第二百一話
「バラマキ政策って……何処の地域振興券だよ。配ってるのは商会券みたいだし……もしかして俺にみたいに……」
この時代にあまりにも合っていない政策に一刀は自身のような、現代からやってきた人間がいるのではないか、という疑念を抱いていた。
そもそも反董卓連合が結束されず、連合の対象となったのは袁術公路という、史実では董卓と並ぶほど残虐な脳筋、演義やゲームだと蜂蜜でネタにされている存在だ。
史実において一時期は袁紹、袁術という袁家の二派閥が天下に最も近かったというのは一刀も知っていたが、さすがに本来いる人物だけでは魏呉蜀の三国が生まれないような結果になるとは思えなかった。
少なくとも三国の、曹操、孫家、劉備のいずれか、それとも本当に統一した司馬家が三国が建国する前に天下を取るというのなら納得できた。
袁紹ならば史実の曹操との決戦において勝利すればあり得る未来である。
だが、袁術というのは家名以外では天下を手に入れる可能性など低いと一刀は考えた。
「となると可能性があるのは俺が知っている範疇だと袁術本人、張勲、魯粛、紀霊……ぐらいか、なぜか袁術の下にいる関羽や孫策は後から合流したんだから可能性はないかな」
それに関羽や孫策なら自分自身で天下を取りに行くだろ。と付け加える。
その考え方で行くと、もっとも天の使いの可能性が高い魯粛も、わざわざ袁術の下ではなく、袁紹に仕えた方がもっと簡単に天下を取れたということを考えるとそれも怪しくなる。
「袁術、張勲、紀霊……正直、この三人の情報はあまり入ってこないんだよなぁ」
袁術本人の方針によってほぼ魯粛が名声を得ることとなっているため他の三人は充実した情報網でなければ名前と袁術の蜂蜜好きぐらいしか地方には聞こえてこないほどだ。
そもそも一刀よりも情報収集に力を注ぐ劉備(厳密には諸葛亮)や曹操ですら袁術の動向を知ることは困難である現状でそのようなことを知り得るのは本人達が漏らしたい情報ぐらいである。
「それにしてもこのバラマキ政策ってなんの効果があるんだ?」
現代なら流通貨幣を増やそうという試みであったり、子育て支援などの意味合いがあったと知っているが、この時代にそんな効果が見込めるほどの経済が成立しているとはとても思えなかった。
そもそも物々交換が未だに成立することが多い状態でそれの効果がどれほどあるのかと一刀は首を傾げる。
それも涼州のいた頃にはシルクロードの中継地点ではあったものの、商会がなく、知ることもできず、多少学があるからとデスクワークを任され、益州に来てからは領主となったはいいが、文官、官僚不足でデスクワークに忙殺されている真っ最中であり、村などに出掛けたことなど数度しかないので仕方ないと言える。
ちなみに姜維も別の仕事に追われ、まだバラマキ政策のことを知れていない。
「とりあえず、今はわかること、やれることをするしかないか」
と、軽く流してしまったことで後に自分達にもバラマキしろという民衆がデモを起こすことになるとはこの段階では思いもしなかった。
「あの蜂っ子、えげつないことをするわねー」
その一言は自身の軍師にバラマキ政策の本当の狙いを解説されて出た言葉であった。
「ああ、まさかこのような戦い方があるとは思わなかった」
さすがの周瑜もこれは想像ができなかった。
そもそも経済という概念すら怪しいこの時代にこのような戦略を使うなんて思いもしないだろう。
経済的な攻撃を行うとしてももっと単純に食糧の買い占め、荷留など、直接的に行うものばかりである。このような方法では反感はそのようなことを許す自分達の領主とそれを行っている領主に向かうため領地を奪ったとしても反感を持つ。
だが、今回のバラマキ政策は一方的にその地の領主に押し付け、支持を得る。正しく侵略行為である。
「幸い、交州との交易路開拓で金の巡りが良くなっているため、大きな動きはないが……少し経てばそれも怪しいな」
「どうするのよ。今私達にそんなお金なんて無いわよ。全く蜂っ子は面倒なことばかりしてくるわね!それで?どう対処するつもりなの?」
「民の視線を逸らし続ける。他に手はない」
結局行き着くのは不都合なことから目を逸らさせる。偉い人が考えるのは同じようなことである。
もし袁術なら蜂蜜を配るなどで対処していたことだろう。誰もが想像しやすいことだ。
「確かに交易路の開拓であまり話題になってないから効果はあるんでしょうけど……具体的にはどうするの?」
「ここは雪蓮や祭に一肌脱いでもらうつもりだ」
「あら、一肌脱いでなんて……裸踊りでもさせるつもり?!」
「雪蓮がしたいというなら止めはしないが?」
「そこは止めましょうよ?!大事な大事な君主でしょ!」
「まぁ二人にはもっと向いている仕事だから安心しろ」
そう言って企画されたのは……袁術が開催している武道大会の丸パクリと酒飲み大会であった。