第百七十三話
張任をサクッと暗殺した張松が迎撃軍の指揮を握ったことで成都での発言力を強めることになり、そして迎撃する予定が籠城に切り替えることとなったようじゃ。
……ぶっちゃけ劉璋の者達は阿呆じゃと思う。
張松が内応しておることを知らぬにしても成都に籠城って……どこから援軍が来ると思うておるんじゃ?
それに既に南は孫策が制圧され、東には着々と近づいてきておる劉備がおるということは西と北しか道はなく、西は異民族、北は漢中であるため増援も逃げ道もないのじゃから籠城など行ったところで何一つ解決せんことぐらいわかりそうなものじゃがなぁ。
どう考えても籠城に生きる道はない。
張松が言っておるのは籠城しておれば相手の兵站が崩れると言っておるが……それはいつの話じゃ。
成都以外をほぼ手中にした劉備達に兵糧の心配はない……が、まぁあながち間違いでもないか?占領地が増えれば増えるだけ兵士が増える劉備軍は兵糧が増えるペースより兵士が増える方が多く、兵糧を圧迫しておるのは事実じゃ。
しかし、既に大勢は決しているようなものじゃからいざとなれば集めた兵士を解散させることも可能で、既に一定の質以下の兵士の受け入れを制限しておる。
つまり、この問題はいつでも解消することができるということでもあるのじゃ。
そのあたりのことは裏切り者である張松は把握しているが、もちろん裏切っているのだからあえてそうしているのは明白、しかも、どうやら軍需物資の横流しまでしておるようじゃ……本当に気に入らんやつじゃのぉ。もっとも横流し先が裏商会じゃからなんとも言えんのじゃが。
「意図はわからんでもないがのぉ」
劉璋は良くも悪くも凡君であったため、褒めるところはなく、貶すところもないのじゃ。そういう人間は非常に厄介で、仕える相手としてはある意味好きにさせてもらえる、扱いやすい存在であるため、劉備よりも仕えやすいという面がある。
そうなると劉璋の家臣達は劉備を選ぶことに抵抗が生まれる可能性が高くなり、万が一取り込みが失敗した場合、文官が少ない劉備達にとってそれは致命傷となってしまう。
だからこそ今の段階で劉璋に悪評を付けてしまおうというなかなか下水、ゲスイ考えであるようじゃ。しかも、これ……諸葛亮が仕込んだことのようじゃ。
ただし、張任の暗殺は張松の独断であることが裏とりで判明した。まぁ諸葛亮がそのような行為をするとは思わんがの。
劉備は人徳で求心力を得ておるからそのような本当の意味で真っ黒な方法を用いることはできぬのじゃよ。
もし諸葛亮が暗殺などをしてしまえば、バレてしまった場合、劉備の人徳に影を落とすことになる。それを払拭するには諸葛亮を追放、もしくは処刑しなければならない。
うーむ、やはり正義(爆)を貫くのは難しいのぉ。取れる手段が限られてしまう。と言うか諸葛亮はその領域に踏み込む覚悟が足りないように見える。
君主のためなら汚れ仕事すら厭わない。それが君主の頭脳たる軍師のあり方じゃろうに。
それがわかっておるのか、その役割を担おうと頑張る鳳統……魔女っ子萌え〜。
「さて、華琳ちゃんの方はどうじゃ」
「討伐に関しては予定通りですねー。袁紹さんのところは曹操さん、公孫賛さん、劉虞さんにおまかせして、他の領主を私達が担当することになりました」
よしよし、袁紹ざまぁを逃したかいがあったというものじゃ。
袁紹ざまぁをあのタイミングで討ってしまえば、冀州におるいらぬ粗大ごみ(役立たずな袁一族)が勝手にこちらへ流れてくる可能性があったからのぉ。袁紹ざまぁが生きておる限り体裁を気にしてこちらに流れてくることはしばらくないじゃろうからその間に処分するとしよう。
吾のところに流れ着いた時でも処分はできなくはないが、やはり悪評は少しでも少ない方がいいからのぉ。
ちなみに、袁紹ざまぁや顔良達にはそれ相応の報酬を用意しておる。
一応袁紹ざまぁ達も吾の幼馴染で、小さい頃から遊ぶ玩具代わりになってもらったこともあるからそれなりに情もあるから表向き死んだことにして田舎に引っ込んでもらうことを条件に少数の側近達と共に命を助けることが報酬じゃ。
もちろん独力で華琳ちゃんに勝ち、その後吾にも勝てたなら契約は無効じゃが、連合で負けたことは致命的で、なかなか兵士が集まらない現状ではどうしようもなかろうがな。
そもそも軍需物資が枯渇しておるし……おお、吾が流せばいいのか。
「さすがお嬢様!人の裏切りには容赦ないのにご自分の行いには甘々です!」
「うむうむ、例え敵同士になったとはいえ一族の者には多少支援してやらねばな!」
ほれ、何処かの軍神さんは敵の虎に塩を送ったなんて話があったぐらいじゃから問題なかろう。まぁ千年以上先の話じゃがな!
ちなみに吾が思うに虎を腎不全に追い込むために塩を送ったのではないかと睨んでおる。(迷推理)