第二百二十一話
裏切りフラグが気になって眠れぬ夜を過ごすこと三日……決して仕事で徹夜したわけではないぞ?
そしてとうとう司馬家が登城する時がやってきた……のじゃが……何やら簀巻きにされておる娘がおるんじゃが……まさか?
「お初にお目にかかります。儂は司馬防の長女、司馬朗伯達と申します。遅参にも関わらず多分なご配慮に感激し馳せ参じた次第にございます。こちらは儂の妹、司馬懿仲達、司馬孚叔達、司馬軌季達、司馬恂顕達、司馬進恵達、司馬通雅達、司馬敏幼達でございます」
ちなみに前世の知識としては司馬朗、司馬懿、司馬孚の三名しか知らなかったのじゃ。K○EIさんには他の兄弟は出てこんからのぉ。
司馬懿の息子の司馬昭やその息子で皇帝となった司馬炎などなら知っておるんじゃがの。そして同じくK○EIさんのところの戦国時代の野望さんの島津家を少し劣化、もしくは同等なほどのステータスに設定されておる。
つまり、魯粛、関羽、甘寧以来のチートキャラじゃな!あ、史実的には文聘もチートキャラじゃな。あまり知名度がないがの。
まぁ史実ではほぼ登場せん紀霊がチートの域に入っておるからあまり当てにはできんが……少なくとも司馬家が使えんことはないじゃろ。
「うむ、よく来てくれたのじゃ。司馬家は皆優秀と聞いておる。確か司馬八達と呼ばれておるのじゃったな」
「お恥ずかしながら」
もちろん謙遜じゃな。そんなことを思ってなどおらんじゃろうな。目を見ればわかる。そして……吾を見極めようとしておることも、な。
ただ、このような視線は別に気にならぬ。正直、吾が直々に会うほどの有名人ならば大体はこのような感じじゃ。しかし、問題は……簀巻きにされておる司馬懿じゃ。
あやつの目がの……その……死んでおるんじゃよ。姫騎士のくっ殺せ!の末路のようにの。
「ところでそこに縛られておる者……司馬懿仲達と申したか、その方はなぜそのように暗い表情を浮かべておるんじゃ?」
「働きたくないでござる!」
「菊花!!」
司馬懿がこれでもかというほどの感情を込めたあまりにもみっともない叫びに司馬朗が反射的に、おそらく司馬懿の真名であろう名を叫ぶ。
それにしもてここまでとはのぉ……蒋済からは聞いておったが、なかなかなニート侍っぷりじゃのぉ。全く褒めておらんが。
「ふむ、働きたくないのかや?」
「はい!」
「では、働かなくても良いぞ」
「え?」
「え、袁術様?!」
「ほれ、この契約書のここに署名と拇印を押せば働かんでも良いぞおぉ?!」
吾がすべて言い終わるか終わらぬかぐらいで縛っておったら縄を引き千切ってこちらに迫ってきて妙な声が漏れてしもうたではないか!というか縄を引き千切るとは一体どんな馬鹿力じゃ?!
「菊花?!駄目じゃ!それは罠じゃ!」
「話してください姉さん!私は働きたくは————」
「それに署名するとあの金の百倍以上の違約金が課せられるぞ!!」
「え?」
ちぃ、司馬まで書いておったのに……惜しかったのぉ。
これに署名してくれたなら司馬家は多大な借金を背負うことになり、司馬懿が抜けるのは痛いが他の者達を文字通り死ぬほどこき使うことが出来た……それにそれだけの借金を背負っては司馬懿も結局は働くしか選択肢がないので結果的には全員召し抱えることができたじゃろうに……本当に残念じゃ。
「あの屋敷いっぱいに積まれた金の百倍?!」
ん?おかしいの。吾が蒋済から聞いたのは司馬懿の部屋を一杯にした程度にしか聞いておらんぞ?蒋済どういう——おい、こっちを見ぬか!……まぁ常識的に考えればそれほどの金を使えば一言二言あって当然じゃからわからんではないが、予算を超えて使っておるわけじゃないのだから堂々と報告すればいいものを。
罰として仕事量は半分にする予定であったが三割減にするかの。
「そ、そんな」
再び、くっ殺の事後状態になった司馬懿の姿があまりにも哀れなので代案を出してやることにした。
「では、代わりにおぬしだけ特別に一月の仕事の分量を決め、それを早く終わらせればいくら休んでもいいようにしてやろう。そうすれば少なくとも毎日出仕する必要はないから自分の時間ができるじゃろ?」
「…………………わかり、ました」
血反吐を吐くかのように絞り出した声で同意を得ることができた。
こういう者達は己の自由な時間がなくなることが嫌だから働くのが嫌になることが多いと聞いた覚えがあったので提案してみたのじゃが、本当にそのようじゃな。
……まぁ分量までは言及しておらんからどうなるかは魯粛次第じゃがの。