第二百二十話
「嫌だ!働きたくないでござる!」
「またそんなこと言って……」
「引き篭もって片手に本!片手におやつ!これこそ至高!」
「太るわよ」
「大丈夫、いくら食っちゃ寝しても体重は食べた量以上に増減したことなんて無いから!」
(こいつ、殺ってしまおうか)
只今司馬懿の説得に絶賛苦戦中の嫉妬激燃え蒋済生中継である。
(というか私が机の前で延々と終わらない苦行に取り組んでいる間に優雅に読書?減刑しても死刑待ったなしだね!)
自分の苦行と体型の不変という二重の意味での嫉妬と八つ当たりで死刑執行書に速攻で迷わずにサインした蒋済は司馬懿をこちら側(地獄)へと引き摺り込む手段を模索する。
しかし、その思考も目の前に存在する司馬懿にイラッとしてまとまらず、仕方なしに一度帰って冷静に陥れる方法を考えることとした。
だが、蒋済は家に帰って考えてもいい案がなかなか思いつかずにいた。
(性格はあんなだけどあの頭の中身は本物、生半可なことじゃとてもじゃないけど説得できない……)
ちなみに最初の話では司馬懿の姉である司馬朗を勧誘することになっていたが、一人でも多く勧誘できれば一年間仕事を減らすという袁術が条件を追加したことで蒋済は司馬懿を勧誘することができれば、いつまでも無職で引き篭もっている司馬懿に頭を悩ませている司馬家の者達を引き入れることも容易と思い、司馬懿から説得を始めたのだ。
ついでにいうと全く成果がなかった場合は死を覚悟せねばならなくなる。まぁいつもどおりと言えばいつもどおりだが、仕事が現在の倍増する。
ハイリスク・ハイリターン、蒋済は不退転の決意を持って事にあたっている。
「……よし、これでいこう」
「蒋済よ。任務ご苦労じゃったな。それにしてもよく司馬懿を説得することができたの」
「金を積みましたから」
「?金で動くようなたまではないと言っておったじゃろ?」
「ええ、普通では動かないので少々乱暴な使い方をしました」
ふむ、一体どれだけの金額を使ったんじゃ?いや、もしかするとあの金を元手に更に増やしてそれを……いやいや、そのような金が動いておれば魯粛当たりが報告してくるはずじゃし、何よりこのような短い時間では増えても知れておるはず……となると……どうやったんじゃ?
「だから金を積みました」
「んー……いっぱい積んだのかの?」
「ええ、いっぱい積みました」
「なら金で動いたということじゃよな?」
「いえ、意味的にはあってますけど意味的には違います」
いったいどういうことじゃ?
「私は考えました。働く気の無い者を働かせるにはどうしたらいいか、を」
「ふむ」
「物で釣る?残念ながら司馬家はほとんどの物を手に入れることが可能ですので現実的ではありません。説得?そんなもので心動くならずっと前に引きこもりを脱却出来ていたはずです」
「そのとおりじゃな」
「ですから私は——金を積みました」
「んんん??」
「ですから金を積んだんですよ」
「…………もしかすると言葉通りの意味か?」
「はい。延々と金を積みました。司馬懿の身体の上と部屋全てに」
つまり、金で部屋を埋め尽くした、と…………これって説得と言うより脅迫ではなかろうか?
そのような強引な手で仕官させて大丈夫なんじゃろうか、やる気がない味方というのは敵よりも厄介じゃぞ。
「それは大丈夫です。あいつ、あんなですけど約束は守ることが唯一の良いところだからな」
唯一とか言い切りおったぞ。こやつ、本当に友達と思っておるんじゃろうか。
「……あの書類地獄を前にすれば友情なんて儚いものだ」
「名言じゃの」
……あれ、それが正しければ吾の家臣全員に裏切られるフラグが立っておることになるのではないか?