年末は忙しくてなかなか執筆する時間が確保できませんorz
年始も忙しいと思いますのでしばらくは文字数が少なくなります。ご了承下さい。
第百六十話
討伐軍の行軍速度は遅い。
普通の軍であればかなりゆっくりした速度でも三日程度で汜水関に到着するが、討伐軍は七日を費やした。
大軍であるからというのを差し引いても遅い、それの原因は輸送部隊、投石機……などではなく、曹操の意思によるものである。
早くこの軍で戦ってみたいという思いはあるが、それでもゆっくり進んでいるのは袁紹への、反袁術連合への精神的圧力を掛け、兵糧が切羽詰まっていることで不安にさせ、いよいよ決戦だという緊張感を長く維持させて士気低下と疲労感を誘う、そして袁紹を待たせて苛々させることなどを主とした策だ。
この動きで一番恩恵を受けたのは一日でも内乱が続いて欲しい劉備軍だ。
その劉備軍は時間がないため今まで以上に積極的に黄忠や厳顔に調略を仕掛けることとなる。
しかし、その焦りは黄忠達に伝えてしまう事となってしまう。
これが何も情報を得ていない状態ならばまだ気づかれていないかもしれないが、袁術達はご丁寧にも黄忠達に内乱の終了が間近であることを諸葛亮が情報を手に入れる前に伝えていたのだ。
なにせ、劉備軍の諜報員は半数以上が袁術が潜り込ませている二重諜報員であり、しかもその二重諜報員はほぼ北側に集中しているため情報の改竄やタイミングの調整などは袁術が主導権を握っているのだから劉璋軍に先に情報をリークすることぐらい朝飯前なのだ。
ただし、黄忠達もそろそろ限界を感じていた。
それは後方で暴れる孫策達が成都まで後少しという距離に近寄ってきていることや把握できている寝返る者達の数が既に戦いに勝ったとしても益州が維持できるか怪しい規模となっているからだ。
それらを考慮して出した黄忠達の結論は……決戦による決着、そして黄忠達が勝利した場合は益州より撤退、劉備達が勝利した場合黄忠達は降伏して成都までの道案内をするという密約がなされた。
ただ、この話で納得できない者達がいた。
孫策達である。
現在成都手前まで軍を進めている孫策達だが、それはあくまで成都手前で待機させられているだけであり、本当は成都まで手を伸ばすことが可能な状態なのだ。
それに待ったを掛けているのは何を隠そう諸葛亮孔明である。
孫策達の実力を諸葛亮は警戒していた。
自分達の主君である劉備とは違った魅力……武のカリスマというのは乱世の時代では人徳のそれよりも輝き、戦場では英雄を産み出す。
そんな孫策が州都である成都を落としたとなれば折角得た益州で王が二人……などという事になりかねないための処置が待機であった。
つまり、孫策達は信用されず、危険視されているのだ。
「まぁ分からなくもないけど歯痒いわね」
理解はできるが納得ができるわけがない孫策は苦虫を潰したような表情で呟く。
「ああ……しかし、諸葛亮は……いや、劉備は自分で行っている矛盾を気づいているのだろうか」
それに同意はしつつも涼しい顔を崩さないのは周瑜だ。
そもそも調子良くここまでくればこうなることをわかっていたため特に思うことはないのだ。何より南部の豪族達と利権調整を行ったり、起こるトラブルを解決したりとそんなことを思う暇はない。
ただし、袁術の下に居た頃よりもずっとずっと仕事量が少ないので疲労困憊などということはないのだが。
「確かに矛盾よねー。笑顔で過ごせる世かなにか知らないけど、そんなものは袁術ちゃんでも実現できそうよね。一番の近道は袁術ちゃんに降伏することよね」
「そのとおりだ。無用な乱世を招くようなことをしているのは私達なのだと自覚がないのだろうか」
「でも、それって自分達のこと棚に上げてない?」
「フッ、戦争がしたいがためにここに来た人間の言うことではないのは確かだな」
「……袁術ちゃん、勝てるかしらね」
「勝つさ」
周瑜は迷いなく答えると孫策は何やらいやらしい笑顔を浮かべ。
「チューリップとかいう珍しい花を貰っただけのことはあって袁術ちゃんを信頼しているのね」
「……しばらく酒抜きだ」
「ちょっと?!冗談よ冗談!ねぇ聞いてる?!」