第百七十七話
孫策達に一応祝いの品を贈っておいたのじゃ。
つまり、孫策は吾から、漢王朝から正式に長沙と武陵の二郡の太守として認められたことになる。
相対的に劉備は『公式的』には南荊州の南側の零陵と桂陽の二郡の太守と格下げになった。
だって益州は劉備や北郷に任せるなんて一言も言っとらんからのぉ。実効支配しておるだけでの。
そもそも益州を攻めること自体も黙認しただけであって承認しておらんし、するつもりもない。
劉備達が益州を治めるための大義名分はまったくなく、やっておることは事実上黄巾賊と変わらん。むしろ、生活に苦しんで決起した黄巾賊の方が大義名分が立つな。
「ところで債権はどうなってますー?あれって領地名義でしたっけ?それとも個人名義でしたっけ?」
「そういえばどうなるんじゃろうな。ちょっと確認してみるか」
と、確認するのに三日要したのじゃ。
契約書だけで万を超え、整理もしてあるんじゃがあまりに膨大で探すのに時間がかかったのじゃ。そもそも探すのに割ける人員と時間が少なかったのもあるがの。
「ふむ、名義的には……両方あるのぉ。となると孫策は最初から借金まみれで始めなくてはならんのか……南無南無」
逆に言えば劉備は借金から半分は逃げ出せたが、半分はそのままということになるがの。
ちなみに半分というのは言葉の綾で、実際はかなり劉備の方が割合は多いぞ。なにせ益州攻略に使った物資は全て劉備の借金になっておるからな。
だって、益州攻略は元々が負債を減らすための策、逆に言えば南荊州四郡の太守として借りられる金額は既に限界に達した状態であったから攻略に乗り出したとも言えるわけなんじゃが、戦争するにも金が掛かるじゃろ?でも太守として借りるのは無理……となると劉備自身の名義で借金するしかないわけじゃ。
ちなみに劉備だけではなく、諸葛亮、鳳統、張飛、趙雲など劉備勢の主要メンバーの名義は全て揃っておるぞ。
……あ、そういえば益州攻略に協力した豪族達への借金もあるのぉ。武陵にも長沙にも。
まさかとは思うが、その借金を孫策達に押し付ける気ではないじゃろうな?……ありそうで頭が痛いのじゃ。
「あ、周瑜さんがご実家に融資を求めたそうですよ」
はい、と七乃がこちらに手渡してきた報告書には確かにそう書かれておった。
やはり借金地獄の現状ではどうにもならんよなぁ。しかも、現在進行系で諸葛亮達が立てた計画に沿って進んでおるからマンパワーは既に割り振られておる……つまり新たに何かすることも、改善することもできないのじゃ。
まぁ政策ですぐに税収を増やすなどというのはまず不可能じゃがな。なにせ本来国というものは治安維持(自国を守る、治安を守る、そして利権を守るキリッ)ことが祖となっておる以上は軍備を整えるのが必須なわけで、この時代だと特に顕著じゃな。
それに税収も所得税などではなく、人頭税や労役、関税など変動しづらいものばかりであることも一要因となる。
だからこそ吾は商会を作って資金を作っておるわけじゃ。決して蜂蜜を手に入れるためだけに作ったわけではないぞ?
という事情もあって、何らかの手を打たなければいけない周瑜が辿り着いた答えが実家に助力を乞うことだったわけじゃな。
「なんとも哀れな話じゃ。吾のところで正社員として働いておればあの程度の借金なら三、四年で返せるものを」
「それと引き換えに睡眠時間と自由時間と精神がガリガリ削られますけどねー」
どちらが良いかは人それぞれじゃな。
少なくとも吾なら、全ての職を捨てて蜂蜜片手に田舎でスローライフを楽しみたいのじゃ……なんか最近流行りのラノベタイトルみたいじゃな。
ちなみに正社員ではなく、アルバイトで昇給を計算しなければ十五年ぐらいで返済できるかのぉ。役職にもよるが危険手当などを考慮するともう少し早まりそうじゃが。
……改めて考えると仮にも田舎とは言え、二郡の負債を一人の労働で返済できるっておかしくないかや?
すっっっっっごい今更ではあるがとてつもなくやばいような気がするのじゃ。主に各地の事業破綻と一斉蜂起的な意味で。
「大丈夫ですよー。私達が金をばら撒いているのを止めない限りは問題ありません。それに……蜂起なんてできるほどの余裕なんて付けさせなければいいんですよー。具体的には売る食糧の量を生活ができる程度に押さえていれば問題なしです!」
さらっと外道のようなことをいう七乃じゃが、まぁ確かにそれなら蜂起なんて起こらん——
「なわけなかろう!どうせ腐った上役がその余裕を奪って民が貧困するのは目に見えておるわ!」
「言われてみればそうですねー」
白々しいのぉ。七乃は絶対気づいておったじゃろ。
吾の直轄となっておる南陽と北荊州は不正は少なくなった(やる暇がない)が、代理を立てておる揚州や未だに魑魅魍魎が巣食う司隷ではまだまだ不正は多いからのぉ。その都度それなりに罰しておるが、全てを排除することは難しいのじゃよ。
袁家という名家一つを敵に回して反袁術連合などというものが生まれるぐらいじゃから司隷に巣食う魑魅魍魎を全て同時に敵に回すとどうなるかなど考えたくもないわ。
揚州は地方豪族があまりにも(数も馬鹿も)多すぎて管理がめっちゃ面倒なのじゃよ。代理してる袁遺がストレスで発狂しかねないと報告が上がっておる。よかった。直轄地ではなくて。
ああ、そういえば涼州も一応こちら側であったか、あちらは特に問題は起こっておらんようじゃ。
董卓も賈駆も優秀なようで何よりじゃな。少し援助してやろう。ついでに賈駆が忙しくても寂しくないように董卓の(淫れた)絵画も付けておくかの。
それはおいておくとして——
「もっと金を消費せねば……特に地方で」
「商会券を発行してるので大丈夫じゃないですか?」
「巡り巡って吾のところに集まっておることを知っておるじゃろ!」
……なんか黄金律というより周りの金運を吸収しておるような気がするのじゃ。