第百九十八話
バラマキ政策、マジで実施したのじゃ。
もちろん魯粛や七乃を始めとした官僚達に丸投——ごほんごほん、相談したので皆泣いて喜んでおったぞ。
そのおかげで割と障害もなく実施できたのじゃ。
ついでに適応期間を少し伸ばして戸籍登録することができない貧困層には長屋を構えて仕事の斡旋する形で救済することとした。
もっとも貧困層とは現代の経済格差ほど酷いものではないから深刻な問題になっていたわけではないのじゃが、やはり生活が豊かな方が皆嬉しいはずじゃからな。
おかげで民の支持率が鰻登りであるのじゃが……少し困ったことになっておるのじゃ。
なぜか民はもらってばかりでは心苦しいと多くの帝に貢物が多数贈られて来てしまったのじゃ。
「いい加減金だけでも倉が大変じゃと言うのに帝の貢物まで保管しなくてはならんとは……」
しかも……どうもこれを収入と換算した場合、黒字っぽいんじゃよなぁ。
なぜ黒字になるんじゃ?と思うじゃろ?
どうやら民が貢物を納める→運ぶのは商会だけでなく行商人や商人、その街や村の長など→普通の民が納めておるのにその運び手達が納めないわけにはいかない→しかも見栄の関係でそれらより多く納めなくては!
という感じみたいになっておるようじゃ。
いつの世も見栄は大事ではあるのは理解できるが、さすがに黄巾の乱と反袁術連合と立て続けに争乱があったのじゃからそんなに無理せんでもよいのじゃぞ?
それと商会の構成員の中にも貢物を献上した者達もおるぞ。
まぁ、貢物はあくまで帝の物であって吾等の物ではないから厳密には収支の計算にはならんがの。
「朕の好きにしていいのか?」
「うむ、良いぞ。贅沢三昧でも良いし、商会と物々交換や売却しても良いし、吾等に投資しても良いぞ」
「投資?」
「簡単に言えば金貸しのようなものじゃな。金を貸したら利子が付くというのは知っておるじゃろ?」
「利子?」
「おおぅ、さすが筋金入りの温室育ちじゃの。分かりやすくいうと貸したらその手数料が発生するという話じゃ」
「なるほど、つまり朕が袁術達に貢物を貸し与えればその手数料を貰えるということか」
察しが良くて助かるのじゃ。
「これは庶民と商人でもできそうであるな。……いや、よほどの信頼関係と才が無い限り難しいか。それこそ袁術や魯粛のように」(間違っても張勲には任せる気にはならんな)
「本当に察しが良くて説明の手間が省けるのじゃ」
「しかし、これは国で行えば緊急時の資金を無理なく集められるのではないか?何か証明書のような物を用意すれば……ああ、しかし、偽造が出て来るか。それも外部の偽造ではなく、発行する側が行う可能性が……」
なんか前世の知識抜きで普通に国債を生み出されたのじゃが……もしやこやつ、天才か?しかも、ちゃんと問題を理解しておるようじゃ……しかしのぉ、あまり有能なのも困るんじゃよ。
「どうして?」
「あまり帝が有能過ぎると吾や魯粛を排除して本当の意味で漢王朝を復活させようとする者が現れかねん……しかし、それが世のためになると思うか?」
「なりませんね。今の政は袁術や魯粛の資金で動かしています。それが無くなればたちまち政策が滞り……それどころか商会まで機能不全を起こせば全土が地獄になります」
「うむ、現実をよく見た意見じゃ」
「しかし、そのようなことぐらい朕の言葉が伝わる程度の人ならば察するのでは?」
そうならばいいんじゃがのぉ。世の中見たいものしか見ない者もおるし、想像を超える愚かな者もおるのじゃよ。
「そういうものですか……」
「うむ、例えば、ついこの前の話じゃが、吾の眼の前で蜂蜜を馬鹿にした者がおった」
「なっ?!ほ、本当ですか?!」
じゃよな?聞き返すなんて皇族が聞き返すのはあるまじき行為と躾けられておる帝がそれをしてしまうぐらいな愚行じゃろ?
「じゃが、事実じゃ」
「信じられません。そのようなことするぐらいなら朕の悪口でも言った方が幾分か理解できるぐらいです」
いや、さすがに帝よりは言いやすいのではないか?もっともどちらにしても楽に死ねるとは思わぬことじゃが。
「さて、本題じゃ。この愚か者は何を思って吾の前でそのようなことをしたと思う?」
「……家族や親族の仇、とかでしょうか?」
「はずれじゃ」
「では、先程言ったような漢王朝を再興」
「はずれじゃ……と言うか吾が始めたことじゃが絶対当たらんから答えを言うぞ。昔、蜂の巣にうっかり近づいてしまって群れで襲われたそうなんじゃ。そしてそれから蜂を毛嫌いしておって、吾が蜂蜜好きであることから我慢しておったそうじゃが、ふとした拍子に我慢の限界が来てしまったということじゃ」
「それは……」
「なんとも愚かな者じゃ。そこは刺してくださりありがとうございますと感謝するところじゃろ」
「」(えー)
「このように想像もできぬことをするのが人という生き物なんじゃよ」
「そ、そだねー」
「ん?……何やら最先端を行く訛りが聞こえたような……まぁそのような理由であったら軽く拷問してやった後に安らかに眠らせてやったのじゃがな」
「」(え、これってどっち?殺したの?それとも文字通り寢らしてあげたの?!聞きたいような聞きたくないような!!??)
「ちなみに永眠じゃぞ」
「」