第百九十一話
「畳〜♪畳〜♪貴方の心を折り畳たい〜♪」
「お嬢様はごきげんですね。これがそんなに気に入ったんですか?」
「うむ!」
転生してもう十数年経つが、やはり前世の故郷を完全に忘れ去るなど不可能じゃ。少しぐらいホームシックに……ワールドシック?になっても仕方なかろう。
本来なら古代中国とはいえ、日本人と同じモンゴロイドであるはずじゃが、この世界では髪の毛が緑だったり青だったり黄色だったりするから余計に寂しくなるんじゃよ。黒髪なんてほとんどおらんぞ。
和食もあくまで吾が広めたものであって本当の意味での和食とはレベルが違うからのぉ。
「だからと言って畳の上に布団を敷いて寝るのはどうかと思います」
カルチャーショック、と言っていいのかはわからんが孫権的には畳の上に布団はNGなようじゃ。
まぁ上流階級では豪華な天蓋付きベッドが標準じゃからの。昔はともかく、今となっては七乃や魯粛、孫権なんぞもそれじゃからな。主である吾が地べたで寝ておったら思うところもあるじゃろう。
ちなみに紀霊は常在戦場を掲げておるからベッドで寝る習慣はなく、座って寝ておることがほとんどじゃ……常在戦場を常とする使用人とはこれ如何に……今更じゃがな。
馬の流行り病に関してじゃが、治療に進展が見られたのじゃ。
五斗米道が完璧に治すわけはないが、病状を軽くする薬を発明したらしい。
今は副作用がないか、薬の効果は一時的に緩和するものなのか治療するのもなのかなど細かい検証を行っておるそうじゃ。
思ったよりちゃんとした研究をしておるようじゃな。てっきり闘魂(気)注入だけが取り柄だと思っておったが薬学もちゃんと使っておったんじゃなぁ。
それに未だに馬の死亡も無理をさせて使っておったところ、ふらついて運悪く崖から落ちたなど事故の範囲から出ぬものばかりであるしの。
「畳のことはともかくとして……思ったより簡単に手に入ったのぉ。徐州」
「そうですね。まさかこんな簡単に終わるとは思いませんでした」
「そうですかー?お嬢様ならこれぐらいちょちょいのちょいですよ。それに加えて天子様がこちらにいる段階で負けることなんてありえませんし」
金が有り余って仕方なかった吾が目をつけたのは徐州牧であった。
正直に言うとこれ以上領地を増やしても仕事が増えるだけなんでいらぬのじゃが、華琳ちゃんと戦うことを仮定すると黄巾の乱の被害を受けなかったことで元々富んでおった徐州は相対的に更に富んでおるため、陶謙に任せておくのはかなりの不安であった。
であるから金と権力の象徴である職(頭に名誉が付く)を用意すると言ってやったらホイホイと釣れてしもうたのじゃ。
どうやら徐州が富んではおっても中央から離れておることに対する不満や自身が高齢になってきたことで職務を全うできるか不安などのもあったようじゃ。
もっとも一番の不安はあまりにも富み過ぎたために自分達より協力な商人……まぁ察しの通り商会じゃが……が現れたことで流通が激しくなり、世の流れが早くなったことに対するものであったようじゃがな。
「あのような凡夫にあれほどの金額を与えなくてもよろしかったのでは?」
どうやら孫権は陶謙のことを嫌っておるようじゃ。
確かに不良役人みたいなやつではあるが、要は使いようじゃぞ?それに分かりやすいしのぉ。
「金で解決できるならそれが良いのじゃよ。それにこういう名言があるぞ。金持ち喧嘩せず、とな」
「一体誰ですか、そんなろくでもないこと言ったのは」
いや、吾も知らんのじゃがな。というか名言というより諺……になんじゃろうか?そういえば自然と知ったので何に分類するのかまでは知らんな。
「私、来ましたわ!!」
「遅いわ。たわけ!!」
「すみませんすみません」
「あたいはすぐに来ようとしたんだ!本当だ!だから師匠、剣を納めて?!」
眼の前におるのは最新型負け犬である袁紹ざまぁ、顔良、文醜、田豊、沮授という吾と顔見知りな者達である。
ぬ?なんじゃ紀霊……この者達の曲がった根性を叩き直して来る?まぁほどほどにの。
「え、ちょっ」
「いや〜!麗羽様助けてください〜!」
「ちょっと紀霊さ——「なんじゃ、袁紹ざまぁも混ざりたいのかや?」——斗詩さん、猪々子さん、頑張ってらっしゃい……というか今、変な敬称で呼ばれた気が?」
「気のせいじゃろ」
それにしても文醜は元気そうじゃな。関羽にボコボコにしたと報告を聞いておったからてっきりまだ後遺症があるかと思ったがその様子もないの。
あれじゃろうか、あやつらはどちらかというとギャグ担当みたいなもんじゃからギャグ補正でもあるんじゃろうか?
もしそうなら吾や七乃も似たような補正があるかもしれんの。
「さて、袁紹ざまぁのこれから——「その敬称はなんですの!」——袁紹、ぶざまぁの略じゃ気にするでない」
「おちびさんの分際で喧嘩売ってますの?!」
「めっちゃブーメランじゃろ」
「意味がわかりませんわ!」