第二百五話
「お、お嬢様。ち、近いです」
「ん?おお、すまんすまん。嫁入り前の女子に失礼したの」
「いえ!大変なお点前で!」(むしろこれ以上やられると私が暴走してしまいます!)
……孫権、本当に大丈夫かや?言語機能に障害が出ているようじゃが?
最後に何となく孫権の頭をよしよしと撫でてやってから膝から降りた。
それからしばらく他愛もない会話をしていると外が暗くなってきたことに気づく。
「さて、もうそろそろ良い時間じゃし、これで解散とするか。本当は食事でも共にしたいところなんじゃがな」
ここから先は言わんでも伝わるじゃろう。
孫権と話すための時間を作るために仕事は前倒しにして、それだけでも足らなかったため後に回してもおるんじゃよ。つまりこれからまた死闘を繰り広げねばならん。
今日の食事は乾パン(もちろん蜂蜜も共に)かの。
「むしろ私がお供します」
「いやいや、わかっておるじゃろ?今から仕事が待っておるんじゃぞ?今日一日は休みを与えるからゆっくり休む——」
「私がやりたいからやるので問題ないでしょう?」
「いや、おぬしには明日からも頑張ってもらわねば——」
「問題ありません」
あ、これは無限ループの入り口じゃな。
ここまで言われて断るのも無粋というものかのぉ。休んでほしかったんじゃが。
「なら一緒に頑張るとするか」
「はい。どこまでもお供します」
まさか本当にどこまでもお供されるとは思わんかったぞ。
さすがにトイレと風呂は勘弁してください。男の娘でも男の子なんじゃよ。
さて、いつものように全国のニュース(つまり報告書)のお時間じゃ。
公孫賛のところに派遣しておった馬岱じゃが、なかなか活躍しておるようじゃ。
本当は反袁術連合が解消され、袁紹ざまぁも負けた今となってはこちらに帰還する予定であったが、公孫賛直々にもうしばらく馬岱を借りたいという申し出があって貸し出すこととなっておるんじゃが監視はもちろん続けておる。
そこでの様子はサボる様子もなく、日課の悪戯もする様子すらもなく、真面目に働いておる……しかもデスクワークも熟しておrようじゃ。
さすがに馬騰と馬超の命が掛かっておる現状ではそのようなことはせんらしい。たまについついここにいるぞー、と叫んでしまうらしいがそれぐらいは目を瞑ってやるのじゃ。
ちなみに幽州でもバラマキ政策を行ったが、さすがに悪いと思ったので費用はすべて吾持ちとした。幽州は異民族との戦いもあるし、そもそも人口が少ないので大した額にはならんのじゃよ。
どちらかと言うと戸籍処理の方が大変じゃと嘆いておるそうじゃ。
結構な人数の異民族が帰化を希望しておるらしいのじゃが……それはどうにもならん。むしろ吾達の方が手を貸して欲しいぐらいじゃからな。
人口増加……つまり労働者増加か、羨ましい。
一応幽州の街道も整備は進めておるんじゃが、あちらは異民族の侵攻などもあって難しいのぉ。本格的に万里の長城を増築、改築するか?(万里の長城は重要拠点である部分以外は馬でも飛び越えたり、簡単に壊したりできる程度の場所が存在する)
ああ、しかし労働力の問題もあるし、増築、改築したらしたで防衛、管理するためにまた人が必要になるか……ままならんのぉ。
華琳ちゃんは吾等の申し出を受け入れてバラマキ政策の負担をする代わりに商会の参入を許可したことで大きな変化があったのじゃ。
まず吾等が今まで最大の仮想敵である華琳ちゃんに張り付けておった諜報員を減らすことにした。
商会が参入した以上、そちらから上がってくる情報量が多いので人手不足を解消するために諜報員を他に回したのじゃ。
それに商会というでかい囮ができたおかげで他の諜報員が動きやすくなったのもあるの。
劉備のところは……うん、なんというか……部分的には目を逸らすことに成功したようじゃが、かなり不満が溜まってきておるようじゃ。
特に劉備自身を直接知らぬ地方じゃな。さすがに姿も話もしたことがないようでは洗脳は通じんようじゃな。当然なことなんじゃが少し安心したのじゃ。
それをほどほどに煽って火事になればよいのじゃが……諸葛亮達が手を打つじゃろうからそう上手くはいかんじゃろうが、こういうことは後々まで響くじゃろうな。
孫策達は好景気であったこともあって武闘会や蟒蛇(うわばみ)大会なるものを開いて盛況なようじゃ。
もっとも成功した一番の要因は吾等が邪魔しておらんことなんじゃがな。
こんな小さなことを邪魔するのはさすがにどうかと思って放置したのじゃ……もちろん妨害すべきだという意見もあったんじゃが……筆頭が孫権であったことが笑えぬのじゃ。