第百九十二話
「さて、前置きは無しじゃ。袁紹ざまぁの処遇を決めようと思う」
「その蔑称を止める気はありませんのね」
「言わぬと約束するのは簡単じゃが日頃から言っておるから絶対うっかり言ってしまうからの。できぬ約束は最初からせん方が利口じゃぞ」
「いつも私のことをそのような呼び方をしてましたの?!」
「当たり前じゃろ、JK」
「意味がわかりませんわ!!」
と言うか話が進まんから少しは黙っといてくれんかの。
……それと、孫権さん、なぜそんなに殺気立っておるんじゃ?これこれ、手を剣の柄から外さぬか。
最近、孫権さんが暴力的で困るのじゃ。いや、日常的にそういうわけではないが、吾を馬鹿にするような言動をする者に厳しい態度を示すようになったのじゃ。
うーむ、それだけ好かれておるのか、それとも権力を手に入れて変わってきたのか……まさか史実の晩年の耄碌が前倒しになったとかだったらどうしよう。
「さて、文醜を通して伝えた通り、おぬし達の命を取るつもりはないぞ。約定通り、田舎に引っ込んでもらってのんびり過ごすと良いぞ。別に吾の仕事を手伝うならここに残っても良いが……」
正直、おすすめはせんな。
自業自得な部分が大半である以上、吾が言えた義理ではないのじゃが、こんなブラック企業に務めるぐらいなら質素でも田舎暮らしをしておる方が良いと思うぞ。
「おちびさんに扱き使われるなんてまっぴらごめんですわ!」
「うむ、吾もその方はいいと思っておったのじゃ」
そもそもダブル袁家豪運コンボなんぞ成立させたら中華の経済がどうなるかわかったものではないからのぉ。下手したら流通貨幣が吾等で独占……などということになりかねん。
まぁ吾と違って袁紹ざまぁは名家らしく、贅沢な生活に慣れておるからある程度は大丈夫じゃろうがな。
吾の贅沢なんて蜂蜜ぐらいしかないからのぉ。その蜂蜜も吾という大口がおるためか知らんが流通量が増えて安くなってきておるぐらいじゃからなぁ。
おかげで蜂蜜を使った高級菓子が流行っておるから問題ないが……流行物であるため廃れた時はどうなるやら。
「それでの、帝に刃を向けた大罪人で負け犬な袁紹ざまぁには寛大な心を持つ吾が厳選して選んでやったのじゃから感謝するが良いぞ」
「さすがお嬢様!相手の神経を逆なでしつつ、事実を突きつけ、流れるような自画自賛は傲慢の極みです!さすがお嬢様!略してさすじょです!」
「そうじゃろうそうじゃろう」
「お、おほほ、ほほ、ほ」
「落ち着いて麗羽様」
「今は耐える時だ……まぁキレたとしても袁術のことだから気にはしないだろうけど」
「沮授!抑える気があるならいらないこといわない!」
田豊と沮授も苦労するのぉ。主に吾のせいじゃがな。
「袁紹ざまぁ達には南中で過ごしてもらう」
「南中……何処ですの?」
「以前小耳に挟んだような……」
「確か益州の南側だったかと記憶していますが」
ほほう、さすが田豊、博識じゃな。
「うむ、多くの(南蛮)民族が混在する地らしいぞ。田舎とは言うてもそれなりに栄えておる場所じゃから暇はせんと思うぞ」
「あら、おちびさんにしてはいい場所を選んだようですわね」
まぁ、延々と増える猫耳族がおったりするがの。
南中というのは三国志や恋姫で言うところの南蛮、つまり孟獲がおる場所に当たる。
「田豊には太守を、沮授はその補佐を任命しておくので頑張ってたも」
「ええぇ?!」
「もう政は懲り懲りなんだけど」
「……おちびさん何か悪いものでも食べましたの?」
ふっふっふ、これは袁術の罠じゃよ。
南中というのは益州の収入源である南側経由のシルクロードと南東(ベトナムあたり)からサンゴや海産物を手に入れるための要衝の地なのじゃ。
つまり、劉備達への嫌がらせの一環ということじゃな。