第百三十四話
なんか知らん間に孫家がドロンしてしもうた。
なんか知らん間に呂蒙GETなのじゃ。
……うん、採算的にプラスじゃな。
周瑜はもちろん優秀であったが所詮客将の家臣、任せられる仕事は限られておる。
それに比べて呂蒙は能力的には周瑜より数段劣るが正式に雇うことができたので好きに仕事を任せられるからのぉ。
早速仕事漬けにしてラリって(寝不足的に)おるはずじゃ。
最初は辛いが段々と快楽が……ないぞ。うん、欠片も快楽なんか感じん。
意味不明な言動が増えたり、何をしておるか自身でもわからなくなったりするが快楽なんてチリひとつもない。
そんな意味不明な状態でも仕事はしておるんじゃぞ?夢の中ですら寝ぼけながら仕事じゃぞ?そんなものに快楽なんぞあろうはずがない。
大事なことなので多少言葉を変えて二回言ったのじゃ。
孫策達が出ていったことには対して思うことはない。
孫堅の遺児を守ってやりたいとは思っておったんじゃが、自分から出ていくというのなら仕方ない……そもそも正式な手順で出ていくとなると引き止めると吾の器が疑われるからのぉ。相手は客将じゃし。
例え辞めた後に向かうのが劉備達のところであってもの。
いやー、孫堅や孫権の思いを除けばいらぬ手間が減ってよかったよかった。
孫策の機嫌や暴走や謀反に配慮せねばならなかったから大変じゃったんじゃぞ?
問題になりそうな劉備達の合流じゃが……別にどうでもよいのじゃ。
いくら増強したところで長江を渡河することが不可能な段階で特に気にする必要は……あ、でも揚州は陸続きであったか……とは言え、南荊州の経済は北荊州以上に商会の手の中じゃから吾に敵対するならいつでも締め上げることが可能なので脅威にはならぬ。
と言うか……劉備達は孫策達を使うことができるんじゃろうか?平和主義()と血に酔うバトルジャンキーなんて組み合わせが上手く行くとは……うん?そういえば平和主義は平和主義でも()が付いておるから案外上手く行くかも知れぬか。平和主義(血塗られ)じゃからの。
一番影響があると思っておった孫家の離脱で味方に動揺が広がるのでは……と心配しておったんじゃが文官→それどころじゃない、武官→ああ、やっぱり、豪族→……孫家?なんていうあっさりした反応で問題なんぞ一つもなかった。
……孫策達が哀れじゃ。
「それより問題なのが汜水関じゃ」
袁紹ざまぁめ、何も考慮せずに突撃仕掛けおって……しかも大規模モグラ作戦とはやってくれる。
現在五ヶ所に取り付かれ、うち一ヶ所が防衛用櫓の建築を許してしまったそうじゃ。
もちろん矢、油、熱湯、石など様々な手段で妨害をしておったが他の場所にも取り付かれて手が足らなくなり、建築されてしもうたらしい。
本当に戦争とは数じゃな。一万二千ほど削ったらしいがまだ十三万八千も残っておる。
それに比べてこちらは被害は無いが二万……まだ六倍以上相手が多いというなんとも言えない絶望感……やはり虎牢関に駐留しておる部隊を向かわせるか?
しかしモグラ戦法なんておるからのぉ。汜水関が突破されることも考慮するとこれ以上投入するのもどうなんじゃろ。今なら正規兵だけじゃから撤退も規則正しく速やかに行われるじゃろうが虎牢関にいる志願兵組では不安がある。
一応この待機時間に身元調査を行い、間者はわかるだけ叩き潰したが他にもおらんとは限らんしのぉ。
戦争って本当に面倒じゃな。
<汜水関>
モグラ戦術をどうするか現場で打開策を考えた。
櫓が完成してほとんどの攻撃が通じなくなり、質量で押しつぶすほどの大岩はすぐには用意できない。
投石機に使っている岩すら防ぐ櫓であり、それ以上となるとなかなか存在しないし、何より六十六メートルもの城壁の上に運ぶという難題がある。
最初は木造だったため油を撒いて燃やそうとしたのだが、すぐに鎮火させられ、水を含ませた木の上に鉄板の屋根が施されて通じなくなった。
そして考えて考えた末、行き着いた先は——
「では、いくぞ!」
「「「おうっ」」」
関羽と精鋭百人による特攻……ただし、城壁から命綱(鎖仕様)でバンジージャンプです。
さすがに反袁術連合軍も城壁から人が飛び降りてくるとは思いもしなかったため、大混乱。
そして精鋭百人は周辺にいる兵士を斬り殺し、関羽はただ一人櫓に向かい、櫓を吹き飛ばす。
その光景はもう人間なのか疑問を抱いても不思議に思わないそれであった。
元々上からの攻撃には強く作っていても下からの攻撃には強く作って……無いわけがない。建物なんだからそれ相応に丈夫に立てている。
それを吹き飛ばす関羽はまさに鬼神、決して出番ができて嬉しくていつも以上のフルパワーを発揮したわけではない。
そうして櫓を吹き飛ばされ、露出した採掘現場に用意されていた土嚢が次々と落とされ、埋められた。
そして、繋がれた命綱(鎖仕様)が引っ張り上げられて撤退していく。若干関羽が名残惜しそうにしていたような気がするが気のせいだろう。
こうして一番進んでいた穴は塞がれ、袁術軍は一先ずは安心し、反袁術連合は士気が落ちた。
しかし、引くに引けない反袁術連合はひたすら前進して拠点を築く。
そして袁術軍はそれを妨害する。
櫓を組まれたら関羽達の特攻……二度目以降は奇襲にならず、正面から戦うことが多くなったが、精鋭の幾人かが負傷者する程度で済んでいるのはさすがは精鋭、紀霊に日頃からキレイキレイされているのは伊達ではない。
これが何度か繰り返され、反袁術連合は四万まで損害を出すこととなり、袁術軍は精鋭三人の損害という一方的な虐殺を繰り返していた。
そして、一つの勢力が動き出す。
それは劉備軍である。
目標は洛陽……ではなく、益州である。
大義としては州牧である劉璋と後から派遣(追放)された劉表の争いが激化しており、民を苦しめる者達を討伐するというものであった。
実際劉璋と劉表の争いは酷いものであったため、これらを聞いた民は両手をあげて歓迎した。
これを袁術勢は黙認したことにより更に大義が固められた。
劉備軍の急先鋒はもちろん戦功と戦争に飢えた孫策達、それを迎え討つは領地が隣接していた劉表でこちらの急先鋒は……戦いに敗れ、撤退に成功したものの身柄の引き渡しを迫られ、それに応えようとしたところ連れに無理やり連れ出され、流れに流されて劉表に拾ってもらった北郷一刀と無理やり連れ出した姜維、寝返ったはいいが和平などと言い始め、同じように董卓達から身柄の引き渡しを迫られたことにより身の危険を感じて一緒に行動している李確郭汜である。
こうして外史が違えば最愛の人と成り得る者同士が戦うこととなった。