第二百十六話
「むぅ……それにしてもまさか好景気が蜂蜜の生産量を落とすとは思いもせんかったのぉ」
全国的に好景気であり、労働者不足となっておるわけじゃが……蜂蜜採取は高給取りに違いないんじゃぞ?しかし、危険性が伴うから離職者が多数出ておるようじゃ。
そもそも蜂蜜は液体故に重い上に陶器で輸送せねばならんから結構気を使うし、更に皮肉なことに最大口である吾が購入できなくなってきておるんじゃよ。
実は……ぶっちゃけて言うと保管場所がいっぱいいっぱいなんじゃ。貨幣も嵩張るが蜂蜜はもっと嵩張る……こともないがの。比重的には蜂蜜の方が軽いんじゃが、さすがに食べぬ蜂蜜を購入し続けるのは問題があるのじゃ。
吾は愛好家ではあるがコレクターではない——ん?入り口の方で何やら物音がしたような……うむ、やはり護衛の影達が騒いでおるから間違いないの。
「侵入者にしては物々しさを感じんからトラブルかの?」
侵入者ではないなら気分転換に行ってみるかの。あの悲しき事件(周泰透明+紀霊暴走+孫権病む+孫権、周泰に拉致)からあまり時間が経っておらん(具体的には三時間)からお腹いっぱいなのじゃが——
「そ、孫権?!」
そこにはズタボロにされ、倒れ伏す孫権がおった。
ただし、額には『病んでる百合』、胸元には『希少価値の分からぬ愚者』、足には『尻でぶ』と書かれておるな。
「いったい……いったい誰がこんな酷いことを……」
と言いつつ犯人は判明しておるがな。
しかし……ズタボロに倒れておる姿はなんというか……うん、エロいのじゃ。落書きがあるせいでちょっと損なわれておるがな。
「お……お嬢様」
「おお、孫権!意識があるのか!」
「こ、これしきのこと……で負け……ません」
……もしやこれも周泰の計算の内なんじゃろうか?そうであったなら周泰はまだ孫権をまだ許しておるわけではないということじゃな。
まぁあえてトドメを刺す必要はない……が——
「ならば滞りなく仕事ができるの!!」
そこを突き刺すのが吾のスタイルじゃ!!どうじゃ?痺れるし憧れるじゃろ?
「ぐふっ」
「おお、孫権よ。死んでしまうとは情けないのじゃ」
(((お嬢様がとどめを刺したんですけど)))
ちょっと遊びすぎたかの?……事実しか言うとらんがな。
「気付け薬とお湯を持ってまいれ、後、孫権を吾の部屋に運ぶのじゃ」
「「はっ!」」
「あ、それと空いておる者は孫権の仕事を代理に——って誰もおらんなっておるじゃと?!」
いつの間に……それほど仕事が嫌なのかや?……嫌じゃな。影達も吾の護衛が休暇というハードスケジュールじゃからの。
「仕方ない。孫権には頑張ってもらうとするか」
吾に余裕があれば手伝ってもよかったんじゃが、既に今日明日明後日ぐらいは完徹が決定しておるからのぉ。ちなみにこれ……悲しいけど希望的観測で、じゃからの。
「さて、頑固な墨汚れを落とすとするかの」
寝ておる相手にするのはちょっとセクハラを通り越して犯罪者っぽいが、まぁ腹をうにゅうにゅされた仕返しじゃから問題なかろう。
影がお湯を持ってきたら退出させて吾だけにする。さすがに孫権もこのような姿をいつまでも見られたくはなかろうしの。
「…………おかしいのぉ。なぜ落ちぬ?」
肌に墨がついたとしてもこれほど落ちぬはずは……手洗い用の石鹸(まだ研究段階で効力がイマイチ)ならば……落ちぬぞ?どういうことじゃ?
「まさか、これは墨と見せかけた別の何かなのかや?!」