第二百二十三話
「はぁ……ここに務めてよかったと思う点はこのお菓子とお茶、それと予想していたよりも充実している書物ね」
お菓子のほとんどに蜂蜜が使われてるところだけちょっと気になるけど……って、それを吾の前で言うか?
というか司馬懿よ、いつになったら帰るんじゃ?かれこれ三時間も居座っておるんじゃが……そろそろ強引なスカウトの恨みで殺しに来ておるような気がしてきたのじゃが。
確かに主導したのは吾なんじゃが……もしそうなら的確な狙いじゃが、悪質過ぎるぞ!
「それに今月分の仕事終わったからしばらくゆっくりできるわ!!」
「うむ、愚痴が五月蝿いが仕事は速いと評判じゃぞ」
「一言多いわね!」
ちなみに魯粛の手伝いや七乃、孫権の手伝いなどはうちの四天王を嘗めた罰としてカウントしておらん。
いやー、その能力だけは本物じゃな。一度様子見をしに行ったのじゃが、じゃんじゃん投げられる仕事が瞬く間に溶けて行く様は圧巻じゃった。
もっとも性根が腐っておるがの……約束を守るあたり誠実さはあるんじゃけどな?
「しかしのぉ。ずっと、働きたくないでござる、働いているから負け犬でござる、キャンキャンでござる、と呟いておったらそう思っても仕方なかろう?」
「負け犬でござる」
普通なら勝ち組じゃと言えるぐらいの報酬を貰っておるんじゃがなぁ。具体的には十億を軽く超えるぐらいじゃ、ちなみにこれは司馬懿個人の報酬であるから司馬家全員になると百億を超えるな。
更に言えばこれ、初任給であるから来年度からはもっと多いぞ。
何処からどう見ても勝ち組じゃな!……労働環境を考慮しなければ、じゃがな。
「ちなみにじゃが七乃の給料はほぼ無しじゃぞ」
「えっ?!」
まぁ語弊があるが、七乃は欲しい物や必要な物などは全て吾が買い与えるという形なのじゃ。
本人曰く、お金をもらうより物をお嬢様から頂いた方が嬉しいです!とのことじゃな。
一応小遣いぐらいは渡しておるが給料と言えるような額ではない(というのは金銭感覚が麻痺している美羽ちゃんの意見です)……ん?これって改めて考えると子供みたいな制度じゃな。
「あ、そうだ。せっかくだから手相を見てあげる!これでもちょっと占いには自信があるのよ!」
「占い、特に手相など人と触れ合わねばできぬのに……引き篭もりが……なるほど……」
「な、なによ!なんでそんな目で見るのよ?!と、友達ぐらいいるわよ!!本当よ!!!」
必死感ワロス。
どう考えてもぼっちじゃろ。
まぁこの性格でこの有能さじゃから嫉妬されて仕方なかったじゃろう。美人さんじゃしな。
ただ、この世界の女性化した武将は大体美人さんかロリじゃから別に珍しいものではないがのー。
「あ、信じてないわね?!」
「ソンナコトハナイゾー。ウムウム、トモダチイッパイジャヨナー」
「清々しいぐらい棒読みね?!隠す気ないわね!!」
「ほれほれ、そんなことより手相じゃろ。たんと見るが良い」
「そんなことって……私にとっては大事なこと……」(ブツブツブツ)
こやつ、結構思ったことをすぐ口に出すのぉ〜。あまり良いものではないと思うんじゃが——
「やっぱり……」
「ん?なんじゃ?凶相でもあったか?」
史実の袁術的に見ればあっても不思議ではないがの。
ああ、でも管路の占いでは大陸蜂蜜に満たすという結果であったから、そんなに悪いはずはないのじゃが——
「袁術様……あなた、猫被ってるわね」
「なんのことじゃ?」
なぜ突然そんなことになったんじゃ?それとそんな有り触れたカマをかけに引っ掛かるほど初心ではないぞ。
「随分と年季が入った筆だこがあるわ。袁術様は美術にも秀でてるって話だけど、この筆の規格は間違いなく普段遣いの筆よ。それにさっきから私に帰って欲しそうにしている時にちらちらと奥の部屋を見ていたわよね?それにその部屋から時々物音が聞こえてきたわ。多分だけど、そこには魯粛様達ほどではないにしても書類が、仕事があるんじゃない?」
…………おうふ、これは少し司馬懿という人物を嘗めておったかもしれんな。
「ふふん、どんなもんよ!」
しかし、残念美人なのは変わりないの〜。
「ふむふむ、ということはそれがわかった上で長いこと居座った司馬懿は休みを返上して吾の仕事を手伝ってくれるというわけじゃな」
「……………………あ、私、これからちょっと用事が——」
「者共であえ!!であえ!!」
吾の掛け声と共に現れたのは影と周泰、そして——
『カチンカチンカチンカチン』
剣の鍔と鞘がぶつかる音が聞こえてくる。
その聞こえる方向を向くと——そこには——
「そ、孫権様?」
ダークサイドにどっぷり浸かっておる孫権がおった。
なぜおぬしがここに?というか今にも司馬懿をたたっ斬りそうな雰囲気を醸し出しておるぞ?!
「お嬢様を仇なす者には天誅を」
いやいや、仇なしておらんから——ん?いや仕事の邪魔はされたか……いや、でもそこまでじゃないからの?!