第百五十話
ホッホッホッホッ、今頃袁紹ざまぁは慌てておるじゃろうなぁ。
袁紹ざまぁ達は見事に騙されておったからのぉ。
そもそも、華琳ちゃんは最初から反袁術連合軍に参加などしておらん。確かに陣地には一度行ったぞ?ただし、同輩である袁紹ざまぁに文字通りの意味で挨拶に行っただけじゃがな。
では華琳ちゃんはどうしたのか……反袁術連合軍が結成されたと喧伝された時に吾からこちらに付かぬか使者を出したのじゃ。
結果は……目の前にある通り、華琳ちゃんはこちらに付いた。
「麗羽の下に付くつもりもないわ」
というのが語られた理由じゃ。
吾の下に付くのはいいのじゃろうか?とも思ったが、本当のところがどうなのかはサトリではない吾にはわからんがの。
ちなみに華琳ちゃんとの国境に貼り付けておった八万の豫州、揚州の軍はずっと屯田を行っておったので国境沿いは見事な田園風景となっており、その収穫を期待して商人が集まり、街ができたりもしておる。
ここでも吾の黄金律が見事に働いたようで、軍を動かして略奪も接収もしておらんというのに黒字になるという奇っ怪なことが起こったのじゃ。
おかげで兵糧に余裕ができたのじゃがな。
正直に言えば華琳ちゃんがもし本格的に反袁術連合軍に参加しておったら苦戦することは必至じゃったろう。しかし、後々のことを考えるとこの段階で潰して置く方が確実に楽であるのはわかっておる。じゃが、それはせぬ。
「では華琳ちゃんよ。見事、逆賊袁紹ざまぁを討ってみせよ!」
「ざまぁって……まぁいいわ。美羽の力を借りるのは癪だけど謹んで任務に当たらせてもらうわ」
吾等に足らぬのは武官である。
で、あるなら無駄に優秀な華琳ちゃん等を使って解決すればいいということじゃ。
吾から九万、華琳ちゃんは一万、合計十万の兵士を華琳ちゃんは率いることになる。
もちろん華琳ちゃんに直接預けると無駄に消耗させられてしまう可能性もあるゆえに紀霊、関羽、文聘、皇甫嵩、盧植を付けるが……おかげでまた仕事が増えるぞ……やっぱり止めておけばよかったじゃろうか?
それにしても一言多くないかの?せっかく吾がビシッ!と格好良く決めたと言うのに。
「あ、ついでに春ちゃんを征北将軍、秋ちゃんを冀州刺史に任命する」
「ついでにすることじゃないでしょ」
と華琳ちゃんが苦笑いし、後ろに控える春ちゃんは珍しく表情が固いのぉ。緊張しておるのか?それとも腹でも痛いのじゃろうか?秋ちゃんは……いつもどおりじゃな。
さて、今言ったことじゃが、春ちゃんの征北将軍に任命したのは吾の軍を率いる上で不便が生じるためであるが、秋ちゃんのそれは違う。
冀州刺史、今更説明するまでもないじゃろうが、刺史とは分かりやすくいえば現代日本の知事のような存在じゃ。
そのような地位を秋ちゃんに……夏侯淵に与えるということはつまり華琳ちゃんに冀州をくれてやるということに他ならない。
これはなかなかに愚策である。言い表すなら虎に翼を与えるが如し、じゃな。まぁ気にせんがの。
「春ちゃんもこれで立派な将軍様じゃな。励むのじゃぞ?」
「うむ、当然だ」
やはり少し固いのぉ……何があったのじゃ?と華琳ちゃんと秋ちゃんに視線を向ければ、華琳ちゃんはいつものふてぶてしい笑いではなく、可笑しいことを笑っているような表情を、秋ちゃんは姉者、可愛いモードに入っておる。
……秋ちゃんは割りと平常運転じゃな。
「春蘭は自分の知らない間に美羽が随分偉くなっていて同輩としては微妙な心境なのよ」
「か、華琳様?!」
あー、なるほど、それならば納得じゃな。
もし春ちゃんが吾のような立場になっておったらそれはもう目玉が飛び出るほど驚く自信がある。
春ちゃんとは結構仲良くしてもらっておったからのぉ。今思えば学ぶことに忙しく、時間が作れなかった華琳ちゃんより比較的暇であった春ちゃんと遊ぶことの方が多かった気がするのぉ。
ちなみに秋ちゃんはそんな吾等を眺めておることが多かったの。
「春ちゃん……春蘭、おぬしはそのように固まっておっては周りが暗くなる。そもそも深く考えることはおぬしに合わんじゃろ?」
「……うむ、そうだな。私がそのようなことを気にしても仕方ないな。袁術……いや、袁術様、この度は取り立てていただきありがとうございます。粉骨砕身励みます」
続いて秋蘭もありがとうございますと頭を下げる。
「お、おう、これからもよろしく頼むぞ?」
いや、春ちゃんも名門夏侯家の人間である以上、こういう場の礼儀作法を学んでいても不思議ではないのじゃが……日頃とのギャップに違和感を抱かずにはいられなかったのじゃ。
……ふっ、春ちゃんのことを言えた義理ではないな。
「さて、これで堅苦しいことは終わったの。宴の準備をさせておるから英気を養うがよかろう。もちろん吾も参加するぞ」
「また変わった料理はあるのかしら?」
「もちろん用意しておるぞ」
ボルシチ、トムヤムクン、タコライスなど用意してみたのじゃ。
まぁさすがに細かい材料はわからんかったので多少オリジナルではあるがな。
「ところでそちらにいるのは誰かしら?」
皆でどんちゃん騒ぎをしておる中、華琳ちゃんがある人物を見て呟いたので素直に答えてやったぞ。
「帝じゃな」
「「「ぶっ」」」