第百九十四話
宴会は思わぬ終わり方になってしもうた。
剣では駄目だが拳でなら、という紀霊の許可を得て袁紹ざまぁに殴り掛かるという暴挙に出たのじゃ。このようなことを紀霊が許すとは……どうやら紀霊も袁紹ざまぁの態度に思うところがあったようじゃな。
そして吾が負傷してからというもの、武に更に力を入れるようになった孫権に袁紹ざまぁが敵うはずもなく、見事な一撃を喰らって意識を失うこととなる。
そのような自体になって黙っていないのは袁紹ざまぁの相棒である顔良と文醜じゃ。二人は直ぐに動いたのじゃ。
顔良は袁紹ざまぁに駆け寄って様態を確認、文醜は暴行した孫権に殴り掛かったりと色々大変だったのじゃ。
ちなみに袁紹ざまぁは完全にのびておったがたんこぶができた程度の怪我で済んだようじゃ。もうちょっと重傷でも良かったがの。
むしろどちらかというと孫権と文醜の方が酷い怪我をしておるぞ。全身アザだらけじゃ。幸い骨などに異常はないようで安心したのじゃ。孫権に仕事を休まれるとあっちこっちに支障を来たすからの。
喧嘩自体は別に問題ない……というか止めようとした紀霊を止めたのは吾じゃしな。
反袁術連合の盟主である袁紹ざまぁをただただ田舎に引っ込ませるだけでは納得できぬ者もおるようじゃし(主に孫権、紀霊、魯粛)多少痛い目にあって貰ってストレス発散させるのもよかろう。
しかし、改めて思い出してみると恋姫の孫権の戦闘能力というのは如何程なんじゃろう。確か剣は抜いておる立ち絵はあったが誰か名のある将と戦ったという話はなかったはず。
戦闘馬鹿こと孫策よりは弱いのはわかっておるし、甘寧に戦闘の師事を受けておったことから甘寧よりは弱いことはわかるのじゃが、顔良、文醜という微妙な将(恋姫基準)とどちらが強かったんじゃろ。
今の孫権は武に力を入れておるが、吾のところで政に力を入れておるし甘寧の師事も受けておらん関係で原作よりも弱いのではないかと思うんじゃが……もう少し鍛えさせる方が良いのじゃろうか?しかし明らかに政の方が向いておると思うがの。
その後は「さすが江東の虎の娘だな!」と気にしていなかった(君主を殴った相手にそれでいいのかは置いておく)ようじゃが、孫権は自己嫌悪に陥っておるようじゃ。
「まさか私まで姉様のように……」
己の中に眠るバトルジャンキーの片鱗を垣間見て、思い悩んでおるみたいじゃが、戦闘行為そのものに喜びを肝心限りは別に良いと思うぞ。
喧嘩の最中も別に楽しそうにしておったわけでもなかったしの。
とはいえ、戦場などより政の方が暴力に訴えたくなることが多々あるが、実際に暴力を奮えば基本負けであることが多いので、感情のコントロールの訓練はある程度しておくべきじゃろうな。
ちなみに吾は感情のコントロールはばっちりじゃぞ。傲岸不遜的な意味で。
もっともそれらを教えるのはまだ少し後のことじゃ。今は魯粛の方針で孫権自身に反省させるという意味で何も教えぬことになっておる。
そのようなことがあったが、他には特に問題なく、新天地に向かって袁紹ざまぁ達は旅立っていったのじゃ。
荊州を通って交州経由で南中へと向かう予定になっておる。吾の縁者ということで南荊州の孫策が少し心配ではあるが益州は劉備以前に道からして危険じゃからのぉ。今の所無難に太守をしておる孫策達が自分達から安定を崩しに来るとは思わんからこちらのルートの方が安全……なはずじゃ。
交州の士燮は既にこちらの支配下である……が、交州はこの国の端じゃから現地からの情報はタイムラグが酷いからのぉ。これでも商会、裏商会で情報網を構築して少しはマシになったが、下手をすると反乱や独立運動などがあっても年単位で気づかないこともありそうじゃ。
ちなみに本当は長江から海へと出て南に下る方法もあったんじゃが、これからの生活を考えれば楽をさせるのは本人のためにならぬじゃろうと思って止めたのじゃ。
「そういえば孫策さん達は周家から資金を得て交州との交易路の整備を始めたらしいですよ」
「ほほう、なかなか良いところに目を付けたの」
交州に向かう道は酷道であり、その上、敵対的な異民族までおるので吾の商会、裏商会をもってしても苦労しておる。
一番の問題は中央に近い南荊州が完璧に吾の支配下ではないことじゃな。
異民族を説得するにしても戦力が必要じゃし、戦うとなればなおのことである。しかし領主以外が兵士を集い、戦をするとなれば注目されるじゃろうし、問題にもなるじゃろう。表にしろ裏にしろ、商会が戦えるような存在であることはあまり知られたくはないからのぉ。
それを孫策達が買って出てくれるというのは吾等にとっても利益がある。そして吾等に利益があるということは孫策達にとっては大きな利益になるということじゃ。
お互い利益になるなら協力しあえる……こともあるじゃろう。
まさか利権独占なんて考えておらんじゃろうな?周瑜は優秀じゃし、そこまでせん……はずじゃ。