第百八十六話
「予想通り曹操さんが勝ちましたねぇ」
「あれだけの物資を都合しておいて負けたでは華琳ちゃんの能力を疑うわ!まぁ袁紹ざまぁは良くやったとは思うがの」
典韋による背後からの本陣への奇襲が成功したことで袁紹ざまぁ軍は応急処置的な対応で何とか凌ぐ……かに見えたが本陣の対応は上手くいったが、それまで対応しておった春ちゃんの突撃への対応に失敗して陣深く切り込まれ、更に袁紹ざまぁ軍の統率が崩れたと察した秋ちゃんまでもが突撃したことで戦線崩壊して散り散りとなり、袁紹ざまぁは敗北という流れじゃな。
そして自領で負けたというのは豪族達にとっては遠征先で負けたことよりも重く受け止められ、離反が相次ぎ、三度目の戦いを行わずして袁紹ざまぁの戦国時代は修了ということになった。
「袁紹ざまぁは無事かのぉ」
「連絡来ませんねー。袁紹さんの豪運を考えれば野垂れ死ぬなんてことはないと思うんですけど」
うむ、袁紹ざまぁは吾と互角に博打が行える唯一の存在じゃからな。
ちなみに袁紹ざまぁと吾は少し運の性質が違うようなのじゃ。ちゃんとデータを取ったわけではないが、吾は自分が欲するものを引き当てることが多いのに対して袁紹ざまぁはとりあえず良い結果を引き当てることが多い。
実はこの運の影響は荀彧にも出ておると思う。最初袁紹ざまぁに仕えておった荀彧じゃが出奔して華琳ちゃんに仕えることとなった。
これは袁紹ざまぁの運が荀彧を手放すように仕向けたのではないかと睨んでおる。
なぜならおそらく荀彧がそのまま仕えておったら袁紹ざまぁの側近達と不和が起こって内部分裂してしまったと思うんじゃ。
荀彧は独占欲が強いからのぉ。華琳ちゃんの周りのように有能なライバルなら認める余地はあるじゃろうが、袁紹ざまぁの周りに荀彧が認められるほどの有能なのは田豊と沮授の二人であろうが……あやつら、男なんじゃよなー。
そして猫耳の生みの親である吾の下に仕官しに来なかったのは華琳ちゃんの方が魅力的だということもあるじゃろうが、吾はあやつを必要とはしておらんかったからじゃろう。
なにせ吾は男じゃからな。日頃から隠しておるとはいえ、荀彧ぐらいアグレッシブならばいつかバレてしまう可能性が高く、それをきっかけに出奔、そして荀彧の能力ありきで好き勝手やった結果(書類の束)で過労死、という流れになる可能性が高いじゃろう。
そう考えると吾の周りには都合が良い人材で揃っておるのぉ。
特に……
「なんですか?そんなに私を見つめて……まさかとうとう私の魅力に気づいて——」
「何を言っておる七乃の魅力は最初から知っておるよ」
「……さすがにそれほど直球だと照れますよー」
と珍しく顔を赤らめて本当に照れておる七乃を見ると和む。
たまたま拾った女子が七乃であったことがおそらく吾の人生の中で一番の幸運じゃ。
間違いなく、吾の忠臣とは七乃である。例え悪戯をしたり吾を困らせて楽しんでおる一面があってもそれは揺るがぬ。
そして袁紹ざまぁの豪運は、確かに凡百の将などより優れた武を有しておるが全体からみれば飛び抜けて優れておるというわけではない顔良と文醜を側近としておいておる。
それはおそらくあの二人が袁紹ざまぁを生き残らせるために必要な人材であると豪運が連れてきたのではないかと思っておる。
まぁ所詮運などという曖昧なものであるから確実、というわけではないがの。
何にしても袁紹ざまぁの戦死の報が入ってきておらんから無事じゃろうがな。
「さて、袁紹ざまぁに関しては報を待つとして、華琳ちゃんは順調なようじゃな」
「ですねー。私達の政策を自分達なりの規模で真似ているあたりが気に入りませんけど」
「まぁ圧倒的に資金力に差があるから無理はできんようじゃがな」
中華一の穀倉地帯である冀州を手に入れた華琳ちゃんではあるが、袁紹ざまぁが反袁術連合、此度の戦で無理をしておったせいで国庫に空に等しい……まぁ吾等が絞り取ったんじゃがな。
一応……本当に一応華琳ちゃん(正確には夏侯淵)は正式に冀州牧に就任しておるから漢王朝的にも見過ごすわけには行かず、ささやかな就任祝いとして資金援助をした。
使者が言うには華琳ちゃんは苦虫を噛み潰したような表情をしておったらしい。そのプライドの高さはそのうち足を掬うことになりそうじゃがな。
「その差は人の才で埋めようとしているようですけどね。程昱さん達が合流すれば更に栄えることになるでしょう」
まぁ栄ることは悪いことではないじゃろ。
栄えれば栄えるほど経済は活性化され、結果的に吾が一番恵まれそうじゃからな。