第二百七話
よく中世の話でギロチンを用いた処刑は民衆の不満を解消させるための見世物として使われておるというのを聞く。
じゃが、吾は思う。
その見世物というのは場合によっては救いがあるのではないか、と。
見世物にするということはその瞬間には間違いなく存在を知らしめ、人々の記憶の中に……もしかすると物語として残る可能性もあるじゃろう。
それは処罰として適当と言えるのかと考えた吾は、新しい罰を考えたのじゃ。
「だからと言ってこれはやりすぎではないか?」
景気よく宙を舞う首と血によって顔色を悪くしながらも帝はそのようなことを言う。
うむうむ、上に立つ者はいつも平常を装わなければならぬ。顔色が悪いのは初めてである点を考慮して減点は無しじゃ。
「族滅などよりはずっと良いじゃろ」
ちなみに罰の内容は公式記録の類に始まり、手紙、私物などの罪人に関わる物を全て焼却処分、親類が公の場で罪人の名を語ることも記することも禁するというものじゃ。つまり、この世界に存在したことを抹消するというものじゃ。
ただし、その存在を抹消するので悪名も残らぬから犯罪者の親族という風評被害(この時代なら当然じゃがな)もないからなかなか良心的な罰じゃろ?
「なるほど、親族まで考えていたのですか」
「まぁおまけ程度にはな」
もっとも親類……特に近親者からの恨みは買いそうではあるがな。なにせ形見も、贈物も全て焼却処分じゃからな。個人的には子供を焼却処分せんだけ優しいつもりなんじゃがな。
「袁術……これからはどうするのだ。とりあえず曹操や劉備等の動きを止めたのは良いがこちらもあまり動く余裕がないのであろう?」
「うむ、そのとおりじゃな」
以前から言っておるように既に割ける労力は費やしてしまっておる。
水車の製造を急いではおるが、揚水や用水、脱穀、製粉などが楽にはなるが、その分だけ農場を広げたり、そもそもかなりの労力を有する収穫と開墾作業の手間が省けていないなどの問題もあるからの。
バラマキ政策という名の子育て支援はまだまだ成果はない……いや、むしろ一年後……いや、四ヶ月が怖いことになりそうじゃという情報が入ってきておる。
随分と皆張り切って子作りを行ったようで多くの女性が懐妊となっておるようじゃがおかげでお腹が大きくなってくる頃に女性の働き手が一気に減ることが確定しておる。
少し目端の利く商いを行っている者達は今から人材確保に動き始めておるため、更に労働者不足に陥っておるわけじゃ。
幼い子供でも労働力として使うこの時代とはいえ、それが反映されるまでには後三年から四年は掛かる……ならば——
「とりあえず益州で労働力を確保しようと思っておる」
「……あそこは劉備の支配地では?それに以前から同じようなことをしておったように記憶するが」
「ところがどっこい、劉備は実効支配しておるのは確かじゃがあやつらは間抜けじゃからの。民の移動を制限するなどという不自由を行うことができるとは思えん。それに出稼ぎで得た金はいつか益州に持ち帰って来る分、変に制限するよりは利になると考えるじゃろう。それに異民族との争いが始まるということもあって逃げ出したい者達も大勢おるじゃろうしな。ちなみに以前から行っておるのとはレベル——本気度が違うぞ」
(ちょっと劉備達に同情してしまう……のは駄目なことなのであろうが同情を禁じえぬ)
「それと並行して董卓を通して羌族の受け入れもする予定じゃし、更に西の……絹の道の先からも人を集める予定じゃ」
「異民族を……異民族をそこまで入れてしまって大丈夫なのか?そもそも集まるのかも疑問ではあるが」
「さて、それは試してみんとわからんの。羌族は増える異民族というても昔から争うことがしばしばあるが良くも悪くもご近所さんじゃから問題ないじゃろうが更に遠い異民族となるとさっぱりじゃ」
「それでもやるんですか?」
「まぁおそらく上手く異民族達を引き入れたとしても後々に問題になるじゃろうな」
「え?!」
「そもそもこの漢王朝が治める地だけでどれだけの問題が発生しておると思うんじゃ。これに異民族を足してしまえばもう混沌じゃろ」
「なら止めるべきでは?」
「いや、それじゃと吾が困るではないか」
「…………」
なにやら絶句しておるが、吾、別に良い国を作りたくてこの立場におるわけではないのじゃぞ?
問題を解決したり、問題があちらか寄ってきたりしてきた結果が今に過ぎん。平和に蜂蜜と七乃達と戯れておる生活が理想なのじゃぞ?
こんなブラック企業界最強のブラックさを誇る職種をいつまでもやりたいわけなかろう。
「それに今更一つ二つ問題が増えたところでどうせ混沌としておるし問題なかろう。それも歴史の一つじゃよ」
それにこの世界のヨーロッパ圏がどうなっておるのかという情報も欲しいしのぉ。
史実じゃとヨーロッパ圏の覇者は古代ローマなはずじゃし、絹の道からの情報でもそうなっておる。しかし、やはり原住民からの情報も得たいが……それは高望みすぎるかの。
そういえばヨーロッパ圏の人間の髪や肌の色はどうなっておるんじゃろ。金髪どころか赤やピンク、青など色とりどりであるし、肌の色も周瑜のように褐色もおれば董卓のように白い者もおる。となるとヨーロッパ圏の人間はどのような……ま、まさかとは思うが虹色とかハゲだったり……リザードマンとかケンタウロスとかだったり……いやいや、それってもうファンタジー世界じゃろ。剣と魔法の世界じゃろ。ないない。
あれ?そういえば、この世界って『気』なんてものがあったぞ?