第二百二十五話
「初めてお目にかかります。私はこの根腐れ寄生虫の腐れ縁でここまで来る間に死にかけた、張春華と申します」
うむ、確かに丁寧な話し方ではあるが、少し口が悪いの。
ただし、本人は悪気はないようで、声に棘がない……うむ、また面倒そうな者が増えたの。いや、仕官するという話は出ておらんからまだ確定ではなかったか。
「うぅ、桃ちゃん酷い……」
おそらく桃というのは張春華の真名じゃろうな……ちなみにそう呟いておるのは頭にたんこぶを五つほどできておる司馬懿じゃ。
体調が回復した張春華は目にも留まらぬ速さで司馬懿の頭を何連かは知らぬが釘パンチをかましたのじゃ。
どうやら口も悪いが手癖?も悪いようじゃ。まぁ全面的に司馬懿の自業自得ではあるんじゃがな。
「うむ、吾は袁術じゃ。一応太傅を務めておる」
「え?!袁術ちゃん太傅だったの?!」
おい、司馬懿。おぬしはそんなことも知らなかったのかや?!確かに自己紹介の時に省いたような気がするが、仕官する者ならば事前に予習復習しておくのが常じゃろ?!
「この————」
ん??張春華が司馬懿をすごい目つきで睨みつけて口をパクパクと動かしておるが……声が全く聞こえんぞ??どういうことじゃ?
近くにおった七乃と孫権の様子を伺うが、その表情から察するに二人とも聞こえておらんようじゃ。よかった。吾の耳が聞こえなくなったわけではないらしい。
しかし、それとは裏腹に司馬懿の顔色が赤くなったり青くなったり土色になったりと忙しないが……まさか読唇術か?
ああ、もしかすると一応吾等の前ということで罵倒は控えてくれておるのかもしれんな……珍妙な気の配り方じゃの。
ちなみに読唇術の精度は半分程度であるというが……まぁ幼馴染ならばこのような流れはいつものことじゃろうから精度が上がっても不思議はないの。
ふむ……おお、この関係を見てデジャブがあったのじゃが、そうか、華琳ちゃんと春ちゃんの関係に似ておるのか。
まぁこちらからは付き合いが短いゆえ、そこには華琳ちゃん達のような(歪な)愛情があるかどうかは汲み取ることはできんがの。
ところで先程から司馬懿がたまにチラチラとこちらを助けて欲しそうに見ておるぞ!
→にっこり微笑んで放置。
今助けるぞ!と果敢に張春華に挑みかかる。
頑張れ!と鮮やかに見捨てる。
着々と増えておる仕事の山に取り掛かる。
蜂蜜を所望する。
うむ、司馬懿を助けてやるという選択肢が一つしかないあたり、吾の本音が透けて見えるの。
もちろん選択するのは——
にっこり微笑んで放置。
→今助けるぞ!と果敢に張春華に挑みかかる。
頑張れ!と鮮やかに見捨てる。
着々と増えておる仕事の山に取り掛かる。
蜂蜜を所望する。
にっこり微笑んで放置。
今助けるぞ!と果敢に張春華に挑みかかる。
頑張れ!と鮮やかに見捨てる。
着々と増えておる仕事の山に取り掛かる。
→蜂蜜を所望する。
「お嬢様、どうぞ」
なぜか決定ボタンを押す前に孫権が蜂蜜を渡してきたのじゃ。
なぜわかったのじゃろ?
「使用人の嗜みです」
胸を張って答える孫権……おぬし……胸が大きくなっておらんか?というか明らかに原作より大きくなっておる気がするのじゃが?元々小さかったわけではなかったが孫策よりは小さかったが、今は孫策よりも大きいのでは……いったい何がそのような影響を?
孫権と言えばお尻様であったはずなのに……まぁ別に良いがな。
ただ、周泰には気をつけるんじゃぞ。この前のこともあるし、なぜかあるものとないものでは恐ろしいほど摩擦を生むからの。科学的にはあるもの同士が噛み合ったり、ないもの同士の方が摩擦が多いのじゃがのぉ……人間とは不思議なものじゃ。
もっともあるもの同士でも摩擦(競争)は起こるがな!
「何か不穏なことを考えませんでしたか?」
「不穏なのはあそこの二人ぐらい——あ、また釘パンチが炸裂したのぞ」
「釘ぱんち?」
しばらくすると張春華は気が済んだのか、やっとこちらを向いた。
まぁ気持ちは少しはわかるが、太傅を放置してサイレント罵倒し続けるのも礼儀に反すると思うんじゃがの。
「これより私も誠心誠意勤めさせて頂きたいと思います」
「おお、司馬懿と並ぶほど優秀なおぬしが仕えてくれるというなら百人力じゃ」
「ええ、頭脳だけはあの屑と同等と自負しております。もっとも他は勝っている自信がありますが」
すごい自信家じゃのぉ。
しかし、どこまで持つのかのぉ。
「え、桃ちゃんもここで働くの?!」
「そのつもりもなくここに連れてきた塵は焼却すべきよね?そうよね?普通に考えて陛下を師事する太傅様にお目通り叶って、それ以外考えられないでしょ。低能なの?無能なの?死んじゃうの?この塵屑が!!」
「死、死なないでござる。切腹はごめんなのでござる!だから短刀を渡そうとしないでほしいでござる?!」
……うん……ちょっと騒がしくなるみたいじゃが、優秀な人材が増えたのは間違いないじゃろうな。
…………うん、やっぱりこの世界は恋姫じゃなぁ。天才は変人しかおらん。