第二百二十七話
面倒な奴らが増えたが、奴らが仕事に慣れれば慣れるほど仕事の量が減って幸せ過ぎるのじゃ。
いやー、司馬家様様じゃな。もちろん張春華もじゃ。
「とはいえ、問題がないわけではないがの」
劉備の西の異民族討伐に出撃したようじゃが……どうも吾が思っておった異民族討伐とは方針が違っておった……いや、おそらく諸葛亮と鳳統が隠しておったんじゃろうな。
主君である劉備や趙雲などの幹部にもな。そうでなければ情報網をほぼ掌握しておる吾等が読み違えるなど起ころうはずがない。
「まさか西異民族の討伐ではなく、支配に打って出るとはな」
直接動いておる劉備達自身は気づいておらんようじゃが、外から見ておるとよく分かる。異民族との交易や同盟などではなく、異民族自体を取り込んで支配するつもりでいるようなのじゃ。
まずは武力を持って異民族を打倒し、そしてその中の特権階級の者達に権力を与えておるのじゃが……その権力があまりにも特権過ぎるんじゃよなぁ。
「これ、多分間接統治の導入じゃろ」
正確に言えば分割統治かの?
イギリスの植民地経営は現地の有力者を権力者という体裁にすることで民衆の不満をそちらに向けさせ、イギリスに敵意を向けさせずに内部分裂を起こす、内部分裂したとしても権力者側はイギリスのバックアップを受けておるから負ける要素は無い、つまり問題は権力者に丸投げして富だけ巻き上げるというものじゃ。
これなら完全な統治は難しいが、国を発展させず、反抗の牙は仲間内に向かい、都合の良い労働力と富が手に入るのじゃ。
まぁ中華では昔から似たことをやっておるから不思議には思わんが……伏竜鳳雛の容赦の無さと劉備の思想との食い違いが酷いのぉ。
しかし、これの良い点はその食い違いが矛盾せん事じゃな。だって悪いのは代理統治させておる特権階級の者であって、劉備や諸葛亮達が悪いということにはならんし、劉備の自身の耳に入ってもまさか諸葛亮達がそのような画策を行っているとは思いもせんじゃろう。
それにそのような評判が立ったところで一番配慮せねばならぬ本来の民は蜀におるため耳に入ることはないじゃろう。
「なんというか……諸葛亮達は目的と手段を取り違えし始めておるな」
あの二人は平和の世を作るために劉備に仕えておったはずじゃ。吾の天下では不安で劉備を蜀で独立させたいというところまではまだ納得が出来んでもないが、それを実現するために民を苦しめておったら本末転倒じゃろうに。
まぁそうさせておる張本人が言ってはいかんことじゃろうがな。
ドタドタドタ————
ん?誰か走ってこちらに向かって来ておるな。
最近来訪者が多いのぉ。
————ドタドタドダ……
?
通り過ぎた?吾に用があったわけではないようじゃな。
ドタドタドタ————ゴンゴンゴンッ!
あ、帰ってきたの。やはり吾に用があったのか。
「入って良いぞ〜」
「お邪魔するでー」
「お、李典か。どうしたんじゃ?新しい開発予算なら既に出しておるはずじゃが」
「予算に関してはなんも言うことないで。むしろウチが国を傾けてないか心配になるぐらいや」
「そのあたりは気にせんで良いぞ」
いや、本当に遠慮せんでいいからの?開発予算は金を消費するいい口実になっておるからな。
これがなくなると逆に新たに有意義な消費先を探さねばならんからの。
「ところで……そのぶら下げられておる者は大丈夫かや?」
「おっと、ウチとしたことが……通さん、大丈夫?」
誰かと思えば司馬通ではないか。
しかし、李典と司馬通か……共通点なんぞ思い浮かばんが。
「酷い目にあいました」
病人のような青白い顔色で心配しておったのじゃが、どうやら元々このような顔色らしい。そういえば面通しの時もそんな感じであったな。
とりあえず、駆けつけの一杯ということで常備してあるホット蜂蜜と蜜パン(あんぱんのあんを蜂蜜にしたもの)を出しておく。
「あ、ありがとうございます」
「相変わらずの蜂蜜好きやな」
蜜パンを半分に割って中身を見た李典がなぜか苦笑いを浮かべておる……何故じゃ?
「それはともかく、おぬしらは吾になんのようじゃ?多少は時間ができるようになったとは言うても無為に時間を潰すのは下策じゃと思うぞ」
「相変わらず生き急いでるように見えるぐらい忙しそうやなー。話いうんは通さんのことなんや!」
「ふむ」
「実は私、李典さんのように色々開発するのが趣味なんです。以前袁術様が主催した船舶競争なるものに参加していたのですが……」
「おお、そういえばアレには司馬家が参戦しておると聞いておったが、司馬通だったのかや?!」
「お恥ずかしながら」
……あ、そうか、あの時は確か予選落ちしておったか。それはエリートばかりの司馬家にとっては恥ずかしいかもしれんの。
「ウチが作業してる時に助言くれたんよ!」
李典……嬉しそうじゃな。
気持ちはわかるがの。おぬしの発明は仕事であり、趣味じゃ。それを理解してくれる者は本当に少ない。
吾も必要とはしておるし、助言もできるが、それは知識という土台を持っておるからできることで、本当の意味で理解してやれておるわけではないはずじゃ。
その数少ない理解してくれる者……同志が現れたのなら——
「それで通さんをウチにくれへん?」
「私はものじゃないんですけど……」
この発言は当然の結果じゃろうな。
「良いぞ」
「すっごいあっさりやな?!」
「うむ、李典にはいつも頑張ってもらっておるから多少の融通はせんと罰があたるのじゃ」
それに司馬通は八達の中で最弱……というのは言葉が悪いが、あまり書類仕事に向いておらんと報告にあったしの。
発明が好きならそちらに回ってもらった方がいい結果が出るかもしれんしな。
「良かったな。通さん!」
「ええ、これで好きなだけ発明ができますよ。ヒッヒッヒッヒ」
……をい、笑い声……それに目がものすごい濁っておるように見えるんじゃが?!
も、もしや混ぜたらやばいものを混ぜたのでは?!