第二百三話
バラマキ政策の失敗した要因は、元々バラマキ政策で民衆が調子に乗ってばら撒いた金額よりも多くの金を使うことを目論んでのものであった。
しかしじゃ、現代日本でボーナスが出た!よし!思い切って大きな買い物をしよう!などと思う人間がどれだけいるかという話じゃ。
ボーナスが十万ぐらいあればともかく、二万やそこらでは、これを生活費に当てて浮いたお金で貯金しよう!と考えるのが自然じゃろ。特にいつ終わるか分からぬ不況の真っ只中であれば尚更じゃ。
では、今、この時代ならどうなるのか……
「まさか現代日本の政治家共はこんな大昔のことを想定していたのじゃろうか?」
この時代の民衆に生活の知恵はあれど知識というものはほぼなく、更に言えばいつ死ぬかわからぬから刹那的な金銭の使い方が多いのじゃ。もちろん貯蓄する者もおるにはおるようじゃが消費量が増えておるんじゃよ。
つまり——
「なぜ金とは無くならんのじゃろうな」
全然減らないんじゃよ。
よくよく考えればばら撒いた金の消費は一番大きな商会で行われることがほとんどなんじゃよ!だから巡り巡って吾の下に帰ってくるのじゃ。
「最近、お金が呪われているんじゃないかと思っているんですよ」
……確かに、ばら撒いてもばら撒いても帰ってくるというのは呪われたアイテムと言っても過言ではないの。(錯乱)
黄金律恐るべし。
「とりあえず公共事業に——」
「いえ、それももう限界です」
「ん?どういうことじゃ孫権」
資金なんぞいくらでもあるんじゃから問題は——
「既に現在の労働者を動員し続けても五十年は必要です。これ以上は予算をいくらつぎ込もうとそもそも労働者が足りません」
「ぬぬぬ……」
資金よりマンパワーが尽きたというのかや。
「ならは奴婢をもっと買い入れて——」
「それをすると今度は農業に影響が出るようです」
そういえば奴婢は主に重労働な農作業を担っておると聞いておる。
今、大陸内の食糧事情は黄巾の乱、反袁術連合と戦が続いたことで田畑が放棄され、飢饉に陥ることはないが余裕があるわけでもないのであまり農業に影響が出れば大変なことになるのじゃ。
「ぐぬぬぬぬ……労働用の牛の増産はまだ安定しておらんのじゃったな」
馬の流行り病を切っ掛けに畜産業にも力を入れておるのじゃがそちらも芳しくはないと聞いた記憶があるのじゃ。
「まだまだ駄目駄目ですよー。仔牛さん達があまり丈夫じゃないんで数を増やすのに苦労してるようですねー。むしろ豚さんの方が多産な分だけ経験が積めるので早くものになりそうです」
やはり豚の方が早いか……しかし、豚は労働力になるんじゃろうか?牛や山羊に比べてあまり聞いたことないんじゃが。
「豚さんの多くは気性が荒いみたいで調教には苦労しているみたいですよ」
豚さんの牙の餌食になった人は結構居ます。と能天気に言っておるが結構問題あるじゃろ。
まぁ最悪は食糧にすれば良いからええかのぉ。
しかし、代替の労働力としてはあまり期待せん方が良いかもしれんな。
バラマキ政策は子育て支援も兼ねておるから来年、再来年と人口は増加傾向になるじゃろうがそれが実るのはまだまだ先の話じゃしなぁ。
ままならんのぉ。
「それよりももっと水車や手押しポンプ(吾が使っておった言葉をそのまま使っておる)脱穀機、田植え機などを増やすことに専念した方がいいかもしれません。脱穀作業も短時間で済みますし、田植えにも随分と楽になりますし、製粉を効率よくでき、用水も容易となって労働力を他に回せる余地があるかと」
しかし水車の製造にはそれ相応の技術が必要じゃし、それよりも問題なのはメンテナンスの必要性じゃ。
耐久性がどの程度かは知らんが、あまり最新技術を大量生産したくないんじゃがなぁ。何かあった時のリスクが高すぎるからの。特に構造が複雑な水車や割と精度が重要な割りには使う頻度が高くて消耗が激しい手押しポンプは、の。
じゃが手段を選んでおる余裕もないか。
「李典に開発は一時凍結、それらの増産と技術者の教育を頼むとするかの」
「李典さんが泣いて喜びそうですね」
「お嬢様のためと思えば当然です」
「そうですねー」
…………孫権さんや、いつの間にそんなに忠犬になったんじゃ?そして七乃も何の違和感もなく受け入れておるんじゃ?
なんというかこう……本当にいつから孫権ってこうなったのじゃ?