第二百十九話
「ということなんじゃが心当たりはないか?」
「そうですね……蒋済さんが確か司馬家の次男と交友があったと記憶しています」
おお、交友関係まで把握しておるのか……さすが魯粛じゃの。
そして蒋済か、本来なら三国志で三つ巴が成立した後に活躍した人物……のはずじゃ。記憶が正しければの。随分この世界で生きておるから前世の記憶も劣化しておるから自信はないがな。
もっとも華琳ちゃん……この場合曹操というべきか……の息子である曹丕が従姉妹で存在しているあたりで微妙な知識じゃがな!
……もしや華琳ちゃんが百合百合し過ぎて子供が生まれんフラグかや?
「ふむ、まずは其奴に話を聞いてみるかの」
「無理」
「間髪入れんのぉ」
「そりゃ袁術様の脅——ゴホン、お願いですからできれば叶えたいのは山々なのですが」
今、脅迫と言いかけたじゃろ?失礼なやつじゃの。ちょっと仕事を増やすかもしれぬと言っただけではないか。ちなみに少しというのを具体的に言うと吾の一日分程度じゃ。ほれ、大した量ではなかろう?もっとも蒋済は吾が真面目に働いておることを知らんから口にはせんがの。
「一体なぜじゃ?吾と直接的には司馬家と縁がないとは言え、袁家とはそれなりに付き合いがあると聞いておるが?」
それなら袁家の伝を使って司馬家とコンタクトを取ればいいと思うかもしれんが……あの袁家じゃぞ?良く言えば灰汁が強い者達ばかりじゃからそのような不安定な者を使う気にはとてもならん。
「いえ、司馬家が、というか……仲達のやつを仕官させるのが無理というか……」
「む?どういうことじゃ?」
「あいつ、『働きたくないでござる!』というのが口癖なんですよ」
…………これは吾と同じ転生者…………なんじゃろうか?それともネタか?
「他にも『働いたら負けかなと思ってる』とかありますね」
やはり転生者か?いや、しかし、恋姫の世界じゃからこのようなネタが仕込まれておっても不思議はないはずじゃ。阿蘇阿蘇などいい例じゃしの。
しかし、こう言ってはなんじゃが能力に疑問を持ちたくなるのぉ。
「ああ、仲達は能力に関しては一流です。性格には問題がありますけど司馬八達は伊達ではありません……でも、そうか、あいつを引き摺り込めれば、その分だけ私の仕事が減るのか」
とブツブツ呟く蒋済の姿に、ああ、やはりこやつも追い詰められておるんじゃなぁと改めて思う。
楽をさせるな、皆で苦しめば怖くない!を標語とするかのぉ。ブラック企業らしくてよいじゃろ?
まぁ正直なところ司馬懿が転生者であるかどうかなどどうでもいいんじゃがな。吾等と敵対することがなく、仕事を全うしてくれれば、の。
「ふむ……おぬしの友が無理ならば司馬八達の誰かを引き入れることができぬか?そんな仰々しい名で呼ばれておるほど有能なら魯粛も随分と助かるじゃろ?魯粛のためと思うて頑張ってくれんか?」
「う〜ん……多分司馬朗姉さんならなんとか……」
「そうか、なら説得を頼むぞ」
「わかりました……ところでこれ、魯粛様の許可は?」
「心配線でもとってあるぞ。あ、それと説得に金子が必要なら金蔵から取り出してよいからの」
「御意——」
「十までの」
「は?」
あの程度の金額で有能な人材が手に入るなら安いものじゃ。
「え、っと、その……十って、あの私の家より大きい蔵を、ですか?」
「うむ、あれは吾の私物じゃから自由に使ってもらって構わんぞ。あ、少々なら懐に入れても良いが、そのまま貯金しては駄目じゃぞ?しっかり何かに使うんじゃ」
「い、いえ、私はそんなに困ってませんので……というかあれって袁術様の私物だったのか?!」
「全てではないがの」
そういえば金蔵に関して誰かに話したことはなかったのぉ。七乃達は当然知っておるが……それ以外だと誰が知っておるじゃろ?甘寧あたりは知らなかったかもしれんな。
金蔵を守っておる守兵ですら政府か朝廷か魯粛の商会の資金程度に思っておるじゃろうな。
「……」(それって……現在行われている予算全てが袁術様の資産で賄われているということですか?!)
「では頼んだぞ〜」
「御、御意っ!」
この日からなぜか蒋済が吾に対して礼儀正しくなった……一体何故じゃ?吾がしたことなんて、いらん口出しした程度じゃろうに。