第二十一話
<張勲>
何やら外が騒がしいですねぇ、何かあったんでしょうか?でもお嬢様が関係してなさそうだから放置でいいか、私は今忙しいですし。
「急報!急報!」
ああ、もう、せっかくお嬢様の活躍をまとめてたのに何なんですか、そんなに私の邪魔をしたいんですか、下らない事だったら宦官にしますからね!
「そ、それが——」
なぜか兵士さんの声が若干震えていましたけど、それは私に対してなのか、それだけの事態なのかはわかりませんが任務は果たされた……そして私の短い人生の中でも最大の試練が訪れた。
まさか……そんな……いえ、私が動揺している場合ではありませんね。
早くお嬢様に伝えないと。
詳細が書かれている書簡を受け取り、さっきまで執筆していた『お嬢様の華麗なる天下統一への覇業南陽編』を片付けお嬢様を探す。
「お嬢様!お嬢様!」
探すと言ってもこの時間なら執務室で仕事してるはずですけどね。
最近は楽進さんと甘寧さんという優秀な武官が入ったので関羽さんの暇な時間が増えてお嬢様を付け回すことが増えてきてますから羨ましい……じゃなくて、お嬢様の仕事ができる時間が少なくなっている。
その影響で関羽さんがいない時はいつも仕事をしているのです。
「何じゃ騒々しい。今日は虎に追いかける夢を見て機嫌が悪いんじゃ、ふざけた事は——」
「お嬢様」
「何じゃ、いつになく真剣な表情じゃな」
怪訝そうに首を傾げるお嬢様。
いつもならお嬢様素敵!抱いてぇ!とか言ってるところですけど今回はそんな気分になれる訳がない。
そんなことを言ったりするとお嬢様に本気で嫌われてしまう。
「孫堅さんが……お亡くなりになりました」
お嬢様が友と呼ぶ二人の内の一人、孫堅さん。
真名こそ許していませんでしたが孫堅さんは知らないでしょうけどお嬢様は手助けをする為に揚州の豪族にこっそり圧力を掛けていた事からかなりの仲だったに違いありません。
「——」
お嬢様が何かを呟いたようですが私に聞こえない本当に小さい声だったので何と言ったかは分かりませんがお嬢様は辛そうな、そして後悔の色が浮かぶ。
ギリギリギリッと石と石が擦れ合うような音が聞こえてきた。
「——」
その正体はお嬢様の歯軋りでした。
いつも笑顔で元気で優しく可愛いお嬢様が歯を食いしばって怒りの形相を露わにしてます。
本当に怒っているところも可愛い……ですけど、切ないです。
そして不謹慎ですけど……孫堅さんが羨ましいです。お嬢様にこのような表情をさせるほどの存在だったのですから。
「七乃…死因はなんじゃ」
「はひっ」
何て考えてる場合じゃありませんでした。
慌てて書簡の封を開けて読んでいく。
「報告では千を超える賊に襲われた上に味方の兵士に裏切り者がいて、その裏切り者が孫堅さんを刺したことが致命傷です……ですが孫堅さんが亡くなってから分かったようなんですけど矢に毒を仕込んでいたようです。それで兵士さん達もあらかた死んじゃったようです」
「……千を超える賊に毒矢じゃと?ありえんじゃろ。場所は何処か聞いておるか」
お嬢様の切れ味がいつもより増してます。
かっこいいですよお嬢様!輝いてますよお嬢様!
「えっと江夏と盧江郡の境みたいです。……ということはもしかすると」
「十中八九主演は黄祖、台本を書いたのは劉表じゃろうな。味方の兵が裏切ったあたり揚州の豪族も絡んでいよう」
またお嬢様からギリギリッという歯ぎしりの音が聞こえてきた。
やるせなさ、後悔、怒り、悲しみ、私が今まで見たことのない感情が溢れ出ている。
お嬢様は天を仰いで目を閉じた。
「七乃。すぐに呉景と孫賁に伝えてこれからの動向を聞き、もし揚州に向かいたいと言うならば許可する。食糧なんぞも必要ならくれてやれ。それと魯粛にここに来るように伝えてたも」
「分かりました」
呉景さんと孫賁さんのお二人は孫堅さんからお預かりしている客将(人質)ですから…まだ利子すら返ってきてませんけどいいんですかね。
しかも食糧まで…別に余っちゃってますから問題はないでしょうけど勿体無い。
「ついでに呉景等には行く当てがないのなら吾が力を貸すと言っておくのじゃ。孫堅の娘は確か三人いたと思うが長女すら初陣がまだであったはずじゃ。当主がこれほど若くては揚州の豪族達に追いやられるのは火を見るより明らかじゃからな」
「そうやって借金を返してもらうんですね!さすがお嬢様」
「うむ、そういうことじゃ。では頼んだぞ」
「はい〜」
「できれば炎蓮に返してもらいたかったぞ…」
戸を閉め終わる前の隙間からお嬢様の震えた声で呟いた。
お嬢様………
いったいいつ孫堅さんの真名を預かったんですか?!と言う事はお嬢様も孫堅さんに真名を許したんですか?!
孫堅が死んだ……か。
念入りに忠告したのじゃが……やはりあの程度では防げなかったのじゃな。
正直言えば友としてもそうじゃが駒としても孫堅には生きていて欲しかった。
こっそり護衛を派遣しようかとも思うたが表立って動くわけにはいかぬ。そしてそのような任務に向いておる者は影達ぐらいしか思いつかなんだが、これから黄巾の乱が起こるのに諜報力の低下は辛いものがある上に、民が起こす乱である以上普通の兵士達すら暗殺者となる可能性があるので護衛の数を減らすのも下策、つまりどうしようもなかったのじゃ。
それにしても……やはり身近な者が死ぬのは辛いな。しかも死ぬと分かっておって対策をろくに立てられなんだ。
罪悪感が半端ではない。
今なら孫策に殺されてもいいやもしれぬ、と思うほどにな。……すまん、さすがにそれは嘘じゃ。
原作を知る吾からすれば孫家は疫病神に等しい存在ではあるが……吾自身、想像以上に孫堅のことを友じゃと思っておったのじゃな。
感情とは分からぬものじゃ、今も涙が止まらぬ……だが悲しんでばかりはおれんのが吾の立場じゃ。これからのことを考えねばならぬからの。
まずは孫堅の死の影響。
一番に影響があるのはもちろん揚州じゃな。
近々揚州に新たな州牧が派遣されるはずじゃが、それまでには当然タイムラグがある。
そのタイムラグの間は豪族達が好き勝手を始めるじゃろう。その矛先の一つが活動しておる商会じゃ。早々に引き上げるべきじゃろう。
ただ、商会に大きく依存しておる地域も多々ある……というか広い揚州の三割近くが商会が独占状態じゃ。
これが一斉撤退ともなれば混乱は酷いことになりそうじゃ。とは言うても吾にはどうしようもないからとりあえず豪族達のせいで撤退することを噂で流して豪族達の信用性を落とすことで未来への布石とするぐらいしか思い浮かばぬ。
本格的に蜂起させることも可能かもしれぬが、あまり迂闊なことをすれば劉表に勘付かれて最悪は朝敵となる可能性があるからのぉ。反董卓連合が組まれたあたりならば問題なかろうが。
そして次の問題は空きとなった揚州牧の座じゃな。
吾が孫堅の後ろ盾になっておる事は分かっておる劉表のじじいは揚州の豪族達が手を結ぶように動くか既に協力体制にあるはず、そして一気に勢力を伸ばそうと目論むじゃろう。吾の予想では既に協力しておると踏んでおる。
州牧の座に劉表か豪族達の手の者を就かせようと試みるじゃろう。いや、むしろ既に手を打っておると考えるのが自然じゃろ。
これには袁隗ばあちゃんと本家に協力を取り付けて潰すか?袁家の手の者に州牧をさせれば実質領土拡大じゃ。
まぁ、孫家の者から吾が暗殺を仕組んだのではないのかと疑われそうじゃがの。
疑う前に借金返せなのじゃ。
そしてついでに劉表のくそじじいの動きを封じる為に孫堅を殺したという流言する。
実は孫堅に妾になれなどという話があったのは調べでわかっておる。それに揚州の豪族と接触しておることも、な。
しかし証拠は手に入れれておらんから流言程度で牽制するしか無い。
世論というのは何時の時代も強く、無責任じゃからのぉ。権力者であっても到底敵わぬ……もっとも劉の姓による権威で効果は薄いかもしれんがの。
「大丈夫ですか袁術様」
おお、いつの間にか魯粛が来ておったようじゃ。
心配を掛けてしまったのぉ、本来上に立つ者がこのような姿を見せてはならんのじゃが。
涙を拭き、いつもの調子で返事をする。
「うむ、大丈夫じゃ。吾は平気じゃ。それよりも魯粛には劉表のところへ行ってもらう」
「分かりました。孫堅さんの仇の前金を毟りとって来たらいいんですね」
さすが魯粛じゃ。吾の考えておることがわかっておるようじゃな。
世論と状況証拠だけで劉表を犯人に仕立て上げ、賠償金を絞りとってきてもらおうと思っておったがお見通しじゃった。
それに孫堅を襲った賊は荊州から流れてきた賊という扱いじゃった。ならばある程度の責任は取ってもらわなければのぉ。
更に言うと吾が孫堅の後ろ盾と言うのは周知の事実じゃ。形だけであろうとなんだろうと仇を取らねば吾が、袁家が軽く見られることは間違いない。
「尻の毛まで毟りとって来て良いぞ…もちろん本物はいらんぞ?ニヤッと笑うでない。言葉の綾じゃからな?分かってますよって感じで頷いておるが本当にいらんからな。フリじゃないぞ?!」
「それでどれぐらい譲歩させますか」
おい、まさか本当に毟ってくる気じゃないじゃろうな。結局否定する言葉が出てきておらんぞ。
「関税の大幅な緩和、支店の開設の許可、鉄、銅の値下げ」
どれもこれも劉表が吾に対して行っておる嫌がらせの撤回程度じゃが、この嫌がらせが吾の利益の二割ほど影響しておるから馬鹿にならん。
……ハァ、また金を使うことを考えねばならんな。
「ついでにお米も頂いてきましょう」
「それもいいの。そうじゃ、せっかくじゃし文聘という者がおるはずじゃから引き抜いてまいれ」
「あら、袁術様も目をつけてたのね。私もいい将になってくれそうだからぜひ家臣に加えようと思ったのだけど…」
「んーではそれは本人に決めてもらうとしよう。ああ、それと劉表に揚州牧争奪戦に関わらぬように牽制してもらおうかの」
そもそも荊州を統一出来ておらんくせに他に手を出そうなどと片腹痛いわ。
ここまで仕掛けといて退くかどうかは知らぬが、もし退かねば袁家との対決じゃな。
「そうですね。揚州が荒れてこちらへ流民や賊が流れてきては迷惑ですからね。もっと優秀な方に統治して頂けたら私達の苦労も減ります…しかし私達も南陽だけで手一杯という状態ですから手出しできませんね」
金はあるのに人はない。
人というのは金で買えぬものか……あ、関羽も甘寧も三羽烏も金で買ったも等しいか。
しかし文豪ほど金で動かぬものはないんじゃよなぁ。
武に生きる者はそれを活かせる場が必要じゃが、一応腐った平和な今の世の中にそれを求めるのは難しい。
しかし文豪は探せば仕事はいくらでもあるからのぉ。そうでなければよく三国志に出てくる偏屈ジジィ達が就職できるわけがないのじゃ。
「なに、それは実家から人を出させるから気にするでない」
本当に皮肉なことじゃが孫堅が死んだ事によって原作が近づく足音が聞こえてきたのぉ。
魯粛と細かい打ち合わせを行い、すぐに劉表のくそじじいの元へ発った、袁隗ばあちゃんに根回し用の手紙と資金を送った。
資金を積んだ荷車がちょっとした軍の兵站のような規模になっておるが気にすまい。
今回の事で手を抜く気が全くないからの、劉表のくそじじいにもそれなりに覚悟をしてもらうのじゃ。
それと朱儁ばあちゃんにも協力を頼むことにしておる。政に関してはあまり頼りにならんが孫堅の元上司じゃからな。大義には役に立つ。
後、吾の本命、十常侍の方からも圧力を掛けてもらうとするかの。
宦官である十常侍が劉家に仇なすなんて……と思うかもしれんが実際はそんな事はないぞ。
ぶっちゃけた話をすれば十常侍は自分の欲に素直で、あやつらは帝と跡継ぎさえ居れば他の劉家は自分達の障害になる事はあっても利は全くない……とは言わんが疎ましい存在なのじゃ。
つまり政敵とも言える関係なのじゃが今までは劉表は荊州(しかも統治しきれておらん)という十常侍達に言わせれば田舎に引きこもっておったし、劉焉も益州という劉表以上に物理的距離があるところで王様ゴッコをしておる程度じゃから放置しておるのじゃ。
唯一劉家で影響力がある者といえば今のところ劉虞ただ一人じゃろうが今は公孫賛と共に北側の異民族の対処の中心人物であり、それがなくても人望がある劉虞ではあるが重要な違いがある。
劉焉や劉表と違って劉虞は欲がないという点じゃ。権力欲も金欲も肉欲も無い、民や臣下を思う気持ちはあるが他が無い無い尽くしで周りが支えたくなる劉備をもっと聖人にした感じの人物じゃがその聖人的なばかりに十常侍によく利用される存在なので敵対云々ではなく、良い駒扱いである。
つまり今までは劉家を十常侍が完封していたか見過ごせる範疇であったのじゃ。
しかし今回の劉表のくそじじいの動きは劉家、つまり漢王朝の影響力が強くなるということである。
それはもう十常侍にとって、いや宦官にとって面白くない行動なのじゃ。
十常侍とは揚州牧の座を争う競争相手とはなるが劉表のくそじじいに対しては味方と同義なのじゃ。
劉家と袁家で一対一でやりあうにはまだまだ時が早いからのぉ、思う存分宦官達を利用して良いところを袁家が頂く予定じゃ。
「お嬢様、お客様ですよ」
ん、七乃か、この忙しい時に何のようじゃ…って要件はもう申しておるか。
それと執務室に入る場合はノックするように言っておいたじゃろうに、また無視しおったな。
「む、そのような予定はなかったと思うが」
根回しであっちこっちに手紙を出さねばならん上に手土産の選別などもあって忙しいこの時期に来客の予定があったなら覚えて居るはずじゃが……
「孫堅さんのご息女と名乗ってますよー前触れもなく訪れる何て無礼な方ですねー追い返します?そうしましょう」
「いやいやいや、誰もそんなこと言っておらんから。普通に通してたも」
「えー…」
「何でそんなに嫌がっとるんじゃ。もしやそれほど嫌なやつなのか?」
「だってこれ以上人(キャラ)が増えると私の存在感が更に薄くなるじゃないですかー」
それは色んな意味で切実な悩みやもしれんな。
何より今回は吾等を滅ぼす内憂となる可能性を秘めておる味方じゃからな。七乃はそのあたりを本能的に感じておるかもしれん…変人(ニュータイプ)じゃし。
「気持ちも分からんではないがこのまま追い返すには孫堅に悪いではないか」
「まあ…そう思わなくもないような気がせんでもないようなするような?」
「良いから早く連れてくるのじゃ!」
「分かりましたー」
全く、自分の立場を守るために来客を断るなどと認められる訳なかろう。
しかし、とうとう来おったか、運命の日が。
孫堅の忘れ形見と思うとまた涙が出そうになるが、将来の危険分子と思うと冷や汗が流れるという何とも言えぬ複雑な気持ちになるのぉ。
ちなみに吾が客との面会の際は執務室ではなく玉座の間で応対するのじゃが執務室から遠いのが難点でな。一応防衛の観点から離れておるんじゃから仕方ない事ではあるんじゃが面倒なのじゃ。
執務室と玉座の間までは専用の通路があり、その警備は影達しか就くことが出来ないようになっておる。
そうして玉座の間に到着すると目の前には玉座がある、つまり玉座の後ろに出入り口が設置されているのじゃ
何処のドラ○エじゃ、とツッコんだ吾は悪く無いと思う。
前へ回り込んで玉座に腰を落ち着けると既に五人が階段の下…これも下座と言うのじゃろうか?とりあえず下座で良いか…下座で跪いておる。
五人中二人は見覚えがある姿、簡単に言うと呉景と孫賁じゃ。無事合流できたようじゃな。
そして残り三人の姿は別の意味で見覚えがあった。
いや、正確には生で見たことはなけれどその姿は想像していた通り…いや、想像以上の衝撃じゃった。
何を隠そう…いや、ほぼ隠れてない爆乳は男の夢、漢の夢(大事なことなので以下略)と言われる意味を、真の意味を今知ったかもしれぬ。
関羽や紀霊、魯粛も巨乳じゃが好き勝手ピンク、酒飲みシルバー、病弱インテリブラックが並んだその光景は無い者には恥辱を、求める者には夢を与えるのじゃ。
…この場に華琳ちゃんが居らんでよかった。間違いなく八つ当たりされるじゃろう。
「皆の者、面をあげい」
まさか時代劇の定番台詞を吾が言うことになろうとは思いもせなんだ。ちょっと恥ずかしいが面白くもあるのじゃ。
「呉景に孫賁よ。よくぞ戻った。無事合流できたようで良かったのぉ」
「はっ、急な謁見願いに応じていただきありがとうございます」
「その点は注意してたも、吾も色々と忙しい身故な」
「申し訳ありません」
正直割りと本気できつい謁見なのじゃ。孫堅の仇討ちは成功させねばならんから全力全壊SBL(逆らう者は・ぶっち・kill)じゃ。
まぁ本人達は知らぬから仕方ないがの。
そして吾の発言に好き勝手ピンクから怒気が漏れ、病弱ブラックから諌めるような雰囲気が伝わる。
こやつら、言葉無く会話しておるな。
「孫堅の事は本当に残念じゃったな」
そう声を掛けると五人の身体が微かに震えたのが分かる。やはりまだ立ち直れてはおらんようじゃ。
吾も声が震えそうなのを抑えるのが大変なのじゃ。
「それでそこに居る者達は…黄蓋は以前会ったが他の者は覚えがないのぉ。紹介してもらえるかの」
「これは気づきませんで、こちらは孫堅様のご息女とその親友である——」
「私は姓は孫、名は策、字は伯符といいます」
「姓は周、名は喩、字は公瑾と申します」
いやはや、分かっておったが原作より前であるから幾分か若いと分かっておったがそれでも風格があるの〜さすが小覇王。
しかし華琳ちゃんの覇気より軽いような気がするのはやはり途中退場するからじゃろうか?それとも所詮『小』覇王じゃから覇王より小物扱いなのか。
「ほほう、おぬしがあの孫策か、孫堅から色々と聞いておるぞ。勉強の時間はよく逃亡するとか最近は酒に嵌って小遣いを貰いに来る回数が増えたとか」
「母さんってば何でそんな話を——」
「武は私を超えるとか将来は良き将になるとも言っておったのぞ」
「……」
あの男前な性格じゃから日頃は口にはせんかったんじゃろうな、涙ぐむ孫策萌え〜って他の者達まで泣いておるし。
もしかせんでも吾の好感度鰻登りか?!遺言ではないが孫堅の思いを一部でも届けた吾って偉いじゃろ!褒めるが良いぞ、称えるが良いぞ、崇めるが良いぞ———炎蓮。
しんみりした空気の中皆が落ち着くのを待ち、これからの事を話すとする。
「それでおぬしらはこれからどうするのじゃ。行く宛が無いと言うなら面倒を見てやってもよいし援助が欲しいというなら幾ばくかの融通はしよう」
「宜しければ儂と孫賁は袁術様に仕えとうございます。孫策様と黄蓋様、周喩は客将として頂ければ——」
「良いぞー」
(なんか軽く見られてる気がするのは気のせいかしら)
孫策から妙にプレッシャーが来るのじゃが……なぜじゃ?今、気に障ることは言っておらんはずじゃが?
「給金は後で決めるとしてまずは宴の準備かの。準備は始めておるが何しろ急じゃったからまだ少し時間が掛かるじゃろうからまずは風呂にでも入って旅の疲れでも落としてくると良いじゃろう」
「分かりました。では後ほど」
さて、あやつらが出てくるまでに仕事を減らさぬとな。サボったりなんかすると魯粛が怖いしのー。
それにしてもいい乳じゃった。