第百四十六話
劉備軍と劉璋軍がとうとう衝突したとの知らせが入ったのじゃ。
劉璋軍としては吾が渡した情報により劉備軍が兵糧に余裕がないことがわかっておるから籠城を選択……する予定であった。
しかし、劉璋軍は野戦で劉備軍を迎え撃って出たのじゃ。
それは城内にいる民達が劉備を歓迎するムードがあったからであった。
籠城というのは兵士だけで行うものではなく、その城に住む民と共同で行うものである。そして民を信用できない以上、長期の籠城はリスクが高いと踏んだらしい。
まぁ籠城なぞ門を開かれれば一発で終わるからのぉ。民の反乱など悪夢でしかない。
それならば不利であってもそれなりの時間共にいた信用でき、共に戦い、士気が高い兵士達と野戦を行った方が上策だと判断したようじゃな。
更に言うならば籠城を選択すると民を閉じ込めることになり、ストレスが溜まるから籠城を行うならば少しでも短くしたいといった所か。
それにしても……劉備の人気は何なんじゃろうなぁ。確かに兵糧がなくても略奪などは行っておらんが戦争を仕掛けてきた相手じゃぞ?劉璋の内政が多少問題があるにしても致命的とは到底言えん。にも関わらずこの反応……諸葛亮か鳳統の手配か?だとすれば本当に危険なのはやはりあの二人ということになるのぉ。
一応あの二人が使っておる間者の中にも吾と魯粛の手の者が混じっておるのじゃが、そういう情報は流れてきてはおらん。大体は情報収集と連絡、豪族への調略が主だったもので流言ももちろんあるが劉備自身のことに関してはほとんど使われておらん。
吾の印象としてはおそらく劉備というブランドはわざわざ宣伝するまでもないし、宣伝すれば逆に価値が下がると思っておるように感じる。
もしこれが事実であったなら……かなりの脅威じゃな。
特に吾にとっては、の。
思うにその洗脳……大徳とやらは相手が英雄、英傑であれば通じぬものだと思う。でないと華琳ちゃんや孫権がまともに戦えぬからの。
そして吾は……とても英雄や英傑などというものにはなれぬ。つまり劉備の大徳は吾の民に通じてしまう可能性が高い。
吾は城下に遊びに行く時は名を語らぬため吾が袁術であると知らぬ者が多いが、これでもそれなりに頑張っておるから嫌われてはおらんはずじゃが、劉備の大徳()に敵うかどうかわからぬ。
もし吾が劉備と戦うことになれば今の汜水関のように籠城をするわけにはいかんのじゃろうな……まぁもし民が劉備に靡くようなら吾もとっとと役職を捨てて隠居するがな。
話が逸れたの、両軍ともに最初から全軍で戦うことは避け、様子見と一部の軍のみが動く。
劉備の先鋒は張飛、周倉、馬謖の率いる一万五千、劉璋の先鋒は厳顔、魏延、孟達の率いる一万となった。
ゲームのステータス的に考えるならば最高武力は劉備側に、総合的には劉璋側に軍配が上がる……いや、統率はともかく、知力では馬謖が抜きん出ておるから五分か?
兵数自体も致命的というほどではないが劉備が上回っているため劉備軍が優勢に……なることはなかった。むしろ劉璋軍が圧倒したようじゃ。
正面同士で戦えば将にあまり差がない場合は兵士の質と量で差が出ることになるわけじゃな。
劉璋軍は、前州牧である劉焉は益州を自身の国にしようと考えていた関係上、常備軍が存在しており、それらの練度は相応に高いのじゃ。
それに比べて劉備軍は十字軍よろしく民兵ばかりであり、兵士としての練度なんぞ知れておる上に……将と兵士、つまり軍全体をまとめる将が少ないのが響いておるようじゃ。
張飛はその性格もあって向いておらんし、趙雲も頑張っておるがどちらかと言えば張飛と似たところがあり、無理をしておるために上手くいかないようじゃ。情報によれば馬良がまとめ役となっておるようじゃが、所詮武官の役割を担える文官でしかないため、やはり無理があるようじゃな。
本来は関羽が担うところなんじゃろうなぁ。
もっともそうなれば吾のところで働くよりもずっと苦労しそうじゃがな。ここでは仕事量から体力勝負なところがあるが、劉備のところでは仕事量と人事まで気にせねばならんから精神的に大変じゃろう。(と自身に言い聞かせる)
話を戻すとして、圧倒されている劉備軍ではあるが、将同士の戦いはそうではなかった。
先頭を切って戦う張飛に魏延が挑んだようじゃが討たれこそしないものの魏延が終始押されてしまい、最終的には厳顔まで加わってさすがに押されることになったが五分の戦いとなったようじゃ。
いやーさすが呂布に次ぐ武力チートじゃな。厳顔と魏延の二人と普通の戦いができるのじゃから……ちなみに他の将……周倉、馬良、孟達は軍の統率に専念していたようじゃな。
ここにも兵士の質の差が現れたのぉ。馬良や周倉は二人でないと満足に兵達を統率することができないが、孟達は訓練された兵達であるため一人でも統率ができる。
そう考えると全体で見た場合でも劉備軍が不利であるように思えるが……いや、やはり戦争は数か。
この戦いはしばらく続いたが劉備軍が退きの合図を出し、劉璋軍も同様に退いたところで報告は終了しておる。
「まぁ様子見の前哨戦としてはこのようなものか……」