから抵抗がないのか?いや、さすがに生真面目な孫権がそのようなことをするとは思えん。
いったいどういうことなのじゃろうな。
そして、次に困っておるのはなぜか中庭で怖い笑顔を浮かべながら包丁を研いでおる七乃じゃ。
就寝前に厠へ行った時に見かけて漏らしかけた吾は悪くないと叫びたくなるほどの怖さじゃった。
吾のために怒ってくれておるのは嬉しいが、なぜ包丁なのじゃ?なぜ中庭なのじゃ?せめて部屋でしてたもれ。
しかも聞こえるか聞こえないかわからんぐらいの小声で北郷一刀殺すと呟いておるんじゃからもうホラーと言って過言ではない。
「ということがあったのじゃ……良かったのぉ。おぬしらの名前が言われてなくて」
「こ、怖?!……ひ、人質だし殺したりしない……よね?」
「殺しはせんが拷問は有りうるのぉ」
「嫌ーーー?!」
うむ、馬岱はなかなか良い反応をしてくれるのぉ。
こういう反応をしてくれる人は吾のところには少ない……というか、悪ふざけをしておる吾のせいかは知らんが真面目な人間が多く集まるんじゃよなぁ。
波才なんぞは見た目も喋りもジェンヌではあるが中身は割りと普通じゃし。
強いて言えば七乃がそれに当たるんじゃが……七乃は種族:七乃じゃからなぁ。
さて、吾は今、ちょっと興味本位で馬超と馬岱に会っておるんじゃよ。
やはり原作知識を持つ者としては原作のキャラに会っておきたいと思うのが人情じゃろ?
「短い間じゃったが達者でな」
「ちょっ?!戦争が終わるまでは命を助けてくれるんじゃなかったの?!」
「いやー、ちょっと反応が良くて遊んでみたくなったのじゃ。許せ」
「じゃあ仕方ない……ことないからね!許すけどっ!」
馬岱となら会うタイミングや立場が違えばいい友達になれた気がするのぉ。
馬超?馬超なら吾の隣(簀巻&猿轡状態)で寝ておるぞ。
ちなみに仕立て人は吾ではなく馬岱じゃ。
暴れられたら私も困るということで事前に対策をしてくれておったのじゃ。
なんという心配り、これこそおもてなしの精神じゃな。日本人ではないがの。
それにしても……馬超は興奮して鼻息が荒いが縛られるのが性癖じゃったろうか?吾の記憶では魏延の方であったと思うんじゃが?まぁ正直どちらでもいいが……おそらく怒っておるんじゃろうな。
もっとも怒りの視線は吾に、ではなく馬岱に向かっておるが。
「では、詫びにこれでもどうぞ、なのじゃ」
「……壷?」
「中身は蜂蜜じゃ。捕まってから食事には困っておらんじゃろうが甘味なんぞはなかったじゃろ?」
いくら吾の肝煎りで蜂蜜が大量に流通して単価が下がっておるとは言うても捕虜に食べらせるほど安価なわけではないからのぉ。
「蜂蜜が大好きという噂は本当だったんだねー」
む、そのような噂が流れておるならもっと蜂蜜信者が増えてもいいと思うんじゃがなかなかそういった者達と出会うことがない……まぁ吾が行動しておる範囲があまり広くないから仕方ないことではあるがな。
城下を彷徨くことは度々あったがそれは比較的治安がよく、安全な場所を選んでおるし、何より洛陽に来てからというもの城を抜け出した回数は二桁に届かん。
もっともこちらに来てから外出の機会が減っておるのは治安云々より書類攻めにあっておるからというのが主な要因じゃがな。
決して蜂蜜信者が少ないわけではなく、吾がたまたま会ってないだけなのじゃ。
「それで私達に何のようなの?ただ顔を見に来ただけ……ってことはないよね」
いや、実は本当に顔を見に来ただけなんじゃよな。
馬岱が情報を洗いざらい話してくれたおかげで聞きたいなような情報は既に手に入っておるし、まさか十八禁になるようなことをするということもない。
だからといってこのまま帰るというのも間抜けな話じゃな。
「おぬしら、吾に仕える気はないかや」
「……歯向かったたんぽぽ達を取り込むつもり?そんなこと認められないでしょ」
「さて、どうじゃろうな。今涼州軍に使者を送り話し合っておる最中じゃが、もし吾等の条件を飲むのであればこの度のことは馬騰と姜維、北郷一刀を主犯として引き渡す代わりに馬超、馬岱を解放し、他の者達は罪を問わぬという話で進んでおる」
「そんなっ?!」
「んーーー!!んんんん!!!」
涼州を徹底的に粛清したいところではあるがやはり虐殺は風評に関わるし、何より袁紹ざまぁとの戦い、董卓の基盤が揺らいでおることが痛い。
せめて董卓達がもっと頼れるならよかったのじゃが……まぁ相手は脳筋達じゃから首を絞めるなら戦場じゃなくて政で絞める方が楽じゃしな。
ちなみに楊阜を引き渡しのメンバーに加えなかったのは吾のところに捕まるよりも馬騰が居なくなった後の涼州で仕事をさせる方がずっと地獄であると考えてのことじゃ。
「心配せんでも命を奪うつもりはないから少し早い当主交代という程度に思っておけ」
「……本当に?」
「うむ、これでも吾は約したことを破ったことは殆どないのじゃぞ」
無能なフリをして相手が舐めてよく反故にされることは多いがな!