第百八十三話
眩しいお猫信者じゃったが……なんかボロ布のようになっておる件について。
実は話を聞いた紀霊が、舐めたこと吐かしたらしいな?なら手加減しないぞ的な空気を発しておったから嫌な予感はしておったんじゃ。しておったんじゃから口添えそればよかったと後悔しておる。
今の周泰では例えお猫様が通ったとして——「お猫様?!ご機嫌麗しゅうです!」——意外と大丈夫なようじゃ。
と思うておったら周泰の回復薬として前もって紀霊がお猫様を確保しておいたようじゃ。随分とタイミングが良いな、とは思っておったが……つまり、お猫様狂信者である周泰がお猫様に挨拶しないという背信行為が成されるまでこの訓練はやめることはないということじゃ。スパルタ過ぎるじゃろ。
休暇のためにも董卓のところにもお願いしておかねばならんの……呂布との鍛錬が休憩になるかどうかは微妙(ならない)じゃが、道中は休憩になるじゃろ。多分。
「いやー健気じゃのぉ。おぬしにはどう見える?」
「……」
「なんじゃ?別に何を言っても怒りはせんぞ?馬岱は約束通りの活躍を見せたからの。おぬしら、馬超と馬騰の命は助けると確定しておるからの」
怒りはせんが不敬罪で処罰するかもしれんがな。
「あたし達はどうなるんだ」
「だから命は助けると言っておるじゃろ?」
「命『は』助かるかもしれない。逆に言えば命『しか』保証されてないじゃないか!」
おや、脳筋の割には随分と頭を使ったことを言っておるの。
「馬騰の入れ知恵か?いや、馬岱が去る前に伝えておいたことかのぉ?」
「……あ、あたしが考え——」
「後で嘘だとわかったら五時間耐久くすぐりの刑じゃ」
「母上から聞いた」
いらん見栄を張ろうとするでないわ。
「まぁ馬騰は緩い幽閉で残りの人生を過ごしてもらうことになるじゃろうな。さすがに無罪などにはできんからの」
「……ッ!」
いや、そんなに悔しそうな表情されても吾、困るんじゃが……おぬし等、反逆者じゃぞ?しかも吾、謝られてもおらんし、首謀者逃しておるんじゃから十分甘い裁定だと思うぞ?
「馬超は……どうしたいのじゃ?」
「え、あたしの要望、聞いてくれるのか」
「うむ」
まぁ本当に聞くだけじゃがな。
しばらくは周泰の特訓相手をしてもらう予定じゃが、その後は……うーん、正直自分の意思で配下になってもらわねばあまり使い勝手がよろしくないんじゃよなぁ。
「あたしは……あっちこっち見て回りたい。今回はあたし達の迂闊な——「愚かも入れておくのじゃ」——お、愚かな行動で迷惑を掛けたから、その……もう少し世の中を知っておかなくちゃいけないかな、って……」
ふむ、反省はしておるようじゃな。もっとも反逆したことに対してではなく、自分達が窮地に陥った、一族を滅ぼしかけたことに対しての反省のようじゃがな。
この世界のこやつら、蛮族過ぎやせんか?
しかし……ふむ見識を広げるために旅に出すのは良いかも知れんな。
武官が増えぬのは難点ではあるが、それは現状と変わらぬだけで悪化するわけではない。
旅に出すとは言うても完全な自由の旅ではなく、商会の輸送の護衛や郵便配達などを任せるのも良いかもしれんな。馬超の馬術は見事なものであるし、何より、世情を見ることで吾の偉大さを知ることになるじゃろうからそれで心変わりする可能性もある。
……案外いいかもしれんな。
「当面は周泰の特訓に付き合ってもらうが戦が終われば商会の臨時社員として旅をできるように手配しておいてやろう。もちろん敵対行動はできんように見張りは付くが、大体は自由にしてよいぞ。ただし、益州と涼州の立ち入りは禁止じゃ」
「涼州はわかるけど、なんで益州まで……」
「あそこには今北郷と姜維がおる。万が一情にほだされて協力したら吾がまとめて処分するためにそう仕向けたように見えるかもしれんからな。こんな吾じゃが約束は守るんじゃぞ?」
「そ、そうか……」
「それにオカルト宗教劉備教が流行っておるからあちらには行かん方が身のためじゃ」
「おかると?」