第百四十九話
孫策達が成都に向けて進軍を開始し始めたのじゃが……驚いたことに進軍していった先の城は大して有利でもない孫策達に次々と降伏を始めたのじゃ。
どうやら劉璋軍の中では益州北部を中心とし、南部は常に南蛮の侵攻がある左遷の地として冷遇されていたこともあるようで、前もって劉備軍に調略されてしまっていたようじゃ。
調略を掛けておったことは知っておったが、まさか南部に仕掛けておったとは思わんかった。
これにより劉璋軍は動揺し、意見が割れることとなった。
まず黄忠や厳顔、魏延などの原作組は、南部の侵攻は成都にいる軍だけで十分対応できると判断してここで劉備軍と戦い続けるという意見。
そして張任、張松などのモブキャラ達は南部が寝返ったことで中央にもどれだけの内通者がいるか分からないので一部の戦力を撤退させ、戦線そのものも後退させて対応できるようにすべきという意見じゃな。
正直、吾でもどちらが正しいか分からぬなぁ。
領土を守る、民を守るために敵を打倒するという点で言えば黄忠等の意見の方が良いかも知れぬが張松等の意見は万が一州都が落ちるようなことになれば前線を維持していても意味がないというのも理解できる。
劉璋軍は現状では短期決戦が理想であるが、質はともかく兵士の数では大きく劣っている以上は短期で終わらせるのは難しかろう。
長期戦となれば未だに劉備軍は兵糧という最大の問題が解決しておらんので劉璋軍の勝利は揺らがぬが戦線を後退させてしまうと領土が削られ、その領土から兵糧を手にすることになる。
勝つためには後退せぬ方がいいことは明らかじゃな。しかし、内通者の存在のせいで疑心暗鬼となる気持ちも分からなくもないのぉ。
そもそも成都を落とされれば勝敗は自ずと決まってしまうしのぉ。だからこそ冷苞や孟達はどちらにつくでもなく、見守っておるのじゃし。
こういう迷走に陥った時、人間というのはなぜか高確率で欲張った選択をする。それは——
「軍を分けるでしょうね」
魯粛がまるでそれが真実であるかのような、そして吾が思っておったことを読んだような口調でそういったのじゃ。
しかし、その選択はかなり危険な選択じゃぞ。
いい加減寡兵である劉璋軍が更に軍を分けるとなると戦線が維持できるかどうか怪しいし、何より——
「戻した者達の中に内通者がいないとも限らないのですけどね」
その通りじゃ、特に張松が怪しい。
現状では怪しい動きはない張松ではあるが、逆に特に目立った動きすらもない。それに吾だけが知っておる事実もある。それは……史実において、張松は劉備に内通しておることじゃ。
此度のことも張松が手配をした可能性が濃厚じゃ。
となると——
「劉璋軍は敗れるか」
「私達が支援しても限度がありますから……結局は当人達に頑張り次第です。それに——」
十分稼がせてもらいました。という言葉から魯粛の中では劉璋軍が敗れることは決定されたようじゃ。
全ての内通者を吾等が劉璋軍に伝えたとしても全てを捕らえきれるわけではないじゃろう。もし張松が内通しておる事実を把握できたとして、それを伝えたとしてもまず耳を貸すことはないはずじゃ。
もし吾が魯粛が謀反を企んでおると知らされれば…………………いや、書類地獄の恨みと言われれば納得するじゃろうなぁ。むしろ喜んで譲ってやるのじゃが……そもそも魯粛が実質トップに近いしのぉ。
それはともかくとして。
「となると引き際が肝要じゃな」
「はい。現地にいる顔が割れている者達を引き上げさせ、交代要員を送るように手配しておきます」
本当に魯粛との会話は味気ないと思うと同時に楽じゃのぉ。吾が思っておることを理解して話してくれる。その点で言えば七乃などは理解していても理解できないフリをして話すからの。話すことが楽しくはあるのじゃが話の進みに時間が掛かるのが難点じゃ。
ちなみに紀霊とはあまり多くは会話はせぬがそこにあること、そこに控えることが自然であるような関係じゃからのぉ。ちょっと他とは違う関係じゃな。
孫権とは最近少し距離が縮まった……というか距離を無理やり縮められておる?ような気がする。何やら甘え?が増えたと言えば良いのか、よく膝枕したりされたり、耳掃除をしたりされたり、七乃の嫉妬を受けたり受けたり……ん?最後はちょっと違ったか、とりあえずそんな感じで妙に触れ合いが多くなっておるのじゃ。
こう考えると吾に親しい者はそれぞれ違うのぉ。
「魯粛、動くぞ」
「御意。既に備えは済んでおります」
「さすが魯粛じゃ。まず手始めに手紙を出すとするかのぉ」
「やっと動く気になったようね。私を暇で殺す気なのかと思っていたわ」
「吾には暇を暇として過ごすようにはとても見えぬがの。むしろ暇があるならば多少は休んだ方がよいぞ。働き過ぎは身体に毒じゃ」
「……その言葉はその厚化粧を落としてからいいなさい」
むっ、まさか吾の特殊メイク(笑)がバレるとは思わんかったぞ。さすがじゃな。
「まぁこれからは働き手も増えたことじゃし何とかなるじゃろ」
「……まさかとは思うけど、その働き手というのは私達のことを言っているのかしら?」
「愚問じゃな。頼りにしておるぞ——」
華琳ちゃん。