第百九十六話
何やら劉備達が華琳ちゃんと同盟を結ぶことを考えておるようじゃ。
まぁ半ば予想通りではあるがな。
既に大勢は決しておるしのぉ……というか、なぜ民の笑顔のために戦っておる者が吾に刃向かうのじゃ?これでもそれなりに統治は上手くやっておるつもりなんじゃが……漢王朝も潰しておらんし、そもそも帝などになったら面倒……いや、蜂蜜片手にゆっくりできるならそれも一つの選択肢にはなるかもしれんが。
華琳ちゃんは覇王様であるから大義とか関係なく、中華を治めるのは自分だ!という傲慢な理由からじゃから最初から論ずることにはならんがな。
宗教の聖戦と個人の我儘による戦争とどちらがマシなんじゃろうな?
それはともかく、華琳ちゃんも独力で吾に簡単に勝てるとは思うまい。なにせ吾は司隷、北荊州、揚州、徐州、豫州を有し、同盟として幽州の公孫賛、涼州の董卓、并州の劉虞とほとんどが吾についておる。
まぁ華琳ちゃんが本気を出せば公孫賛や劉虞ぐらい一蹴できるじゃろうが、その瞬間に逆賊認定で吾が本格的に動くことになるので安定していない自領を抱えながらの連戦となるとさすがに荷が重いじゃろう。
一応、空白地帯の青州があるが……あそこは史実通り黄巾党(盗賊系ではなく、一揆系)が根を張っておるんじゃよ。
今まで忙しかったので放置しておったが、そろそろ解決せねばならんな。
もし華琳ちゃんが青州を取り込んだとしても苦戦することにはなるじゃろうがあまり情勢は大きくは変わらん。
そのような状態であるからこそ、この二つの組織が手を結ぶのは必然……とまでは言わぬが吾を打倒しようと思うならば自然な流れと言える。
もっとも密約を交わそうとする相手に知られる前に敵にバレてしまうというのは哀れじゃな。
「これで劉備さんを討つ大義は手に入れたわけですけど、どうします?」
「そうじゃのぉ」
正直、まだ手を出したくないんじゃよなぁ。
というかそもそも益州の経済をほぼ掌握しておるから取り返す必要なんてないんじゃよなぁ。戦争なんて面倒なだけじゃろ。また書類地獄になるのかや?
「……」
それに益州を攻略するとなると自然の要害を攻略するということじゃろ?一体どれだけの年月が掛かるというのか。
調略の類も特別不満があるものでもなくれば人徳と言う名の洗脳で満足に寝返らせることもできん。
「……」
…………ところで孫権さんや、先程から殺っちゃいましょう!というか殺ラナイカ!YOU、殺っちゃいなYO!っという感じを出しておるんじゃ?
「皆殺しにしましょう」
……空耳か?幻聴か?吾が思っていた以上に物騒な呟きが聞こえたような?
思わず孫権の方を向くと——
「?」
え、なんですか?と首を傾げる孫権が目に入る……うむ、その動作が可愛い。おそらく吾の聞き間違いじゃな。
「とりあえず、華琳ちゃんへの使者を全て刈り取っておくのじゃ。まだ内乱が収まって間がないのであまりことを大きくしもうては魯粛の名に傷がつくからの」
「わかりましたぁ」
吾の名ではないからか、七乃からはやる気のない声が返ってきた。
七乃としてはそうかもしれんが、今の漢王朝は一重に魯粛の名によって安穏が保たれておる状態じゃ。
吾?吾は巷では無害なお飾りじゃと有名じゃよ。
後、とても可愛いという噂も流れておるぞ。全く誰じゃ、そんなことを言ったのは……まぁ七乃が犯人なのじゃがな。
……虚しいのじゃ。
凄く、凄く困ったことになったのじゃ。
何が困ったかというと——
「袁術様、これをお受け取り下さい」
今、眼の前にいるのは朱儁じゃ。
そして吾に差し出されたのは一つの書状……そこにデカデカと書かれる三文字の漢字。
退
職
届
「それは吾の仕事ではなく魯粛か七乃の仕事じゃろ」
「魯粛様と張勲様は忙しいお方ですので袁術様からお渡しくださればありがたく……」
嘘を申すな。
確かにあの二人は忙しいことは忙しい。紛れもない事実じゃ。
しかし、吾にこれを持ってきたのは別の意図があってのことじゃろ!
そもそもあの二人に持って行っても受理されんからまだ騙しやすそうな吾に渡したことを受理したという既成事実化する気じゃろ!!
「そもそもなぜ辞めたいのじゃ?」
「……働きたくないでござる」
……逆刃刀はどこじゃ?
冗談は置いておくとして、やはりおぬしもか。
いや、最近、皇甫嵩や盧植を始めとした文官達から多くの退職届が続々と出されておるんじゃよ。
おそらくじゃが、内乱が終結したこと地獄が修羅場にランクダウン……ランクダウン?……したことで思考する余裕ができたのじゃろう。そして……ナゼカ知ランガ鬱病患者ガイッパイニナッテシモウタ、ナゼナンジャロウナ。
とりあえずこんなにも抜けられると修羅場がまた地獄にレベルアップしてしまうので全て却下しておる。
というわけで——
「却下じゃ。働けニート侍」
「にーとざむらい?」
「しかし、おぬしが疲れておるのは目に見えてわかる。であるから少し休みを与えるように七乃に言っておくのじゃ」
「ありがとうございます」
ちなみにこれは予め予定されておる内容じゃぞ。
しかも、少し休みを与えるというのは食事休みとおやつ休憩を与えてやることになっておる……ん?誰も丸々一日休みをやるとは言っておらんから嘘ではないぞ?
これでも吾等の仕事がかなり増えることになるんじゃからの……身を粉にして部下の仕事を減らしてやるのじゃからなんと懐が大きい上司なんじゃろ。
まぁ……でも……これで少しでも奇声や怒声や罵声が減ればいいのじゃがな。
いや、本当に発狂する者まで出てきておるからそろそろ考えなければならないとは思っておったんじゃぞ?
でも、吾等も発狂しそうな瀬戸際におるからフォローできなかったというか……まぁ所詮言い訳にしかならんか。
ちなみに後日、大規模なボイコットが起きかけたのじゃ。