第二百二十二話
「いやー、随分と仕事が減ったのぉ」
「本当ですねー。こうやって普通にお茶ができるのはいつ頃ぐらいからでしょうか。はむ……んー!!相変わらずお嬢様の手作りのお菓子は美味ですね!」
そんなこと言って、七乃は結構サボっておったことを知っておるぞ。
まぁサボってもツケは自分に回ってくるんじゃから文句はないがな。
ちなみに今日のお菓子はサータアンダギーの蜂蜜、ハニーシロップ添えじゃ。カロリーが馬鹿みたいに高いが……吾等がデブっていないあたりでどれだけの重労働を強いられておるのか察して欲しい。
「私は落ち着かないですね」
孫権よ……ワーカホリック過ぎるじゃろ。
おぬしこそ七乃ほどではないにしても少しぐらい肩の力を抜くべきじゃぞ。……と何度言ったことやら……しかし、いくら言っても治る兆しがないんじゃよなぁ
……これ、手をそわそわと動かすでない。今は休憩する時ぞ。
「ふう……久しぶりの休養ですね」
魯粛……いつもすまんのぉ。
吾等の中で一番忙しいのは間違いなく魯粛なのは疑いようもない……というより疑ったらそやつの正気を疑うレベルの過重労働じゃからな。
目の下の隈や目自体が腫れて痛々しいぞ。……あ、それはここにおる全員がそうじゃったな。ただ化粧で隠しておるだけじゃからの。
おかげで日頃は化粧なんぞせん奴らがナチュラルメイクの技術だけは向上しておるぞ。
「ふむ、これだけの時間ができたんじゃからホットアイマスクでも用意するかの」
今までそのようなものを用意しても使うような時間すらなかったからのぉ。感慨深いものじゃ。
「ほっとあいますく?」
「細かいことは気にするでない」
「気にするわよ!!」
うお?!びっくりして一瞬ビクッと跳ねたではないか!!突然入ってくるとは礼儀がなっておらんぞ。司馬懿。
それにしてもホットアイマスクに反応して入ってきたのかや?もしかすると転生——
「なんで私達が死にそうな思いで仕事してるのにそんなに寛いでるのよ!!」
違ったか、まぁ転生者や憑依者など少ない方が混乱が少なくて済むからそうでない方がいいのじゃがな。実際史実や原作を知っておる者にとってはカオスな状況じゃろうしの。袁術が天下に最も近いなど某胸に七つの傷を持つ男が出る漫画のハート様が主人公をしておるぐらいありえんぞ……二次創作だとありそうで怖いがの。
それはともかく。
「何を言っておる。七乃達は自分の仕事を終わらせて休んでおるんじゃ。問題なかろう」
「これだから働くのは嫌なのよ!いつも上は楽ばっかりして下に仕事を押し付ける!失敗したら下のせい!成功すれば上の功績!辟易するわ!」
うむ、テンプレ乙。
確かに司馬家が入ってくれたおかげでこのような時間が
しかしのぉ……残念ながらその言い分はここでは通じないのじゃ。だが、それを言って聞かせたところで意味はないし……実際見せるのが手間がなくて良いかの。
「確か魯粛、明日はいつもどおりの予定じゃったよな?」
「はい。それどころか明日から五日ほどいつもどおりです……ふふふ、司馬懿さん、明日は私と一緒に、そして私と同じ分量の仕事をしましょうね」
「働きたくないでござ——」
「ちなみに拒否した場合、課題は倍じゃからな」
「喜んでお供させていただきます!」
意外と司馬懿の扱いは簡単じゃな……というかこのような簡単な罠に掛かるとは、こやつ本当に大丈夫か?
今の司馬懿の仕事量と魯粛の日頃の仕事量では五倍は違うのじゃが……何事も経験が大事なんじゃろうな。
おそらくこの世界の司馬懿は曹操の勧誘を仮病を使ってまで断ったという話から無官ながら働きたくないニート、つまり働きたくない侍になってしまったのじゃろう。
ちなみに史実では司馬懿はこの時官吏をやっておった……はず?じゃから強引な引き抜きを拒否したに過ぎん……はず?どうも記憶が曖昧じゃがそうだったはずじゃ。……別の人ではなかったはず。
数日後、憔悴しきった司馬懿が見かけたのは当然の結果じゃな。というかむしろ逃亡の報告が入ってこなかったあたり、言動とは裏腹に意外と真面目なのかもしれんな。
でも絡まれたら面倒なので声は掛けないでおいた……のじゃが、次はちょっと残念さがある七乃や侍女にしか見えない格好をしておる孫権に絡んだそうじゃ。
司馬懿……残念な子じゃ。
そして同じようなことを七乃と孫権の下で受けて——
「……」
なぜか吾の部屋で燃え尽きておるのじゃ。
いや、確かに吾は仕事をしておらん体裁にしておるから暇じゃと考えるのも
無理はないが、これでも一応表向きでは中華で二番目に、裏向きでは一番偉い吾じゃぞ?それなのになぜ吾にそんなに気安いのじゃ?
「唯一私の考えを理解してくれそうな気がして」
……いや、さすがに働いたら負けかな、とか思ってはおらんぞ。というか、その理解者である吾をおぬし自身が殺しかけておるからな?仕事ができぬからたまり続けておるからな?