第百五十五話
何やら華琳ちゃんが吾を警戒しておるようじゃな。
おそらく華琳ちゃんは気づいておらんじゃろうが長い付き合いであるため、表情を隠していてもある程度の思っておることは読み取ることができるのじゃ。
まぁ読み取ることができても空気を読まぬがな!
「劉備軍は警戒もせず劉璋軍が退いた領土を制圧……また洗脳……大徳によって兵士を増やし、とうとう十六万にもなったか」
「いったい兵站をどうする気なのかしら、劉備にそのような余裕があるとはとても思えないのだけど」
「応急手当的に南蛮と詐欺同然の交易を行って食いつないでおるな」
「それだって限界があるでしょ」
「そうじゃな。このままじゃと……節制して一ヶ月といった所か」
「……最善でぎりぎりというところね」
ふむ、華琳ちゃんの見立てではそうなったか。
吾としてはぎりぎり間に合わぬと思っておるんじゃがな。
おそらくこの誤差は吾と華琳ちゃんの劉備の甘さの見積もり量の違いじゃろう。
「ただ、防衛にあたっている黄忠、厳顔の二人がどこまで忠を示すかによって大きく変わるのは間違いないわ。この二人が実質的柱だもの」
その通りじゃな。吾等が立てた予想はあくまでも徹底抗戦が前提の話しであってこの二人が折れれば何とかせき止めておったダムも決壊するじゃろう。
「これをあの二人は狙っていたわけね」
華琳ちゃんが言っておる二人とは諸葛亮、鳳統のことじゃな。
そして二人の狙いは占領後の統治をスムーズに行うための布石も兼ねておるわけじゃ。
将軍にして大領主でもある黄忠と厳顔は益州を統治する上では手助けとなろう。何より劉備軍には重さがある将が少ないからのぉ。唯一関羽がそれに当たったが、関羽は吾のところにおるからの。
そして黄忠も厳顔もその重さを持つ者、しかも内政に関しても期待できるとなれば喉から手が出るほど欲しい人材じゃろう。
魏延?知らない子じゃな。どこの脳筋さんじゃ?
「となれば心を折る手配もしてあるのかもしれんなぁー」
吾なら……黄忠の娘……名前は忘れてしもうたが……を人質にするがの。え?外道?一人の子供の命で何千何万の兵士と取り返すことができない時間を手にすることができるんじゃから問題ないじゃろ。それに原作の年齢制限的な意味であの娘も見た目ロリじゃが、中身は十八歳であることに疑いなし、つまり最低限の悪名は防げるのじゃ。証明終了なのじゃ。
「さて、益州は今のところこんな感じらしいの。次は華琳ちゃんの出番じゃな。準備はできておるか?」
「……それなんだけど、あの物資は何?正気なの?むしろ私を馬鹿にしているのかしら?」
「ん?何のことじゃ?」
今回は本当に心当たりがないぞ?……うん、改めて考えても本当にないのじゃ。
華琳ちゃん達が反袁術連合を討伐に必要な物資は全て吾持ちというのがそもそもの約束じゃ。もちろん約束を違えるつもりはなく、きっちり揃えたつもりなのじゃが…………あ、もしかすると——
「そうかそうか、あれでは物資が足りぬのか。そんなことなら早く言ってくれればすぐにでも用意するぞ。ちょっと待って——」
「待つのは貴方よ!!」
ぬお?!急に大声を出すでない、驚いたじゃろ。
「私が言いたかったことは!!あの量の物資を!!本気で!!持っていくつもり!!なのか!!ってことよ!!」
「いやいや、あれでも結構絞ったつもりじゃぞ?」
「……じゃあなんで兵食が一日三食計算なのよ」
「一日三食、吾の領内では当然じゃぞ?もっとも一食の量は減らすように注意を促しておるがの」
量をそのままに三食食べ続けるとさすがに肥満になりかねんからのぉ。何処かの島では肉食文化が入って島民のほとんどが肥満になったなんてことがあったぐらいじゃからな。
「阿呆なの?民ならともかく、そんな軍があるわけないでしょ!!」
「人間というのは規則正しい生活をすることこそ健康の秘訣——」
「一番規則正しくない人間の集まりのここでそんなことを言っても説得力無いわよ!!!」
おっとこれは一本取られたな、HAHAHAHAHA。
「それにあの弩の多さは何よ。あんな量必要ないでしょ」
「何を言っておる。誰でも扱え、一方的に攻撃ができる優れものじゃろ」
「弩と矢を運ぶ手間を考えなさい!」
確かに今回は民兵が多いため、盗難防止のために兵士に持たせず、まとめて輸送させる必要があるため、運ぶだけでかなりの労力となるじゃろう。
しかしじゃな——
「命とは亡くしたら戻ってこんのじゃぞ?そのぐらいのことどうにかせよ。それに命とは育つのに時が掛かる。その掛かる時は金や手間では買えんぞ」
「……じゃあそれは百歩譲ったとしてあの数の投石機や井闌なんて必要ないでしょ」
「ん?何を言っておる。吾はそんなに多く出したつもりはないぞ?」
「投石機五、井闌三百を多くないと言うのかしら?」
「…………ハァ、七乃のやつには困ったものじゃな」
「もしかして張勲が勝手に?」
そういうことじゃな。
おそらく魯粛も知らんじゃろうな。このような計画を狂わすような悪戯は見逃したりせんからの……逆に特に支障にならない程度の悪戯なら黙認、もしくは加担したりすることがあるがな。
「正しい量は追って知らせるので少し待ってほしいのじゃ」
「わかったわ。それと桂花が悲鳴を上げてたから声を掛けてあげてちょうだい」
「うむ、特別製の猫耳も付けるとしよう」
「あら、私にはなにもないのかしら?」
「ん、華琳ちゃんも何か欲しいのかや?なら蜂蜜を——あ、何処へゆく!!」