第百四十二話
まぁ結果から言うと孫権は負けたのじゃ。
それはもう悔しそうにしておったぞ。持っていた激闘でも壊れなかったモップを握り潰すぐらいにの。
「足りない。力が足りない……また守れない——!」
どうやら孫権はこの前の戦で吾が傷ついたことを今でも気にしているようなのじゃ。
正直、吾が戦場に出ることはもう無いとは思うのじゃが……まぁ暗殺や襲撃などはあるかもしれんから油断はできんか。
ふむ……たしかに孫権は紀霊を抜いて七乃と並ぶほど吾の側におるから強ければ安心できる。
ただし、その流れで行くと七乃と一緒にいる時は危険ということになってしまうのじゃが、七乃の戦能力なんて5なんじゃぞ?……まぁ影がいるからいいのじゃが……たしかに将クラスの武人が相手となるとかなりの損害が出るか。
幸い、一番危険であった甘寧と周泰を味方に引き入れれたのは大きいが……まぁ内乱が終わればこの二人を護衛とすることができるから問題はないはずじゃ。
もちろん吾を思う孫権の思いは凄く嬉しいのじゃが、どうもトラウマを与えてしまったようで心苦しいというかなんというか……。
「うぅ……なんで戦いに来たのに書類仕事をせないかんのや」
孫権が負けたが張遼を逃したとは言っておらんぞ?
張遼は吾の隣で肩と腰と足を椅子に縛られた状態で書類と戦っておる。これぞ縛りプレイじゃな。
ちなみにどうやって捕らえたかというと対将官用鉄網による一斉捕縛を囮として吾の蜂蜜の瓶で後頭部を強打して捕まえることに成功したのじゃ。
張遼は明らかに戦闘向きではない吾自身が戦いに参加するとは思いもせんかったじゃろうな。火サスも真っ青な見事な一撃が決まったのじゃ。これが火サスなら間違いなく張遼は亡き者になっておったであろうな。
さすがにまだ信用しきれぬため重要機密は任せぬが、雑用程度の書類仕事も山ほどあるので役に立っておる。
これで張遼も書類地獄友達、略してショジトモじゃな。全然嬉しくないじゃろうがな!
「まぁそういうでない。楽進が来るまでの暇つぶし(休む時間すらなくなる)には丁度良かろう?」
「丁度やない!むしろ過労や!」
いえ、通常勤務ですが何か?
……おっと、何やら言語系に支障が発生してしもうた。
「ふっ、あなたは所詮武だけの人だったのね」
「かちーん、誰が華雄みたいな脳筋や!」
「誰もそんなこと言ってないわよ!そもそも華雄って誰よ!」
おーい、張遼さんや、ナチュラルに同僚をディスるのはどうかと思うぞー。
と言うか孫権と張遼はどうも仲が悪いというか、相性が悪いのじゃ。これで何度目かはわからんが両手は既に過ぎたのは間違いない。
やはり史実の影響かのぉ?原作でも魏延が馬岱を苦手にしておることから全く影響がないわけではなかろうな。
「そもそもサラシだけの格好で恥ずかしくないの!」
「これはウチのところの民族衣装や!」
え、そうじゃったのか?!いや、疑うよりもそちらの方がしっくり来るのぉ。自分の好みでサラシ巻きよりは説得力があるのじゃ。
それからもキャンキャンと二人は言い争い、孫権は手を休めず、張遼は一々手が止まるため、その度に指導が入り、三つ指導が貯まれば書類が増やされるという罰のせいで今日は完徹することになりそうじゃ。ちなみに吾も孫権も通常勤務(完徹)じゃ。
む、影か……孫策達の動向は孫権のシンパすらも把握できておらんようじゃな。ただ、劉備達とは別に隠密行動中なのは間違いないようじゃ。
吾等が捉えきれんとなれば偶然でも無い限り劉表のじじいや劉璋では捕捉するのは難しかろうな。
これが孫家としての行動なのか、それとも劉備の配下……同盟者?……としての行動なのかということなのか。
吾としては劉璋あたりに寝返ったら大笑いしてやるのじゃが、さすがに裏切るのには大義がいるからのぉ。吾のところからいなくなったのはあくまで客将であったから百歩譲って良いとしても劉備とは共同戦線を張っておる以上、不義理となってしまい、孫家の信頼は地に落ちてしまう。
まぁもっと本格的な戦国時代、群雄割拠状態ならそれも一つの手ではあったじゃろうが、内乱中とはいえ政府は健在であり、内乱は政府(吾等)が勝つこと可能性が濃厚となれば信頼を取り戻す時間が少なすぎるじゃろう。
どうなるか少し楽しみじゃのぉ。対岸の火事は見ておる分には楽しいと思ってしまうのは人間の業じゃな。
……いやいや、驚いたのじゃ。
吾と袁紹ざまぁは相も変わらず汜水関で小競り合い程度でのらりくらりと持久戦を繰り広げておるんじゃが、蜀方面の戦いはあまりにも移り変わりが激しいのじゃ。
劉備軍が主攻と定めた劉備本隊vs劉表&李確(北郷一刀と姜維)軍の戦いが行われたのじゃが……まさかの劉備軍の大勝利。
勝利することはあるかと思っておったが……まさかの北郷一刀達が劉備に寝返ってしまい、姜維が李確を討ち取り、涼州軍を掌握して劉表軍の横っ腹に突撃を仕掛けて劉表を討ってしもうたのじゃ。
前々から劉表と李確は姜維の身体を狙っておったことは知っておったが姜維が軽くあしらっていたため問題なかったがどうやら業を煮やした二人は結託して姜維を慰み者にしようと動こうと計画しておったそうじゃ…………戦場で何やってるんじゃろうなぁ。
それを察知した姜維が堪忍袋の緒が切れて北郷一刀と相談して、元々あまり三国志に詳しくない北郷一刀が知るほどの劉備というビッグネームが相手であったこともあり、寝返る決心をしたそうじゃ。
ということは吾が袁術じゃからあの交渉の仕方じゃったのか?気持ちはわからんでもないが上流階級にあれはなかろうに。
しかも、その決心した時に丁度良く劉備から寝返りのお誘いがあったのが決定打となった……まぁこんなにタイミングがいい偶然なんてそうそうお目にかかれんと思うじゃろ?もちろん偶然ではないのじゃ。
劉表のじじいや李確が戦中にも関わらず、有能な将である姜維を狙い始めたのは諸葛亮によって放たれた間者によって煽りに煽った結果じゃ。つまり北郷一刀達はうまく利用されたわけじゃな。
もっとも、劉表のじじいも李確も乗らなければ問題なかったんじゃからやはり自業自得な部分が大きいがな。
これで劉備軍と北郷一刀が合流して、よくある原作の二次小説のような展開に……と思ったんじゃが少し様相が違うのじゃ。
劉表のじじいが劉表軍は瓦解したのじゃがなぜか北郷一刀が率いることになり、劉備とは同盟者という扱いになってしもうた。
おそらく諸葛亮にとっては計算外のことであったじゃろうな。
これで更に劉備は自分の意志に従わぬが敵ではないという厄介な味方を抱えることになったわけじゃ。
まぁ気質が二人共よく似ておるからどうなるかわからんがな。
あ、ちなみになぜ北郷一刀が劉表軍を率いることができたかというと……吾が指示したからじゃ。
あまり劉備ばかりに力を持たせると後々面倒になるし、北郷一刀を討伐しなければならないので劉表のじじいの後釜に据えておけば、内乱を落ち着かせた後に討伐を名目に領土を手に入れることが可能になるからじゃ。
内乱さえ終われば吾等が一つや二つの勢力に負ける道理はないのじゃ。