第二百十七話
孫権に刻まれた悪戯書きは結局三日ほど消えず、泣きながら周泰に謝罪することでなんとか消えることとなった。哀れな。
周泰にあのインクが何か聞いてみたところ、どうやら周家に伝わる秘伝のインクらしく詳細や製造方法は聞けなかったが、インクとインク消しをいくらか譲ってもらったのじゃ。
あ、それと周泰の透明現象なのじゃが、自然と解決したぞ。
猫猫喫茶で吾が猫と戯れておると、嫉妬かお猫さまにガン無視され続けた悲しみ故かは知らぬが周泰の何かが爆発していつの間にか存在感が復活しておったのじゃ……もっともその爆発のせいで猫猫喫茶におる猫がビビって近寄らなくなってしもうたがの。
そのせいで絶賛落ち込み中で仕事が手に付かないというのは問題じゃがな。機嫌を治そうにもあの猫狂信者がその信仰を捧げる対象に嫌われるという事態をどうやって治せというのじゃ。
それに吾にはそのような余裕はないのじゃ。
なにせ、孫権の処理能力が一時的に低下した上に、悪戯書きのせいで恥ずかしくて人前に出れなくなってしもうたからのぉ。それを処理するのに忙しいのじゃよ。
「というか……少し前より仕事が増えておらんか?」
特に新しい仕事を増やしたわけでもないし(というか増やせない)、動員人数を減らしたわけでもないはずじゃが?
と思って調べてみたら雑用係——ではなかったのじゃ、文官が三分の一ほど原因不明の病で倒れてしまったようじゃ。
症状は目の下に隈ができ、意識が朦朧として、目を閉じると意識が遠のくというのが共通点で、中には明らかに異常なハイテンションな者もおるそうじゃが……なんと奇怪な病じゃ?!サボらずとっとと働け!!
そういえば無駄に労力が割かれておる仕事がある。
それは……引き抜き対策としての監視じゃ。
まぁここは自他ともに認めるブラックな職場であるため結束がゆるい。具体的には給料ではなく、休む時間を欲しておる者が多数居る。
そのことを知っておる華琳ちゃんから引き抜き工作が行われておるのじゃよ。
いくら華琳ちゃんの諜報員の取り込みをしておるとは言っても全てを掌握しておるわけではないし、何より表立って敵対すると戦争になってしまうのである程度は見過ごすしか無いのじゃが、完全に放置しておったらあっという間に蛻(もぬけ)の殻となる自信があるので護衛という名目の監視をつけておるんじゃよ。
「こちらの引き抜き工作は実を結ぶ気配もないしのぉ」
華琳ちゃんのところは末端はともかく、中層以上の立場の者は華琳ちゃんのカリスマによって忠誠心が高いので難航しておる……というか、こちらの情報が引き抜かれている気がするのじゃ。
劉備のところは……うん。
孫策のところは……うん。
公孫賛や董卓や劉虞は既に従属関係じゃし……ん?いや、劉虞のところに正式に打診してみるというのはありかもしれん、か。
劉虞とは名から分かる通り、帝と同じ劉家、つまり皇族じゃ。何処かの宗教団体の教祖とは違って正統な、の。
そして皇族の周りにいる者達はエリートであるため、都務めというのは魅力的に映る可能性が高いのじゃ。実情を知られておらんならば、じゃが。
失敗しても特に損は……ああ、無駄に人を割くことこそ損か……残念ながらなかったことにするか。
「そろそろ本格的に司馬家への勧誘も視野に入れねばならんのぉ」
三国志といえば劉備、曹操、孫権、諸葛亮、周瑜、そして司馬懿じゃろ。(光輝的に)
今まで話題に上げてこなかったことに不思議に思っておる者もおると思うが、司馬家というのはかなりの名家じゃ。
どれぐらい司馬家が名家かというと、袁家が名家で四世三公を称するが、三公の一つである大尉は前身の名前を大司馬という役職であった……名を見たらわかると思うが大司馬は司馬家から由来されたものである。
ちなみに大尉や大司馬は軍事面を司る職である。