第百三十八話
「予想はしておったが、さすが劉備じゃな」
多少は劉備のカリスマチートで兵士は増加するとわかっておったが……まさか開戦当初の五万が八万まで膨れ上がるとは思いもしなかったぞ。
ちなみにこれは孫家と涼州軍の戦いで出た損害を込みにした数じゃ。つまり単純に三万増えたのではなく、三万三千増えたことになる。
この増加は益州入り(戦場は益州内)してから劉備が各村や街を周り、募兵した結果なんだそうじゃ。
カリスマチート恐るべし……ただしこの募兵、諸葛亮達が予想していた以上に順調に行き過ぎてしまい、兵站を圧迫してしまうことになってしもうたようじゃが……
「と言うても数だけなら劉表のじじいの軍を上回ったのぉ」
もちろん質では劣っておるじゃろうが戦争は数じゃからな。
兵站の圧迫?そんなもの兵士を使い捨てれば食べることもなかろうよ。劉備達本人が意識して行うかは知らんが兵站が破綻する前に決着をつけようと多少無理をすることになるじゃろう。
そうなると自動的に兵士の損害が大きくなり、結果的に使い捨てることになる……さすが劉備、無意識に悪行を重ねるのぉ。
それにこれから更に益州の奥に侵入するとなれば更なる募兵も可能となるからの。侵攻を続ければ続けるほど兵が増える……敵からすれば恐怖じゃな。
もっともこれらは全て身から出た錆ではあるがな。劉璋と劉表のじじいの争いに疲れた民衆が評判の良い劉備(黄巾の乱の大功&南荊州の治安の改善)を支持しただけのことじゃ。
「しかし、このままじゃと劉備達のせいで人口が激減しそうじゃのぉ」
劉備達は来るもの拒まず、劉表のじじい達は無理な徴兵で男手をガンガン消費することになる。
赤字経営を解決するために劉備達は戦争を仕掛けたが、このまま戦い続けると人口減少によって税収が減ることになり、結果的にまた赤字になるぞ……まぁその方が都合がいいがの。
ふむ、兵糧はともかく軍需物資は常に生産を続けてあまり気味ではあるし、劉表じじいに……より正確には涼州軍に売るとするかの。劉備や趙雲なんぞが死んでも問題ないが、北郷一刀に死なれると困るからのぉ。
漢中や荊州を経由するとバレてしまう可能性が高いから揚州から交州を経由して運ぶかの。揚州は華琳ちゃんを囲んでおるだけで割りと暇じゃしな。
それにバケツリレー式に物資を送れば明後日にはまとまった数を用意できるじゃろう。
おお、そうじゃ。陶謙からも買い取ってやれば喜ぶじゃろう。(と、この時は思っておったが軍需物資が溢れているのは吾のところぐらいということを忘れておった)
まさかの展開じゃ。
思った以上の数になった劉備軍に対して劉表のじじいが講じた策は……まさかの劉璋との一時的な和解じゃ。
いやー、驚いた。まさに戦国時代じゃな。
今日の敵は今日の友……ん?何か違うぞ?まあ良い、それでなぜこうなったかというと、劉備の人気に嫉妬したというのもあるじゃろうが、一番の理由は『テメーのような庶流が劉を名乗るな』というものであったそうな。
なんで器が小さい奴らじゃ……まぁ貴族(厳密には皇族じゃが)というのは誇りこそ大事なものであるから仕方ないことかもしれんが。
そのうえ、どうも劉備を追い出し、南荊州まで侵略して半分ずつに分けるという約束までしておるそうじゃ……もっともこの約束もどこまで信用できるものやら。
これにはさすがの伏龍、鳳雛も読めなかった……わけではなく、確率はかなり低いと読んでいたためかなり慌てておるようじゃ。
所詮は急造の同盟関係、烏合の衆とは言っても二方面から攻められるだけで辛い。これは吾も体験済みじゃな。
「それにしても黄忠と厳顔が敵になるというのは劉備軍にとって厳しいじゃろうなぁ」
「しかもお嬢様が涼州軍に物資を売っちゃいましたからねー。このままだと劉備さんは負けちゃいますね」
それならそれで良いがの。
劉備の統治だから南荊州はまとまっておるが劉表のじじいか劉璋の統治下になれば間違いなく不満が溜まることになる。そうなれば民衆が頼れるのは吾等だけとなる……つまり大義名分を手にすることができるのじゃ。
そうなれば北郷一刀を捕らえる機会もあろう。
一応いくらか劉表のじじいの周りには影を忍ばせておるが、その影を動かせば情報が思うように入ってこなくなるから迂闊には動かせん。
まぁ涼州軍は騎兵が主軸であるからそう簡単には死ぬことがなかろうが。
「それにしても汜水関は硬直したままか」
「被害が出ないように籠城に徹してますからねぇ。負傷者はいくらか居ますけど戦死者は二百に届かない程度しか出ていません」
まぁこちらはコンクラーヴェ……じゃなくて根比べに近いものがあるからのぉ。
そろそろ袁紹ざまぁ達も兵糧の底が見え始めておる。
撤退までもう少しじゃろう。
「反袁術連合の一部の方は徐州を襲い、略奪して兵糧を賄うべきだという主張も出てきてますねー。言っていることが野蛮すぎですね。黄巾賊と変わらないと気づかないんでしょうか?」
徐州を襲撃、か。
もしそれが成功したのなら兵糧の確保はできるであろうが……ふむ、華琳ちゃん達がそれに参戦したなら防ぐのは難しかろうな。
兵糧確保をさせてはこの戦いが長引く、そうなれば吾達は過労で倒れることになるじゃろう。
「……もう少しこちらも動くべきか」
「ならいっそ中原に攻め込んじゃいますか?今なら渡河の手段を握っている私達が圧倒的有利ですよ」
それも一つの手じゃな。
心配なのは冀州に田豊が残っておることじゃな。あやつが冀州に残っておることが安心して汜水関で籠城できておる要因じゃ。
逆に袁紹ざまぁ達が渡河するのに時間が掛かることを利用して中原へ攻め込まない要因でもある。