第百九十三話
「さて、袁紹ざまぁ達の葬式……ゲフン、送別会を開催するのじゃ!かんぱーーい!」
「「「かんぱーーい」」」
「「「ちょっとお待ちなさい!(待ってください!)」」」
「ムハー、やはり厳選した蜂蜜で作った蜂蜜酒は美味じゃな!」
何やらキンキン声が聞こえておるような気がするが飛行機でも飛んでおるのか?……おお、この時代に飛行機なんぞあるわけがないか。早くも酔ってしもうたかのぉ。
……まぁマジレスすると葬式だと思うべきじゃぞ。これからの人生は袁紹であって袁紹ではない、顔良であって顔良ではない、文醜であって文醜ではない、今までの自分は死んだと思うぐらいの気構えでおらねば、また吾の敵となり、その時は——
「容赦はせんぞ」
「「っ?!」」
(な、何なんですの。この得体の知れない感覚は?!あの華琳さんの眩しさとは違いますの!!)
(こ、こわ)
(袁術様の目が、目が——?!)
おっと、吾は可愛い美羽ちゃんじゃ。このような本気は似つかわしくない。蜂蜜蜂蜜……うーん、ウマ!
「しかし、わかっておるじゃろ。今回のおぬしらの裁定はかなり吾の私情が入っておることぐらい」
「そう、ですわね」
反袁術連合に加担しておった他の者達は兵士はともかく、統率者は早々に投降したもの以外はほぼ全員引き回しの末、打首、勧告に従わなかった者達の一族も三等親も同じように処罰しておる。
吾にとっても縁者である袁家は温情で統率階級の者達のみ打首ということになっておるにも関わらず、主犯である袁紹ざまぁは命が助かるどころか追放に等しくもある種の自由のままなのじゃ。
「万が一処刑された者達の縁者に知られれでもしたら殺されるかもしれんぞ」
「……その時は、その時ですわ」
ほう、その程度の覚悟はできておる、と……しかしまだ甘い気がするのぉ。
「それはおぬし自身が殺されることしか覚悟しておらんのではないか?恨みというのは枠が曖昧なことが多いぞ。復讐者はおぬしだけではなく、顔良や文醜なども狙うことじゃろう」
「……」
口を歪め、台の下でギュッと拳を作るのが見て取れる。
可能性は考えておったようじゃな。しかし改めて他の者に言われて動揺しておると言ったところか。
「そもそも殺されるだけではなく、女としての尊厳も奪われる可能性も考慮しておくべきじゃな。まぁ、これは吾の忠告じゃから別に聞き流してもらっても構わんぞ」
ほぼ兄妹同然に育てられた義理は命を助けたことで果たせたじゃろう。
であるからこれ以上は吾の親切心と策略のための忠告でしかないわけじゃ。
「わかりましたわ。袁術さんのご忠告、胸にしまっておきますわ……ところで……」
「なんじゃ?」
「さすがの私も厚かましいとは重々承知ですけど……以前から疑問だったのですけど、なぜ私に真名を預けてくれないんですの?華琳さんとは交換しているのでしょう?!」
今、袁紹ざまぁの台詞と共にシューという鞘から剣が抜かれる音が少し聞こえたと思うとカチンッという納刀時に鳴る音が耳に入った。
聞こえた方を見るとそこには……孫権さんが柄を握って、今にも斬りかからんという表情を浮かべ、紀霊がそれを取り押さえておる姿が見える。
本当に最近、孫権さんが暴力的になってきておるな。そんなに好かれておるわけではないと思うのじゃが……もしかすると孫権も真名を預けて欲しかったりするんじゃろうか?……まさかそんなわけないか。ただ仕事に疲れておるだけじゃな。
ちなみにこの宴会で武器の携帯を許されておるのは紀霊と孫権のみである。あ、一応吾も蜂蜜の壷は装備しておるか。
「いやー、本当に厚かましいのぉ。それに真名を預けるのに値すると思っておるとは……おぬし、自身を高く評価しすぎじゃろ」
「なんですってー!!」
吾の真名は結構貴重じゃぞ。なにせ、知っておるのが袁隗ばあちゃんと七乃と紀霊と魯粛と華琳ちゃんと春秋ぐらいしかおらんからな。他の親戚類にも教えておらん。
これでも一応慣習を重んじておるからの。
「まぁそういうところは嫌いではないがの」
「その前の発言が全てを台無しにしてますわよ!」
ちなみに顔良達は真名の話に入ったあたりで吾等の話を聞かない、聞こえないフリをして食事と近くにおる者達との会話に集中しておる。
こういう席で偉い方の話を盗み聞きしてもあまり良いことはないからのぉ。本来なら話を聞いて情報収集に徹しておくべきじゃろうが……吾と袁紹ざまぁの会話を聞いてもあまり身がない話が多いからのぉ。